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二章 幼なじみ攻略作戦スタート!
第17話 ポッキータワーは崩れる
しおりを挟むそれ以降は、とくに見せ場もなく、昼休みになった。
パンひとつの食事を終えた僕は、風紀委員と一緒になって廊下で服装チェックに参加し、先生に頼まれて教材の準備をした。もちろん、黒板磨きも忘れていない。
そうした善行を全てやり終えたのは、休憩の終わる十分前、やっと僕は席に戻ってくる。意識して徳を積むというのは、思う以上に疲れる。ふーっと前髪を吹き上げた僕を、
「その調子です。素敵ですね」
結愛は、ばらばらと適当に手を叩いて迎えた。やらせておいて、ぞんざいな態度だった。
「でも、やっぱり澄鈴さん、あんまり見てないんですよねー」
「僕の言った通りじゃないか。もうこんなことはやめよう?」
「いいえ、継続はしますよ。でも、ちょっとは意識づけさせたいですね」
「というと?」
「簡単ですよ、見てもらうんです。とにかくまずは挨拶でもしてきてください♪」
え。声を出すまでもなく、背中をとんと突かれる。
昨日の今日で、ただの挨拶というのも変ではないだろうか。だが意志とは無関係に、なにかに押し出されるたよう、腰が前へ動く。
「え、ちょっと結愛?」
足を動かさなければ、転んでしまう。ふらつきながらも不自然に歩いていたら、澄鈴の前で急に止められた。
「みっちゃん、気を付けてよ。今、四十段め、重要なところなんだから。ここで崩れたら努力が水の泡!」
澄鈴は、なずなと二人、ポッキーで星形のタワーを作っている最中だった。
なにしてんだよ、委員長。トップがこんなことに真剣になってたら、タワーじゃなくてクラスが崩壊するわ。
僕の憂いはよそに、一本置いては、二人は、おーっと顔を見合わせる。澄鈴はこちらを見もしない。それだけで挫けそうだったが、しばらく積み上がっていくタワーを眺めて耐え忍んでいると、
「で、光男はなんかウチに用事あったん?」
「え、いや、その……おは、おはようって言ってなかったなって」
「それわざわざ言いにくる必要あった? もう昼やし」
言葉には、明白な棘があった。やはりご立腹のようだ。
「いや、えっと。そ、そうだね。はは、ははは」
僕は苦しい笑いを浮かべるしかできなかった。来た道を辿るように、すごすごと自席まで後ろ向き、すり足で引き下がる。
「酷かったですね」
そして一言、厳しいパンチをジト目の悪魔に見舞われた。
「なんか前より一段と酷くなってませんか。動きも言葉もぎこちないし」
ぐうの音も出ない。
自分でもそれは気づいていた。昨日の険悪なムードのことがあったとはいえ、大喧嘩をした次の日だってもう少しましに話をできたはずだ。こんな他愛もないことさえままならないのは、
「だってこんな状態から告白しなきゃって思うと、どうも」
明らかに意識をしすぎているせいだ。
「難しく考えすぎです。まずは仲直りからですよ、急いじゃいけません」
「でもあと一週間しかないんだよね? 焦らない方がおかしくないかな」
「だからこそ、急がば回れって奴です。とにかくもう一回行きましょう」
「え、でも」
「仕方ないですね。次は私も一緒に行きますから、ほら行きますよ」
「結愛が行っても揉め事になるだけじゃないの」
僕の進言は、聞き入れられなかった。
間もなく、結愛がスキップでもするような歩調で二人の元へ移動するから、仕方なく後ろからついていく。結愛は腰を屈めてにっこりと、澄鈴へ微笑みかけた。
「あら、楽しそうなことしてますね♪ 私たちも混ぜてください」
「なんやの、甘利さん。どういうつもり」
「嫌ですね、単にクラスメイトと交流したいだけですよ。それに、私、器用なので得意なんです、こういうの」
結愛はほっそりとした指でポッキーをつまみあげて、そーっとタワーの一番上に置く。
「へぇやるやんか」
負けじと澄鈴も、一つを重ねた。
バトル勃発、やっぱりこうなった。言葉の応酬ではない分、昨日のカフェよりかなり地味ではあるが。
「二人とも仲良かったんだね~。みっちゃん知ってた?」
「仲良いって言うの、これ」
「言うよ! ポッキーに支えられた友情だよ、これこそ!」
「いや、それ割ともろくない?」
ピリピリした空気が流れていたが、天然王こと、なずながそれを感じ取ることはなく冷戦は続く。この悪魔め、僕のことどうでもよくなってない? 張り合いたいだけでは? 思っていたら、
「みっちゃんもやろうよ。じっと見てないでさ」
もはや居合わせたにすぎなくなっていた僕にも、おはちが回ってきた。ポッキーを握らされる。
突然のチャンス到来だった。
「やりましたね。いいところ、見せてください」
結愛が囁くのに、僕はこくと頷く。ここは、あっさりと置いてしまえば格好いいはず。澄鈴も少しは見直してくれるかもしれない。
が、思いと裏腹に僕は力みきっていた。汗の滲みだした手のひら、指先の操作が狂う。
僕のポッキーは、タワーの頂上付近を盛大に打ち付けて、塔はいっぺんにバランスを失った。相応の高さまで組みあがっていた大量のチョコ棒がなだれを起こして、崩れ掛かる。
それも場の悪いことに、なずなの尊顔へ一直線に。
「ご、ごめん、中之条!!」
なずなの顔は、クレヨンでの落書きよろしくチョコレートの線まみれになっていた。
せっかくの化粧が台無し、女子からしたら最悪のハプニングだ。泣き出してもおかしくない。
僕は必死で頭を下げるのだが、
「あ、美味しい。さすがポッキー!」
なずなは、頬についたチョコ部分を舐めとらんと、懸命に舌を回していた。
そういえば、なずなはこうだった。
澄鈴がウエットティッシュで彼女の顔を拭ってやっているうちに、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「決着つかずでしたね。私、まだまだいけましたよ」
「ウチだって!」
「強がるのはその程度にしてください。私は別に螺旋状でもいけましたからね。お城だって築けました~」
片付けを終えても、口争いを続行しようとする結愛を引き剥がして、僕は席へと戻った。
「ポッキーにまで遊ばれるなんて……」
つくづくどうしようもないなぁ、僕というやつは。
「全く。せっかくの機会をふいにしちゃうんですから」
「ご、ごめん」
「いいですよ、別に。まだ奥の手がありますから。六限の体育、期待しててください♡」
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