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二章 幼なじみ攻略作戦スタート!
第12話 死にたくないのでカフェに行く。
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二章
一
日曜日、僕はなけなしの野口英世を一枚持って、宝塚駅すぐのカフェにいた。
シロップを山ほど入れねば飲めもしないアイスコーヒー・三百円を頼んで、席をもらう。
相手がただの友達であったら、まず断っていた。あまりに割高すぎる、カップ麺三杯分となれば、僕と結愛の一日分である。
せめてもコンデンスミルクでも貰って帰ろうと鞄に詰めかけていたら、
「恥ずかしいからやめ。あかんよ、そんなの、泥棒みたい」
テーブルの反対から、澄鈴に制された。
僕は大人しく従う。貧乏なんだよ、とか日頃なら反論していたかもしれないが、今回は訳が違った。
「ほな、話聞こうか」
と、こういうこと。
恋も命も諦めきれない僕が、余命(仮)のおよそ半分たる一週間をかけて、必死で掴んだチャンスだった。
件の玄関口ばったり事変について、澄鈴が事情聞きの時間を作ってくれることとなったのだ。
「そんな畏まらないでくださいよ、澄鈴さん。怖い顔してますよ、鬼瓦って感じ」
当事者たる結愛も同席で。
僕の隣、彼女は顔を両手でわざと歪める。元が綺麗すぎるから、変顔にさえなっていない、アイドルがやって一部から不評を買うような、微妙な完成度だった。
そのままの表情で、彼女は目の前のドリンクをすする。タピオカチーズティー、七百円。珍しく女子高生らしいが、金欠のなんたるかを一切分かっていない注文だった。
「な、鬼って。そんな怖い顔してへん!」
「してました~、こんな顔してました~」
「馬鹿にすんのも大概にしいや。そもそも誤解させるような行動しとったんは、甘利さんやんか。そうやなかったら私もここまで怒ってへん」
「それとこれとは別ですよ、澄鈴さん♪ あ、光男さんの前で鬼って言われるのが嫌でしたか? そうですか」
「ち、違う! なんやねんな、ジャージ女のくせに」
「あら。でもこれ光男さんのジャージですよ。あなたが望んでも着られない代物です」
「そもそも望んでないわ!」
僕は姦しい言い合いの間、ため息をつく。
ベーと舌を出す結愛に、ふんと息巻く澄鈴。とても見てはいられない、レベルの低い争いだった。
それが一段落してから、僕はやっとあったことを話し出す。
「ゲームから出てきたんだよ、結愛は」
告白に成功しなかったら死ぬ。肝心の部分だけは伏せて、あとは本当のことを言った。
それらしい作り話を用意してはいたのだけど、目前になってから結愛が「下手な嘘はつかない方がいい、ご主人様には無理」と僕の演技力を酷評するから、こうなった。
とはいえ、受け入れられるわけがない。妄言も甚だしい。
だが、少し説明を加えて、結愛が軽い魔法を披露すると、
「そう、分かった。そんなこともあんねんなぁ」
拍子抜けなほどあっさりと認められた。まさか僕の事なら掛け値なしに信頼していいと思ってくれたのでは。喜びが身体を満たしたのは束の間、
「だって光男がこんなエロ可愛い完璧ガールに惚れられるわけないやん。おかしいと思ってん」
「物理原則歪めないとダメなほど、僕ってモテないキャラだっけ!?」
クラスの女子からの評判もそこまで悪くないと思っているのだけど。
「そんなことありませんよ。光男さんは十二分に素敵です!」
傷ついた僕の心をかばうように、結愛が擁護してくれる。一つどころではない宿と飯の恩を返そうというのか、と感心したのだが。
「だから私が貰いますね。というわけで話は終わりでいいでしょうか。私たちはこれから二人で河川敷デートにでもいきますね!」
その実どちらかといえば横槍だった。攻撃する口実として、利用されただけ。
結愛は、上体を横へ倒して僕にもたれかかる。不意のことで、避けることのできなかった僕もろとも、澄鈴はキッと目を尖らせ、睨みつける。
「あんた。光男たぶらかしてどないするん、こんな甲斐性なし」
「ふふ、本当素直じゃないですねぇ。悔しかったら悔しいって言ったほうがいいですよ」
「全然悔しないわ!」
「えぇそうですか? 私には、『私だけの幼なじみがどこぞの馬の骨に~』って負け犬の吠え面に見えますよ?」
「そんなんちゃう! あんた、ほんまいい加減にしーや!」
澄鈴は勢い余ったか、机に手を軽く叩きつけて立ち上がる。静かなカフェではちょっとした注目の的となって、彼女は顔を赤らめた。
お手洗いとぼそり呟いて、澄鈴は席を離れる。
「面白い方ですね、幼なじみさん。最後ちょっと怖かったですけど」
結愛はタピオカをいくつかストローで吸い上げてから、もごもごと口を動かす。
「遊びすぎ。今日は仲直りするチャンスだから助けてくれるって話じゃなかったの」
