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二章 幼なじみ攻略作戦スタート!

第12話② 死にたくないのでカフェに行く。

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「そうですけど、ただ仲直りしてもつまらないじゃないですか。恋愛にはイベントが大事なんです、少しは波風起こさないと」
「イベント以前に、印象最悪になった気がするんだけど。既に悪かったのに」
「たぶん大丈夫ですよ。言うほど最悪になってません、ブービー賞って感じ」
「それ、結愛よりましってだけじゃない?」

当たり~、と結愛は白い八重歯を少し覗かせた。
それからなぜか不服そうな表情になって言う。

「あぁもう仕方ないですね、ご主人様は。そんなに仲直りしたいですか、私というものがありながら」

僕は大きく何度も肯く。当然である。なにせ僕が澄鈴を好きなのもさながら

「告白が成功しなかったら、死ぬんだよね?」
「えぇそうです」
「なら当たり前じゃないか、流れ星があったら一番に願うよ! ミサンガがあったらすぐ結ぶね」

早いもので、死の宣告があった日は、あと一週間に迫っていた。
余命七日。そう言われれば、普通は憔悴しきってもおかしくない。けれど割に焦りがないのは、実感に欠けるせいだ。せめて結愛が悪魔らしい悪魔ならあったのかもしれないが、一見するとただの女子高生なのだから、どうにも伴ってこない。

「はぁ、じゃあ今から言うアドバイスの通りにしてください。きっとうまくいきますよ」
「信用していいの」
「はい、私はある意味プロですよ、恋愛沙汰は。大船に乗ったつもりでどうぞ!」

泥製じゃなければいいのだが。
思いながらも、僕はにこにこと誇らしげな結愛の提案を受け入れることにした。ここまでこれば、なにもしないよりは藁でも縋ったほうがましだと思ったのだ。
それは実際、確からしいものだった。おしぼりは脇に置いてやれ、とか水はすぐに注いでやれ、とか、いわゆるデートマナーだ。僕は、その場で実践する。

「距離を詰めたいなら、隣に座っちゃうことです。今は私がいますから、並んで座ってても不自然でもないです」

ただ最後の一つが、僕にはハードルが高かった。
躊躇っていると、結愛が無理に僕を澄鈴の隣の椅子へ押し込める。

「で、なんで当たり前のように?」

そして、彼女がその横に座った。うるうると涙を浮かべて見せて、僕の袖の端だけを控えめにつまんで訴える。

「距離、詰めたかったんです。ダメ?」
「計画的すぎてダメ」

まぁ作られたそのピュアなキャラは、たぶん学校一つ魅了してしまうのもたやすいとは思った。

「不意に身体が動いちゃったんです、嘘偽りないやつです」
「はぁ、とにかく戻れよ。というか、僕も戻っていいかな。さすがに攻めすぎだと思うんだ、今の状況で」
「澄鈴さんじゃなくて私を選ぶって言うなら、いいですよ♡ 受け入れ態勢は万全です。どうぞ、こちらへ」

頬がぴくぴくとひきつる。
どちらの選択もリスキーだ。結局僕が決めかねているうちに、澄鈴が戻ってきた。

「なぁ、どういう感じ?」
「あー……ちょっと席替えしたんだ」
「ふーん、そうなんや。まぁえぇけど」

彼女が座ったのは、元僕の席、つまるところ結愛の横だった。結愛が堪え切れないといったように、口元を手で覆って笑う。
僕の努力is水の泡。僕の評価is地の底。僕の命is風前の灯火。

「で、どうするんよ。問題はそこちゃう?」

半ば泣きそうになっていたら、澄鈴がアイスコーヒーを混ぜつつ平然として言った。

「なにが、どういうこと」

悲しみをぬぐいきれず、声がかすれてしまった。

「ほんまなんも考えてへんなぁ、光男は。ゲームから来たのはもうしゃあないけど、どうするのってこと。まさかずっと甘利さんに家に居てもらうつもり? そうやないやろ」

ずっともなにも、あと一週間もすれば強制的に消えるのは僕の方。
しかしそうは当然言えないので黙っていると、ふむ、と僕の代わり結愛が相槌を打つ。

「ゲームから出てくるなんて普通はありえへんやん? 世の中の道理に反する、っていうかさ。ほらよく歴史ものにあるみたいに、それを捻じ曲げた罪で光男に重罰が下る、とかあるかもしらんよ。今の状態続けるのはリスクあるんやないかな」

