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二章

36話 公爵令嬢様の元へ

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直接的かつ、強い被害を出していたことを鑑みても、ヒシヒシは今日でどうにか霊障を終わらせたい存在であった。

そのため、リナルドに少し無理を言って出してもらったのは、リヴィ外への馬車だ。

「普通はこんなに簡単に人質である君を出したら、怒られるんだけどね」
「……こうなってはしょうがないですよ」

 それも、別に遠出をしてほしいわけでもなかった。

 馬車が向かったのは、リヴィのすぐ近くにあるオルラド領だ。約一刻もしないうち、ちょうど日暮れになる頃に領内へとたどり着く。

その中でも小高い丘の上に居を構える公爵屋敷前で、ベッティーナ達は降り立った。

 普通、こんな時間に訪れれば追い返されるべきところだが、そこは王子である。

「悪いね、こんな時間に急に訪ねて。今から少しだけミラーナに会わせてほしいんだけれど可能かな」
「……す、すぐに!」

一声かけただけで、警備をしていた者が立派な鉄門の中へと飛んでいく。

しばらくすると、執事が迎えに上がって、ベッティーナたちを屋敷内へと通してくれた。
 やはり、権力のある家だ。リナルドの屋敷に負けず劣らず、その作りは豪奢だ。

「悪いことをしたかな。すまないね、そう大げさな話ではないのに」

 と、大廊下を渡りながら、リナルドは案内をする使用人に声をかける。
 すると、その彼はまるでかじかんだ手足を動かそうとしているくらいぎこちない動きで振り返り、首を何度も横へと振った。

「そ、そ、そんな滅相もない! やっと、その気になってくれたのかと屋敷中お祝いムードなくらいで……って、あ、すいません、余計なことを」

 ……どうやら盛大な勘違いをされているらしい。

 だが、よく考えてみればそうとしか捉えられない。こんな夜分近い時刻に、馬車を飛ばしてまで訪ねてくるのだ。

リナルドがミラーナに会いたかったと考える方が、自然かもしれない。

空気感はともかく、二人とも年齢は近く、仲もいい。公爵家の人間が、その方向で進めたい気持ちも理解できた。
実際、ミラーナが待つ部屋の前についたところで、

「お付きの方はこちらへどうぞ。ごゆるりお待ちください。明日の朝になる場合は、ベッドも使っていただいて結構ですので」

ベッティーナだけは別室へ案内されてしまう。
 たぶん、よほど早く彼らを二人きりにしたかったのだろう。なかば無理に袖を引かれて、つっと前につんのめったが……

「いいや、この人は付き人じゃないんだ。一緒に入らせてもらうよ」

それを留めてくれる人がいた。

リナルドが間に割って入り、ベッティーナの袖から使用人の手を払いのける。それと、と付け加えて、その高い上背からその使用人を見下ろした。

「気軽に触れない方がいいよ。痛い目を見るかもしれない」

 なんて、冷たい視線を刺して言う。
 かと思ったら一転して、ベッティーナの右手をすくった。

 やっぱり狙われているのはミラーナではなく、ベッティーナ、いや男としてのベッティーノだったりして……。そんな疑念がよぎって、背筋が凍りかけるがけれど違った。

「指輪が傷ついたらいけないだろ? 大丈夫かい?」

 配慮してくれたのは、プルソンの宿る指輪のほうらしい。ベッティーナは一応右手の中指を確認し、すぐに自分の胸元へと引っ込める。

「大丈夫ですよ。袖を引かれただけですから」
「そうか、ならよかった。……それで、じゃあ案内してくれるかな」

 リナルドは、すっかり委縮してしまっていた使用人に、繕った感満載の笑顔を向ける。それにより無事二人で、ミラーナの待つ部屋へと通してもらえた。

「急でびっくりしたわよ、ベッティーノ様にリナルド様まで!」

 入ると、扉のすぐ前まで、ミラーナがにこにこの笑顔で出迎えてくれる。なにとはなく甘やかな香りがふわり漂ってきた。
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