そもそも結愛は来る予定ではなかったのだ。サポートする、とうるさいから同行を許可してやったら、これだ。
一
日曜日、僕はなけなしの野口英世を一枚持って、宝塚駅すぐのカフェにいた。
シロップを山ほど入れねば飲めもしないアイスコーヒー・三百円を頼んで、席をもらう。
相手がただの友達であったら、まず断っていた。あまりに割高すぎる、カップ麺三杯分となれば、僕と結愛の一日分である。
せめてもコンデンスミルクでも貰って帰ろうと鞄に詰めかけていたら、
「恥ずかしいからやめ。あかんよ、そんなの、泥棒みたい」
テーブルの反対から、澄鈴に制された。
僕は大人しく従う。貧乏なんだよ、とか日頃なら反論していたかもしれないが、今回は訳が違った。
「ほな、話聞こうか」
と、こういうこと。
恋も命も諦めきれない僕が、余命(仮)のおよそ半分たる一週間をかけて、必死で掴んだチャンスだった。
件の玄関口ばったり事変について、澄鈴が事情聞きの時間を作ってくれることとなったのだ。
「そんな畏まらないでくださいよ、澄鈴さん。怖い顔してますよ、鬼瓦って感じ」
当事者たる結愛も同席で。
僕の隣、彼女は顔を両手でわざと歪める。元が綺麗すぎるから、変顔にさえなっていない、アイドルがやって一部から不評を買うような、微妙な完成度だった。
そのままの表情で、彼女は目の前のドリンクをすする。タピオカチーズティー、七百円。珍しく女子高生らしいが、金欠のなんたるかを一切分かっていない注文だった。
「な、鬼って。そんな怖い顔してへん!」
「してました~、こんな顔してました~」
「馬鹿にすんのも大概にしいや。そもそも誤解させるような行動しとったんは、甘利さんやんか。そうやなかったら私もここまで怒ってへん」
「それとこれとは別ですよ、澄鈴さん♪ あ、光男さんの前で鬼って言われるのが嫌でしたか? そうですか」
「ち、違う! なんやねんな、ジャージ女のくせに」
「あら。でもこれ光男さんのジャージですよ。あなたが望んでも着られない代物です」
「そもそも望んでないわ!」
僕は姦しい言い合いの間、ため息をつく。
ベーと舌を出す結愛に、ふんと息巻く澄鈴。とても見てはいられない、レベルの低い争いだった。
それが一段落してから、僕はやっとあったことを話し出す。
「ゲームから出てきたんだよ、結愛は」
告白に成功しなかったら死ぬ。肝心の部分だけは伏せて、あとは本当のことを言った。
それらしい作り話を用意してはいたのだけど、目前になってから結愛が「下手な嘘はつかない方がいい、ご主人様には無理」と僕の演技力を酷評するから、こうなった。
とはいえ、受け入れられるわけがない。妄言も甚だしい。
だが、少し説明を加えて、結愛が軽い魔法を披露すると、
「そう、分かった。そんなこともあんねんなぁ」
拍子抜けなほどあっさりと認められた。まさか僕の事なら掛け値なしに信頼していいと思ってくれたのでは。喜びが身体を満たしたのは束の間、
「だって光男がこんなエロ可愛い完璧ガールに惚れられるわけないやん。おかしいと思ってん」
「物理原則歪めないとダメなほど、僕ってモテないキャラだっけ!?」
クラスの女子からの評判もそこまで悪くないと思っているのだけど。
「そんなことありませんよ。光男さんは十二分に素敵です!」
傷ついた僕の心をかばうように、結愛が擁護してくれる。一つどころではない宿と飯の恩を返そうというのか、と感心したのだが。
「だから私が貰いますね。というわけで話は終わりでいいでしょうか。私たちはこれから二人で河川敷デートにでもいきますね!」
その実どちらかといえば横槍だった。攻撃する口実として、利用されただけ。
結愛は、上体を横へ倒して僕にもたれかかる。不意のことで、避けることのできなかった僕もろとも、澄鈴はキッと目を尖らせ、睨みつける。
「あんた。光男たぶらかしてどないするん、こんな甲斐性なし」
「ふふ、本当素直じゃないですねぇ。悔しかったら悔しいって言ったほうがいいですよ」
「全然悔しないわ!」
「えぇそうですか? 私には、『私だけの幼なじみがどこぞの馬の骨に~』って負け犬の吠え面に見えますよ?」
「そんなんちゃう! あんた、ほんまいい加減にしーや!」
澄鈴は勢い余ったか、机に手を軽く叩きつけて立ち上がる。静かなカフェではちょっとした注目の的となって、彼女は顔を赤らめた。
お手洗いとぼそり呟いて、澄鈴は席を離れる。
「面白い方ですね、幼なじみさん。最後ちょっと怖かったですけど」
結愛はタピオカをいくつかストローで吸い上げてから、もごもごと口を動かす。
「遊びすぎ。今日は仲直りするチャンスだから助けてくれるって話じゃなかったの」
そもそも結愛は来る予定ではなかったのだ。サポートする、とうるさいから同行を許可してやったら、これだ。
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