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一章

6話 光り輝く王子との出会い

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 その人物のやってきた方角は西側、つまりは逆光だった。

しかし、その姿だけは強烈に輝く光を放っているかのように、どういうわけか浮かび上がって見える。ベッティーナの立っている場所が影に入ったのかと錯覚しそうなほどだ。

「今みたく夕日を受けると、こがね色に輝いても見える。結構気に入っているんだ。上に登れば、海を見ることもできるし、ここは中心街の光も届きにくいから夜は星も綺麗。悪くないだろう?」

艶のある白髪、透き通るような青の瞳を持つその人は、饒舌にそう語りながら、こちらへと歩み寄る。

彼は白地のシャツにシックな紺色のジャケットを羽織り、礼装に身を包んでいた。

その歩くだけで漂うオーラから、ただの役人や半端な貴族でないことは間違いない。

「名前は事前に聞いているよ、ベッティーノくん。僕はリナルド・シルヴェリ。父である国王に命じられて、君を預かることとなった。歳は君の一つ上、19だ」

「……ベッティーノ・アウローラです」

「はは。だから知っているよ。君が到着するのをこうして待っていたんだからね」

 手が差し出される。その意味を少し遅れて理解したベッティーナは、少し急いで握手を交わす。

 続けて、同行していたアウローラの役人から献上品の受け渡しが行われた。

(……よかった、気付いていない)

 ほっと胸をなでおろすのは、荷物が積まれる時にそのうちの一本をくすねていたからだ。決して、好きなわけではない。アウローラでは15から飲酒をできるが、ベッティーナは下戸だ。しかし、必要になることはあった。

「これは、ご丁寧にありがとう。どちらもアウローラの逸品ですね」

 気を取り直して、ベッティーナはリナルドをじっと見やる。

彼は終始笑顔を絶やさない。どこからどう見ても、好青年といった感じだ。


だが、決してあなどってはいけない。

このリナルドは、この国の第二王子というだけではなく、その手腕を買われ、要所であるリヴィの街の領主を任されているそうだ。

 少なくとも、ただ人のいい好青年というわけじゃないはずである。

 そうして形式的な挨拶が終わる。馬車が帰って行ったところで、ベッティーナは尋ねた。

「私はこれからここに住むことになるのですか?」
「あぁ、そうさ。すでに部屋も用意しているよ。安心するといい、僕たちは君を無碍に扱ったりはしない。勉学などの機会も与えるし、あくまで将来的にいい関係を築くため、君をここに呼んだんだ」
「……すでに何度か聞かされております」
「はは、大人しいと思ったらはっきりと物を言うのだな。そうか、三番煎じだったか。それはすまなかった。よし、こんなところで立ち話もなんだから、中に入ろうか」

 リナルドがそういえば、控えていた使用人たちが両脇から玄関の大扉を開く。

 その先に広がっていたのは、赤のカーペットが敷かれた立派なホールだ。絵画や花瓶も各所に飾られているうえ、天井中央からは大きなシャンデリアがつるされており、存在感を放っている。外見にたがわず中も立派そのものだ。

だがそれ以外に一つ、どうしても気になることがあった。

「もしかして、綺麗だからと見とれているのかい?」

リナルドが、玄関先で立ち尽くしていたベッティーナの方を振り返る。

それだけで、まるで光の粒が舞うかのようだった。装飾の華やかさと、彼の美しさは綺麗に調和していて、なんの違和感もない。


――しかし、異質なことがただ一点。

どういうわけかこの屋敷には、悪霊が漂っているのだ。

それも一匹ではなく、何体も存在している。
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