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一章 おいおい、サキュバスが襲来したんだが!?
第6話 サキュバスの三分クッキング!
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三
翌朝、僕が目を覚ましたのは、カーテンから漏れる光に誘われてのことだった。
爽やかな朝だった。普段ならここからぐずつくのだが、もう頭が冴えている。やっぱり昨日の出来事は全て悪い夢だったんじゃないか。
身体を起こして伸びをせんとして、
「まさか」
下半身に嫌な感じを覚えた。
なにか、温かいものがうごめく。ひらりと布団をめくって出てきたのは、艶めく紫色の髪、そして魅惑の肉体。
「ん、起きたんですか~」
甘利結愛だった。
僕は素っ頓狂な声を上げて、ベッドから跳ね起きる。部屋の端へと床を這って逃れた。
「な、なんで!」
「昨日は寒かったですから暖を取ろうと」
「はぁ、寒いわけないだろ、もう五月だぞ、むしろ蒸してるわ、葉っぱむんむんだわ」
色気もだけど。
なにせ寝巻きの胸元が、ちょうど見えそうで見えないラインまではだけている。僕がまくし立てるのには答えず、彼女はめくれた布団を被りなおす。
「んー……私、朝は弱いんです。あんまり騒がないでくださいよ~」
篭った声がその内側から聞こえてきた。
「その、ごめん」
いや、なんで謝ってるんだろう僕。なにならパーソナルスペースに踏み込まれた被害者とさえ言えるのに。
昨日の出来事は、寝て起きても現実らしかった。朝一に突きつけてくるあたり、容赦もない。
ということは、だ。
「なぁ昨日の僕が死ぬっていうやつも本当なの」
いくら待っても、答えはなかった。寝息だけがすこやかに立つ。
僕はため息をひとつ吐く。立ち上がって、部屋を出ることにした。一階に降りて、リビングでいそいそと登校の支度を始める。
「よし、もう今日告白すればいいんだ、うん」
たとえば、この馬鹿みたいな死の契約が本当だとして、そうすれば終わりなのだ。ならば今日決めてやればいい。そもそも邪魔が入らなければ、昨日終わっていた話かもしれないのだ。
そうとなったら、まずは用意である。リビングで一人、一ヶ月かけて作成した告白文句を連ねた原稿を見ながらリハーサルをしていたら、
「おはようございます~、まだ眠いです」
結愛が目をこすりながらやってきた。なぜか、制服を着て。
「…………えーっと」
「朝ごはん、なんですかー。なんでもいいですけど、味の濃いやつが食べたいです、ふへへ」
「そんなもんは後だ! なんで制服着てるの!!」
「ふぇ? 眠いんですから、騒がないでください。そんなの、私も学校行くからに決まってるじゃないですか」
「そうじゃなくて、どうして!」
「私も十六って設定なので高校生なんです~。それに、サポートするには学校一緒の方がいいかなぁって」
ちなみにちゃんと同じクラスですよ、と絶望感の増す補足がある。
「そんなことより、朝ごはんの話です。なんですか、パンですか米ですか」
「……朝は食べない派なんだよ、ブランチ派」
僕は軽く失神しそうになりつつ、返事をする。ご飯のことなんて、二の次、三の次である。
「えー。でも私、朝食べないとずーっとふにゃんふにゃんです」
「もうそれでいいんじゃないの」
「私寝ぼけて魔法でよからぬこと引き起こしちゃうかもしれませんよ~。澄鈴さんに迷惑かかっても知りませんからね~、わっるいことしちゃいますよーだ」
くっ! 言葉遣いがゆるいだけで、煽りのパワーは一切落ちていないとは。なんとしても澄鈴に下手に絡まれるのは避けなければならない。
とはいえ、僕の調理スキルはゼロ。当然、自炊もしないので、冷蔵庫の食材もないに等しい。食パン一切れさえない。
「じゃあこれでも食べておいたら!」
僕が投げやりに突き出したのは、カップ麺だった。とんこつ醤油味の中華そば。OLがいたなら悲鳴を上げる、サイテーブレックファースト。僕とて試したことはない。
だがサキュバスは、なぜか目を輝かせていて。
湯を入れて三分、一口含んでから、豪快に啜り出す。朝の六時には、相応しくない音と匂いだった。
「これ美味しいですね! 目、覚めてきました! あ、でももうちょっと塩っけがあればもっと」
