【完結保証】幼なじみに恋する僕のもとに現れたサキュバスが、死の宣告とともに、僕に色仕掛けをしてくるんだが!?

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】

文字の大きさ
上 下
39 / 40
四章 ゲームから出てきたサキュバスのために

第33話 サキュバスは星に願う

しおりを挟む
 四


 ついに明日だと思うと、深夜になってもなかなか寝つけなかった。
天井の豆電球相手に、勝ちようのない睨めっこをする。かけていた薄手の布団を無意味に足で揺する。あんこを消化しきれず、まだ重たい腹をさする。
緊張は、少ししていた。だがそれ以上に心にあったのは、ぽっかり穴を開けられてしまったような喪失感だった。
原因は明白だ、結愛がいなくなるから。
澄鈴への告白を前にしてこうなのだから、僕の結愛への想いがなになのかは自明だった。
なずなの言う通り、自分の思った方が正解なら、澄鈴に告白をするのは間違っている。
けれど、たとえ誤りだともしても、僕は必ず成功させる必要があった。結愛を画面の向こうへ送り返すためだ。
けれども、しかし。そんな不純な告白はいいのだろうか。できるなら澄鈴をむやみに傷つけたくはないが、どうすればいい。頭には疑問符が渦巻いて、どうにも晴れなかった。
夜風にでも当たろうと、ベランダに出る。地べたに座りこんで、薄らぼんやりとした空を見上げることしばらく、

「こんなところにいたんですね」

どれくらい経った頃か、きぃとサッシが音を立てた。
ジャージ姿の悪魔が、そこにいた。

「寝込みを襲おうと思ったのにいなかったので驚きましたよ」

スマホのデジタル時計を見ると、もう夜の二時だった。知らぬうちに、かなりの時間が経っている。

「いつもこんな時間にベッド潜ってきてたの?」
「はい、ご主人様がゲームをやめて寝るのは、大体これくらいの時間でしたから」

なにからなにまでよく知っているものだ。
結愛は、僕と背中合わせに腰を下ろす。黙ったまま、僕の方へ身体を倒した。
簡単に、空だった胸が熱に溢れるからおかしい。

「たそがれちゃって、どうしたんですか。目にくま作っちゃいますよ、せっかく色々準備したのに台無しです」
「……なんだか寝られなくってさ」
「あー、緊張してるんですね」
「ううん、それはそんなに」
「じゃあ、私がいなくなるのが寂しくて、とか?」

僕の肩に頭を乗せて、ふふっと小さく笑む。しなやかな髪が、顔にかすかに擦れてこそばゆい。

「そうだよ」

率直に答えたのだが、返事はなかった。
のしかかった重さが軽くなっていた。振り返ると、結愛はいない。また少しして、ただ前より時間を要してから結愛は姿を現す。
また、僕に身体をしなだれる。

「……さっきから、結構頻繁にこうなってます。もう一日もいられないですから、仕方ないですね。で、なにか言いましたか?」
「いいや、なにも」

聞こえなかったなら、それはそれだ。泣き言を言ってもしょうがない。

「明日の夕方までは消えないんだよね?」
「はい、そのはずです。でも徐々に存在が薄れていくみたいで。名前も忘れられるんですね、なずなさん覚えてませんでした」

だから、なずなは「あの子」と言っていたのか。
理由に気づかされるとともに、結愛の心境を思って、無力な僕はぎりと歯を噛む。

「いいんです。仕方ないんですよ、そういう定めなので。ご主人様も明日になったら忘れてたりして」
「ロクでもないこと言うなよ、結愛」
「ふふっ、そうですね。あなたが覚えていてくれたら、私はそれで十分です」

忘れない、忘れるものか。もっと忘れていいことが世の中にはたくさんある。丸暗記した古典の和歌とか、そういうの。
彼女のことを覚えているためにも、やはり僕は告白を成功させねばなるまい。
偽の告白なんて、澄鈴にはひどい不誠実を働くことになるが、後から事情を話して許しを乞うしかなさそうだ。傷つけることを怖がっている場合ではない。
「……ちゃんと告白するよ、明日は」
それしかないのだが、前向きになれるものでもなかった。つい視線は足下へ、俯いてしまう。

