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一章 おいおい、サキュバスが襲来したんだが!?

第6話 いちごパンツ!

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史上稀に見る最悪の自己紹介をしたとはいえ、甘利結愛は転校生。
授業間の休憩時には、クラスメイトが男女問わず何人も席へ押し寄せてきた。あるは断りもなく、隣である僕の机の上に尻を乗せて、またあるは便所に立っているうちに椅子を奪う。

「甘利さん、部活とか興味ない?」
「そうですねぇ、あんまり」
「放課後、タピオカ屋行こ~よ」
「初めて聞きました、なんでしょうタピオカ? ペットかなにかですか」

昼休みも、彼女はまだ輪の中心にいた。僕の席はまるで植民地、四限終了のチャイムから一分もしないうちに専有権は剥奪されていた。
だがそれは、思わぬラッキーをもたらしていた。

「人気者やね、オノさん……やなくて甘利さん。とくに男子受けすごい。光男は参加せんでよかったん」
「僕はいいよ、昨日迫られたばっかだし」
「え? なんのこと」
「いや、ごめん。こっちの話」

澄鈴が見兼ねて、僕をランチに誘ってくれたのだ。それも、なずなが委員会で不在だから二人、彼女の席を挟んで向き合う。

「今日の弁当、昨日の残りものかー。まぁ肉じゃが好きやしえぇねんけど。光男は、今日もパン?」
「うん。僕に弁当作るのはハードル高いよ」
「毎日それやと身体壊すよ。晩ご飯はまともなの食べてるん」
「まぁ、十分なカロリーをね」

正確には、カロリーだけは立派なカップ麺を。

「今度弁当作ってきたろか? ウチ、料理得意なんは知ってるやろ」
「いいの、お言葉に甘えてじゃあお願いしても、いいかな」

開始数分も経っていないのに、既に幸せだった。
いつかは毎日こんな風に二人で。妄想に浸りつつ、鞄に手を突っ込んで、ビニル袋を取り出す。行きにコンビニで季節限定・苺クリームパンを買ってきたはずだったのだが、

「光男、どないしたん?」

なぜかパンティが入っていた。パンではなく、パンティ。
何度目をしばたいても、苺クリーム柄のそれは、紐付きレースのパンティだった。僕はとっさに袋に覆いかぶさる。

「なんなん、怪しすぎるんやけど」

澄鈴が僕をじーっと見る。
言い逃れの捜索&創作を急速に開始するが、こんなハイパーイレギュラーにすぐに都合のいい答えが見つかるわけもなく、

「いやいやいや、急に眠気が襲ってきてさ、ははは」

我ながら苦しすぎる。

「光男。ちょっと、見してみ」
「え、なにを? なんにもないって!!」

澄鈴の手が僕の胸元、抱えたパンティへ伸びる。終わった、万事休すと思った矢先、

「ごめんなさい、その鞄、私のですよね。すいません、取り違えてるんじゃないでしょうか」

そこへ、横手から結愛が苺パンを差し出した。

「光男、なに。人のと間違えとったん?」
「……はは、ははは。そうみたい」
「もう馬鹿なの、ほんと。あはっ。ごめんな、ウチの幼なじみが」
「いえ、いいですよ。これからたっぷりお世話になる予定ですので」

さらりと僕からビニル袋をさらう。流れるように鞄にしまって、ほかのクラスメイトとの会話へ戻っていった。

「ほんま抜けてんなぁ、光男は。ってか、なんやったの。隠すようなもの?」
「えっ、僕も中身までは見てないよ。たぶん、パンじゃないかな、うん」

好リリーフだった。困らせられるだけだ、こんな悪魔いなくなればいい、とそう思っていたが、華麗に救われた。
実はいい奴なのかもしれないと考えてしばし、それが勘違いだと気づく。そもそもパンティという存在があそこにあったのがおかしいのだ。


午後の授業が始まる直前になって、僕は廊下にあるロッカーへと教科書を取りに向かう。置き勉マスターの僕は、ここにおよそ十割の必要物を詰め込んである。ちなみに整理はついていないから目的のものを漁るように探していると、

「結愛ちゃん、俺と連絡先交換して!」「なんならもっと大事な物交換して! 粘膜とか!」「そこまでは望まない! 交換日記でもいいから!」
「みなさん、落ち着いてください。そんなにいっぺんに言われても困ります」

その隣で、結愛が男子たちに四方八方から囲まれていた。変態のくせに、随分と人気なものだ。それを横目にしながら、僕は少し時間を要したが、山の中から無事に資料集を見つける。

「ちょっと、みなさん。潰れちゃいます、私……!」
 その頃には、外から結愛が見えなくなるほど、彼らは寄り固まっていた。
少しは痛い目を見ればいい。素知らぬふりをしようとするのだが、さすがに放ってはおけなかった。
一応はさっき助けて貰ったという恩もなくはない。思えば、かばんを勝手に取り違えたのは僕の方だ。

「なにしてるんだよ、困ってるだろ」

 後ろから男子たちに声をかける。何人かが振り向いた際にできた隙間から結愛の手首を掴んで、男どもの間から彼女を引っ張り出した。
そこでちょうどチャイムが鳴って、男子たちに睨まれながらも、僕らは席に戻る。

「ありがとうございます、光男さん。すっごい助かりました」
「……いいよ、もうそれは。それよりなんでお前は下着持ち歩いてるんだよ」
「お前じゃなくて結愛です」
「……なんで結愛は」
「替えですよ、いつ何時光男さんが襲ってくるか分かりませんし。スクールプレーを求められたり、求めちゃったりなんかして」
「しないし、受け付けないっての!」

僕はこれ以上は言っても仕方ない、と嘆息をついて前に向き直る。覚えのない、小さな紙くずが机の端に丸め置かれていた。それを開いて、僕の手はわなわなと震えだす。

「先生。ちょっと頭が痛いので、保健室に行ってもいいでしょうか」

『俺の結愛ちゃんに馴れ馴れしく触りやがって、しばくぞ』とそりゃあもう、怒りが全面に出た字体で、殴り書いてあった。


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