なんだ、この味覚バグ魔は。緊張感があるんだか、ないんだか。
翌朝、僕が目を覚ましたのは、カーテンから漏れる光に誘われてのことだった。
爽やかな朝だった。普段ならここからぐずつくのだが、もう頭が冴えている。やっぱり昨日の出来事は全て悪い夢だったんじゃないか。
身体を起こして伸びをせんとして、
「まさか」
下半身に嫌な感じを覚えた。
なにか、温かいものがうごめく。ひらりと布団をめくって出てきたのは、艶めく紫色の髪、そして魅惑の肉体。
「ん、起きたんですか~」
甘利結愛だった。
僕は素っ頓狂な声を上げて、ベッドから跳ね起きる。部屋の端へと床を這って逃れた。
「な、なんで!」
「昨日は寒かったですから暖を取ろうと」
「はぁ、寒いわけないだろ、もう五月だぞ、むしろ蒸してるわ、葉っぱむんむんだわ」
色気もだけど。
なにせ寝巻きの胸元が、ちょうど見えそうで見えないラインまではだけている。僕がまくし立てるのには答えず、彼女はめくれた布団を被りなおす。
「んー……私、朝は弱いんです。あんまり騒がないでくださいよ~」
篭った声がその内側から聞こえてきた。
「その、ごめん」
いや、なんで謝ってるんだろう僕。なにならパーソナルスペースに踏み込まれた被害者とさえ言えるのに。
昨日の出来事は、寝て起きても現実らしかった。朝一に突きつけてくるあたり、容赦もない。
ということは、だ。
「なぁ昨日の僕が死ぬっていうやつも本当なの」
いくら待っても、答えはなかった。寝息だけがすこやかに立つ。
僕はため息をひとつ吐く。立ち上がって、部屋を出ることにした。一階に降りて、リビングでいそいそと登校の支度を始める。
「よし、もう今日告白すればいいんだ、うん」
たとえば、この馬鹿みたいな死の契約が本当だとして、そうすれば終わりなのだ。ならば今日決めてやればいい。そもそも邪魔が入らなければ、昨日終わっていた話かもしれないのだ。
そうとなったら、まずは用意である。リビングで一人、一ヶ月かけて作成した告白文句を連ねた原稿を見ながらリハーサルをしていたら、
「おはようございます~、まだ眠いです」
結愛が目をこすりながらやってきた。なぜか、制服を着て。
「…………えーっと」
「朝ごはん、なんですかー。なんでもいいですけど、味の濃いやつが食べたいです、ふへへ」
「そんなもんは後だ! なんで制服着てるの!!」
「ふぇ? 眠いんですから、騒がないでください。そんなの、私も学校行くからに決まってるじゃないですか」
「そうじゃなくて、どうして!」
「私も十六って設定なので高校生なんです~。それに、サポートするには学校一緒の方がいいかなぁって」
ちなみにちゃんと同じクラスですよ、と絶望感の増す補足がある。
「そんなことより、朝ごはんの話です。なんですか、パンですか米ですか」
「……朝は食べない派なんだよ、ブランチ派」
僕は軽く失神しそうになりつつ、返事をする。ご飯のことなんて、二の次、三の次である。
「えー。でも私、朝食べないとずーっとふにゃんふにゃんです」
「もうそれでいいんじゃないの」
「私寝ぼけて魔法でよからぬこと引き起こしちゃうかもしれませんよ~。澄鈴さんに迷惑かかっても知りませんからね~、わっるいことしちゃいますよーだ」
くっ! 言葉遣いがゆるいだけで、煽りのパワーは一切落ちていないとは。なんとしても澄鈴に下手に絡まれるのは避けなければならない。
とはいえ、僕の調理スキルはゼロ。当然、自炊もしないので、冷蔵庫の食材もないに等しい。食パン一切れさえない。
「じゃあこれでも食べておいたら!」
僕が投げやりに突き出したのは、カップ麺だった。とんこつ醤油味の中華そば。OLがいたなら悲鳴を上げる、サイテーブレックファースト。僕とて試したことはない。
だがサキュバスは、なぜか目を輝かせていて。
湯を入れて三分、一口含んでから、豪快に啜り出す。朝の六時には、相応しくない音と匂いだった。
「これ美味しいですね! 目、覚めてきました! あ、でももうちょっと塩っけがあればもっと」
なんだ、この味覚バグ魔は。緊張感があるんだか、ないんだか。
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