「ご主人様、ここまでやってもまだ不安ですか? ほんとにヘタレですね。もう金曜日みたいなのは禁止ですよ?」
「分かってるさ」僕は首を短く縦に振る。分かってはいるのだ。やれないわけではない。
結愛は、素敵ですと微笑んでから、

「でもご主人様がヘタレでよかったのかもしれません、私としては」

夜空にシャボン玉でも浮かべるように、少し声を弾ませた。

「ご主人様が告白できずに帰ってきたとき、私怒ったじゃないですか。あそこまでしたのにーって。でも本当は、まだ一緒にいられるんだ、って本当は少し嬉しくもあったんです。そういう意味では、意気地無しでよかったなと♪」

結愛は僕の首筋に息を吹きかける。ぴくっと跳ねたところ、優しくキスをされた。

「ここまでしても襲ってこないなんて、よっぽどのヘタレさんだけです♡」
「う、うるさいって! 悪かったよ、ヘタレで」

ちらりと見ると、悪魔らしい意地悪な笑みをたたえている。今の僕には過度なほどにそれが可愛く映って、たぶん伝わってしまうくらい、鼓動がはやった。
もう認めざるをえない。やっぱり僕は、このサキュバスのことが――。

「あ、ヘタレだからってだめですよ。明日はちゃんと告白してくださいね。罪の告白とか友情の告白とかは、告白に入りませんから。愛の告白をして、誰かに受け入れられないとダメですからね」

え、とつい僕は声をあげてしまった。

「まさか本当にそのつもりだったんですかー」

結愛のジト目に軽蔑が篭る。そうじゃない。引っかかったのは、誰かに、という部分だ。

「誰でもいいの?」

てっきり澄鈴を相手にしなければいけないものと勘違いしていた。

「えぇ、まぁ。あ、お母さまに愛の告白はダメですよ! 家族愛もなしです」
「するわけないだろ、そんなこと。どこでなにしてるのかも知らないよ」

なんだ、ならば簡単なことだ。ついさっき答えが出たばかりなのだから。
悩みの枷から放たれた僕は、はははと高笑いしてしまう。静かな住宅街でのことだ、響いているという自覚はあったが、腹から震えがこみ上げてくる。

「いよいよ壊れたんですか、ご主人様ー」
「健常だよ、僕は。笑ったのは、そう、えっと空が綺麗だったから?」
「まぁたしかに綺麗ですけど」

結愛が空を仰ぐから、僕も見上げてみる。
さっきまで雲がかっていたのに、今は星がよく見えるくらいには空が澄み渡っていた。まさに五月晴れ。

「あ、流れ星!」

結愛が手を上げ、指差す。目では追えなかったが、僕は目を瞑って短く祈っておく。
今日こうして空を見上げたことも忘れないように、と。

「最後まで願掛けなんて、ご主人様らしいですね」
「なんとでも言えよ」
「私も澄鈴さんとうまくいくように祈っておきましたからね。きっとうまくいきます!」

結愛の願いごとを、僕は叶えない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

邪神 白猫
恋愛
見た目は完璧な王子様。 だけど、中身はちょっと変な残念イケメン。 そんな幼なじみに溺愛される美少女の物語——。 お隣りさん同士で、小さな頃から幼なじみの花音と響。 昔からちょっと変わっている響の思考は、長年の付き合いでも理解が不能!? そんな響に溺愛される花音は、今日もやっぱり振り回される……! 嫌よ嫌よも好きのうち!? 基本甘くて、たまに笑える。そんな二人の恋模様。 ※作中使用しているイラストは、全てフリーアイコンです。 ぱぴLove=puppy love を略したもので、first loveのスラングです。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】空飛ぶハンカチ!!-転生したらモモンガだった。赤い中折れ帽を被り、飛膜を広げ異世界を滑空する!-

ジェルミ
ファンタジー
俺はどうやら間違いで死んだらしい。 女神の謝罪を受け異世界へ転生した俺は、無双とスキル習得率UPと成長速度向上の能力を授かった。 そしてもう一度、新しい人生を歩むはずだったのに…。 まさかモモンガなんて…。 まあ確かに人族に生まれたいとは言わなかったけど…。 普通、転生と言えば人族だと思うでしょう? でも女神が授けたスキルは最強だった。 リスサイズのモモンガは、赤で統一された中折れ帽とマント。 帽子の横には白い羽を付け、黒いブーツを履き腰にはレイピア。 神獣モモンガが異世界を駆け巡る。 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...