19 / 40
二章 幼なじみ攻略作戦スタート!
第18話 サキュバスちゃんは奥の手を発動する
しおりを挟む♢
六限の体育は、サッカーだった。
うちの学校は、グラウンドが狭い。女子が試合中は、男子は待機になる。喧しく雑談に興じる男どもの端、僕は一人、ひそかに葛藤していた。
原因は、「奥の手」である。
結愛は、それが何を指すかを教えてくれなかった。唇に指を当てがって、秘密だから奥の手なんです、と悪徳政治家みたいな答弁をするのみ。
どうせろくなものではない。そう感覚的には理解しつつも、昼休みは上手くいきかけたという妙な希望もあって、強くは制止できなかった。
僕が俯いて考え込んでいると、気づけば妙に男子の応援に熱が入っている。
試合に目を移して、驚いた。結愛と澄鈴がコートの真ん中でボールを挟んで向かい合っている。
「ウチ、運動は自信あるんよ。テニス部でも一番手やし」
「私、苦手ですけど澄鈴さんには勝てますよ? ちょろいから」
「ち、ちょろない! あんたが狡猾なだけや」
なにやってんの、あの二人。チームゲームで、まさかのワンオンワン?
まだ競り合っていたとは。
しかし、こればかりは力量の差が歴然だった。テニス仕込みだろう機敏さ、澄鈴はさっと結愛を交わすと、ひらりと反転。敵陣のコーナーまで駆けて、斜めの角度からゴールネットを揺らす。称賛に値する活躍だった。
「結愛ちゃん、負けないで」
「走って! もっと走って! どことは言わないけど、揺らして! もっと揺らして!」
しかし、むさくしるしい歓声を浴びていたのは、結愛の方だった。
「ご声援いただき、感謝します♪」
試合が再び始まっているにも関わらず、右足をちょこんと跳ねさせて、サキュバスは悩殺ポーズを決める。
これが試合に勝って、勝負で負けたというやつか。不思議と納得してしまった。
しばらく見ていると、試合終了のホイッスルが鳴る。女子と入れ替えで、僕はコートに入った。
運動が特別苦手なわけではない。球技は得意分野だから、目立つことだって出来るだろう。
ただ例の「奥の手」のことがあったから、僕はボールを追う振りに徹した。もしボールに触れて、なにかあってはまずい。事件を未然に防ぐため、影に徹するというわけだ。
いわゆる黒子。なんか格好よくない?
「別所、頼んだぞ!」
悦に浸っていたら、コートの中盤、悪意のないパスが僕の元に転がり込んできた。
しまった、思いつつ結愛に視線をやると、
「光男さん、頑張ってください♪」
甘ったるい声とともに、またウインクがある。彼女からは、しでかてやろう、そういう気が立ち上っていた。
すぐに誰かに回そうとするのだけど、なぜかボールが靴から離れない。プロサッカー選手の美しいドリブルの例えではない、本当にぴったり、高密着、つま先から離れないのだ。どうやら既に「奥の手」が発動しているらしかった。
さすがに立ち止まるわけにはいかず、ゴールの方へ走る。
「なんだよ、あいつ!」
ボールを奪いにきたクラスメイトは、僕の半径三十センチ圏内に入ると、ことごとく弾かれるように倒れていった。僕の足の周りに、結界のようなものが貼られているようだ。
「きゃあ、光男さん格好いいですよ~!」
あの悪魔、無茶がすぎるだろう。
こんな芸当ができれば、バロンドールとて難しくない、日本のオリンピック優勝だって一人で導ける。
誰も寄せ付けぬまま、ゴール前まで上がってきた。
こんなせこい手で試合を決めていいものか。一般常識として、公平なゲーマーとして、まだ躊躇いがあったのだが、澄鈴が僕を見ているのに気づいて、腹が決まった。
右足を後ろへ振り上げ、シュートの体勢に入る。途端、異能サッカー漫画よろしく、僕の足が小さな風を纏い始めた。
「光男さん、あとは蹴るだけですよ~! ちょん、とやっちゃってください!」
どんな効果があるのかは知らないが、明後日の方向に蹴っても、謎の引力が働いて、たぶんゴールにはなるのだろう。
キーパーは吉田くんだった。
クラスの中心人物にして細身のイケメン、そして僕が今仲違いをしている存在だ。別にその容姿に嫉妬して、争いたいわけではない。ただ、
「澄鈴はオトコ女でもなければ、可愛い気だってあるし、たしかに胸はないけど、魅力たっぷりだろうがー!!!」
個人的に彼に腹は立っていた。僕は力任せに叫ぶ。
半月ほど前、与太話の中で出た発言とはいえ、澄鈴を馬鹿にされたのだ。些細なことかもしれないが、僕には許せないものだった。以来、彼とは険悪になって、それと同時に取り巻きの男子たちとも疎遠になった。
怒りを乗せて、僕は渾身の力でシュートを放つ。ボールは吉田くんめがけて真正面に飛んでいって、受け止めんとした彼ごとゴールネットに突き刺した。
そのうえ、辺りに竜巻風が起こる。
制圧。この二文字がぴったりの状況だった。試合だけではない、校庭全域だ。
男子も女子も屈強なはずの体育教師まで吹き飛ばされ、地面に転がっていた。無事なのは、僕とこの荒業の仕掛け人だけだった。
「すごいですね、光男さん♡」
「いや、やりすぎだろ。どう考えても!」
魔力があがりすぎるというのも困りものだ。
「えぇそうですか? なんだか今朝からみなぎっちゃって。でも、やったのは光男さんですよ。あそこまでしなくたってよかったんです」
結愛は、ネットに絡まって伸びている吉田くんを指差す。うん、まぁこれは然るべき罰だからよしとして。
「ねぇ結愛。澄鈴は」
探すまでもなく、彼女は僕のちょうど目の前で倒れていた。
あられもない姿になっていた。体操服の上は捲れ上がって、ズボンも少しずり落ちている。ほっそりした弧を描く綺麗なウエストラインの上、下着は水色、柄なし、それから──
「前ホックで悪いか、光男のアホー!!」
そんなことは、言ってない。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
僕(じゃない人)が幸せにします。
暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】
・第1章
彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。
そんな彼を想う二人。
席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。
所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。
そして彼は幸せにする方法を考えつく――――
「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」
本当にそんなこと上手くいくのか!?
それで本当に幸せなのか!?
そもそも幸せにするってなんだ!?
・第2章
草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。
その目的は――――
「付き合ってほしいの!!」
「付き合ってほしいんです!!」
なぜこうなったのか!?
二人の本当の想いは!?
それを叶えるにはどうすれば良いのか!?
・第3章
文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。
君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……
深町と付き合おうとする別府!
ぼーっとする深町冴羅!
心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!?
・第4章
二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。
期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する――
「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」
二人は何を思い何をするのか!?
修学旅行がそこにもたらすものとは!?
彼ら彼女らの行く先は!?
・第5章
冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。
そんな中、深町凛紗が行動を起こす――
君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!
映像部への入部!
全ては幸せのために!
――これは誰かが誰かを幸せにする物語。
ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。
作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる