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一章 思わぬ追放
第7話 お試しレンタル冒険者、始まるようです。
しおりを挟むちょうど、おあつらえ向きの依頼がきていたらしい。
翌日の昼下がり。
俺は指定された待ち合わせ場所でミリリと二人、依頼人を待っていた。
パーティーを追放されたときには考えもしなかった展開だ。
悲しいやら、ワクワクするやらで、昨日はなかなか寝つけなかった。
パーティーメンバーと鉢合わせぬよう、宿をかえたこともある。
気づけば日がのぼっていて、目の下にはクマができた。
初仕事では最悪の印象である。
必死に消して、今を迎えていた。
しかし、そんな寝不足も、
「はい、冒険者衣装返すね。ばっちり縫ってきたよっ、私の自信作だー!」
「…………なに、これ」
あっさり吹き飛んだ。
見慣れたモノトーン色の冒険者衣装。その裾に、紫のアサガオが踊っていたのだ。
わーお。
いや、すごすぎる。若干乙女っぽいが、これは中々できるものじゃない。
「ありがとう……。びっくりしたよ」
「えへへ、よかった~。不評なら縫い直す覚悟だったから嬉しいかもっ」
それこそ、花をつけたような笑顔でミリリは笑う。
「じゃあ今日はよろしくね? やっぱりなにごともお試し、体験からだっ。今日は頑張ろう! おー!」
底抜けのパワフルぶりだった。
彼女は、腕を空へ向けて伸ばす。
昨日はあれから、二人でしばらく話し込んだ。
その中で、同い年の十八歳だと判明。一気に、俺たちの距離は縮まったのだ。
いや正確に言うなら、ほぼ一方的に詰められていた。
「あっ、ヨシュア! 刺繍の代金分、今度ご飯奢りね! たっぷりチーズな感じがいいかも。他にはチーズとか、チーズがいいかもっ」
「……チーズしかないじゃん。別にいいけど、それぐらい」
「もー、ミリリジョークだよ。もちろん、無償提供だっ! でも、二人でご飯は行きたいかなぁ」
天性の明るさ、恐るべしである。
ぐいぐい押してくる爆裂トークに俺が半ば気圧されていると、
「あの、ミリリさん、ですよね……? レンタル冒険者の」
彼女の肩口から、声がかかった。
少女は装備品である大きな盾に、体を隠すように丸めていた。
不安げなのが手に取るようにわかる。
「はいっ、あなたの想いに応えていつでもレンタル! ミリリですっ! サーニャちゃん、お待ちしておりましたっ!」
標語みたいなミリリの自己紹介はともかく。
「は、はい。よろしくお願いします。サーニャ・エスカルトです……」
本日の依頼人が到着したらしい。
基本情報はすでに依頼書で確認していた。
年齢は俺たちの二つ下、十六。魔法学校を出たての年齢だ。
今ではその数を減らしている、エルフ種族らしい。
といっても、耳が少し尖っている以外は、人と変わらない。
スカーフを結ぶことで隠れているため、尚更だ。
おっとりしているが、その抜け感がまた可愛らしかった。
「は、はいっ。まだ駆け出しなんですけど、武器は盾で、タンク職をさせていただいています……」
「うんうん、聞いてるよっ。
それで、まだパーティーを組めてないから、試しに魔物狩りへ出てみたいんだよねっ。
その心熱いっ、めっちゃ熱いよっ!」
ミリリは一人きゃあきゃあ興奮して、拳を握りしめる。
サーニャが引いているんだが……?
このままでは会話が成立しそうにもない。
「それで、今日はなにを狩りにいくんだっけ?」
代わって俺が尋ねる。
レンタルとはいえ、一時的にはパーティーを組むことになるため、あえて言葉遣いは崩していた。
この辺の交友能力も、『平均』でいるために鍛えてあった。
「あ、えっと、ゴブリンを……。その、ドロップアイテムの棍棒が欲しいんです、はい。武器の強化に使いたくて」
「ん。だったら、普通に棍棒を買えばいいんじゃ?」
下世話だが、昨日聞いた限り、レンタル代金はそれなりの額である。
「えっと、自分で倒してみたい、といいますか」
「なるほどなー。……うん、気持ちは分かるかもしれない」
自分で討伐した魔物のドロップアイテムというのは、それだけで特別に思えるものだ。
俺もはじめはそうだった。
「ゴブリンがよく出現するのは……、いにしえの丘あたりかな? そこに行くってことでいいか?」
初級者にはやや難度が高いが、ゴブリンが入ってすぐに現れるので、今回の依頼にはうってつけだ。
そうおもったのだが、少女は首を横に振る。
「その、こっち、かな。ツクヨ池のほうに行きたいかもしれません。
ゴブリンも数は少ないですけど、一応出るみたいですし、あたし、初心者なので……」
「分かった。たしかに、そっちの方が初級向けではあるな」
冒険者が訪れる数も多く、比較的安全でもある。
ドロップアイテムを入手したいだけではなく、経験も兼ねるなら、その方がよかろう。
不意に、ミリリが「よーし!!」と天井へ向かって、腕を突き上げる。
「ここが冒険者のスタート地点だね。これから頑張っていこうね、サーニャちゃん!」
「えっ、あっ、はいっ! ミリリ、さん……」
「遠慮しなくていいよ、ミリリって呼び捨てにしてね。期間限定だけど、パーティーなんだからさ♪」
ミリリがどーんと、サーニャへ体をくっつける。
引き連れるようにして、先々歩きだした。
「……ミリリはすげぇな」
呟きつつ、俺は腰にさげた刀に目をやった。
昨日の短剣とは違い、長尺のものである。
前パーティー『彗星の一団』では、リーダーのサンタナが剣士だったため、しばらく使用する機会のなかった獲物だ。
魔導師のミリリに、タンクのサーニャ。
バランスを見れば、今回の任務には刀が最適解なのは火を見るより明らか。
……と言いつつ、武器選びにはかなり時間がかかったわけだが。
前パーティーでは短剣しか使ってこなかったせいだ。
色々な武器を吟味する時間は、それだけで幸せなものだった。
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