既にリスクを背負ってるんです、超弩級の!
今度も、僕ではなく結愛がほぉと唇をすぼめる。

「もしかしたら光男、とんでもない陰謀の片棒担がされてるのかもしらんよ」
「なんだってー!!」
「結愛、ちょっと黙ってようか。てか、君の話だからね」

スルーしてしまえ、とも思ったが、ついぞ僕のツッコミマインドがそれを許さなかった。
僕は結愛の口元にドリンクを持ち上げて近づける。彼女は素直にストローを咥えて、阻害要因を一旦抑え込むことに成功した。

「この子やって、なんやよからぬ企みあるかもしれへんよ。よっぽどの理由がないとゲームから出てくるなんて無茶せんと思う。理由は聞いたん?」
「…………いや、とくには」

そういえば知らない。
今まさにタピオカの粒を喉に詰まらせてむせ込んだ、この悪魔がここにいる訳を、僕は「悪魔だから」というアバウトな理由で受け入れていた。このサキュバスにも明白な目的があるのだろうか。
ふと考え込む僕をよそに、澄鈴は続ける。

「簡単に教えてくれへんってことなら、なおさら怪しいやん」
「澄鈴さん、論理的ですね。今の全部、お手洗いで考えたんですか。すごいです!」

澄鈴は、結愛に寒い一瞥だけをやった。

「光男はどう思う?」
「澄鈴、さすがだよ。僕だけじゃそこまで頭が回らなかったな」

鋭い推理に、僕はこうとしか答えられなかった。無駄なことを言えば、ボロが出るかもしれない。

「それはウチが偉いんやなくて、光男がアホなんよ。やからとにかくこの子をゲームに戻さんと──」
「すごいです! しかも、これだけの空論をお手洗いにいる時間に考えられるなんて!」

結愛の茶々に、澄鈴の頭から、ぷちっと音がした気がした。

「やから、なになん! えぇやんか、なんなら時間の有効活用っ!」

澄鈴はさっきより一段、顔に血を上らせていた。真っ赤な顔で訴える。

「あんた、ほんまなんなん? というか、あんたの話やで!」
「カフェですよ、お静かに」

 が、それはこの悪魔にとってはつけいる隙を与えるようなもの。
怒りから恥へ、火照った頬はそのままに、澄鈴は頭上まで振り上げていた拳をテーブルへ力なく落とす。カップの中、残ったコーヒーの表面が少し揺れた。
 結愛は微塵も思ってないだろうに、わざとらしく「やん、こわーい♡」と声を上げて、僕の腕に絡みつく。

「は、離せって!」

 こんなことをしては、どんな反応をされるか。焦って抜け出したのだが、少し遅かったらしい。
つららでも作れそうな冷えた声で、澄鈴は「光男」と僕の名前を呼ぶ。背筋に寒気が駆け上って、自然ぴんと伸びた。

「……はい、なんでしょう」
「ウチ、帰るわ。この女腹立つから、はよゲームに戻してくれん? このままイチャイチャしてたいってなら勝手にすれば?」
「あは、あはは……」

澄鈴がお金を叩きつけて帰っていく。沈黙が、テーブルに訪れた。

「よかったですね、ご主人様。仲直りの準備、できましたね!」
「どこをどう評価した見立てなの、それ。てか、なにしてくれてんだ!」
「今くらいので十分ですよ。そう、かっかしないでください。でも、ゴールはあくまでも告白成功です。明日からが勝負ですよ。まずは明日までにそれぞれ戦略考えてきましょうか。名付けて、告白大作戦!」

結愛がタピオカを吸うズズズという音が、よく耳に届く。もう空とはこれいかに。


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