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二章

38話 本当の願い

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     ♢

 貰い受けたアクセサリーや服を化粧箱に入れて携え、ベッティーナたちは本日三度目、ヒシヒシのもとへと向かう。

 もうとっくに日は沈み、夜になっていた。表通りとは違い裏手は明かりが少なく、辺りはほとんど真っ暗だ。

 そんな中を、手持ちのリナルドが持つ魔導灯を片手頼りにして進んでいき、路地裏の角に陣取り、二人しゃがみこんだ。

 といって、あとはプルソン任せ。ベッティーナたちは、その後のゆくえを見届ける為だけにここへとやってきた。

「……本当にあれでうまくいくのかい、ベッティーノ君」
「そのはずですよ」

もう何度目かの雑用、さらに気分の悪くなっていたプルソンだが、召喚すると忠実に従ってはくれた。

『こんなもののなにがいいんだよ、お前』

 意図はまったく理解していないようだったが、ぼろぼろになって横たわるリナルドの土人形の横手に、その化粧箱が置いてくれる。

 反応が気になったベッティーナは、角から路地裏へ慎重に顔を覗かせた――その時のことだった。

何者かに襲われたのかと思うような強い風が、背中方向から唐突に吹き込んできたのだ。

ベッティーナは身体が前につんのめるのをこらえられず、思わず目をつむってしまう。リナルドが手をすくってくれようとしたが、それも空振りに終わる。

路地裏の正面で正座するような形で崩れこんでしまった。

『……男、よこせ』

 思わず顔を上げれば、はっきりヒシヒシと目が合ってしまう。

「……あ」

 ここを訪れた男たちの身体が凍り付いていたのは、これが理由だとそこで悟った。
 路地の前に立つことで知らずのうちに目が合い、金縛りになっていたのだ。

 だがしかし、どういうわけか動けなくなってはいない。両手をついて立ち上がろうとしたところへ、

「ベッティーノ君!」

 リナルドが魔導灯を投げ出して、角から飛び出してきた。いや、きてしまったといったほうがいいのかもしれない。

 体全体をその肩で強く突つかれる。その勢いに押され反対側の角まで流れて行ってから、はっとリナルドの方を見た。

 すると、あろうことか自らヒシヒシの方へと顔を向けているではないか。

 一方ベッティーナの前には、彼の魔法によるものだろう。光の壁が作られている。

「なにをやってるんですか!」
「はは、よかった。君が動けなくなって、飲み込まれていたらどうしようかと思ってたよ。僕が今回のことには巻き込んだわけだしね」

 どうやら、もう身動きは取れなくなっているようだった。首をこちらに振り向けもせずに言う。

 その声は、いつもの底抜けな朗らかさがあるままだが、窮地には違いなかった。

 なにをやっているんだ、と思う。余計な手出しだった、とも思う。

 なぜなら、ベッティーナはそもそも金縛りにあっていない。

 それはたぶん、男のふりこそしているものの女であるためだ。

 被害者が男性に限られていることや、その過去を考えても、ヒシヒシがこだわりを持っているのは、あくまで男に対してだったのだ。

 だから、助けられなくてもよかった。
 せめてこんなふうに自らおとりにならず、天使を使って冷静に助けてくれれば、こうはならなかった。彼がもう少し頭を使ってくれれば、避けられた事態だ。

 ……そうは思うのだが。

「逃げるんだ、ベッティーノ君」

 獲物を、それも生前に求めていた最高の対象を捕まえたからかもしれない。ヒシヒシの放つどす黒い空気感は辺りに渦を巻いていた。端にいるだけで、皮膚に傷がいくほどの力である。

 被害者たちの身体中にあった生傷は、これが理由だったのだろう。
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