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一章 おいおい、サキュバスが襲来したんだが!?

第5話 クーリングオフはできません。一緒に暮らさせていただきます!

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「はぁ、なるほど。そんな理不尽なこと、あるわけないだろ全く。寝言は寝て言えよ。ほらとっとと帰った、帰った」

根拠のない、馬鹿な話だ。余命宣告にしたって、死因がめちゃくちゃすぎる。僕はため息をついて、立ち去ろうとする。
だが、

「これまで二人、そうやって無視して、亡くなりました。一人目は、通勤中に信号待ちをしていたら車にはねられて、二人目は寝ている時に喉を詰めて息だえました。これは事実なんですよ。聞かないと後悔するのは、あなたです」

深刻な声音で具体例まで引き合いに出されると、無碍にもできない。

「……で、なんでそんなことになったの」
「契約です」
「契約した覚えないんだけど」

なんならその手の契約は、親が不在になってからは新聞さえ解約してしまった。

「したんです、私が。その辺は、悪魔なので勝手にしちゃいました。代わりにお側でサポートしてあげますから。いわば、私はお助けキャラです。光男さんの告白を成功させるため、身を粉にして協力させていただきます。そのためにわざわざゲームから出てきたんですよ?」

それってつまり。

「全部甘利さんのせいってこと?」
「まぁそうなりますね!」
「そうなりますね、じゃないよ! なにしてくれてんのさ!」

しかも微妙に恩着せがましいのが腹立たしい。
僕の言葉に、サキュバスは、うるうると目に涙を浮かべる。

「ご主人様、……ダメ?」
「可愛く首傾げても、ダメ!」

それで済むなら、僕だっていくらでも首をひねる。ねじ切れてもいい。

「とにかくそんなふざけた契約はなしだ、なし! ありえないって。クーリングオフって知ってる?」
「対象外です、残念ながら。アプリ内の課金と同じです。もうしちゃったものはしょうがないんですから、諦めてください」
「そう簡単に諦められないから命なんだよ!」
「告白成功させればいいだけじゃないですか。そうしたら、生きていられます」
「できれば成功しなくても、とりあえず生きてはいたいんだけど……。ってかやっぱり死ぬなんてありえないと思うんだ」
「まぁそう思うならいいですけど。二週間後どうなっても知りませんよ? ちなみに、こうしてうだうだ文句言ってるうちにもカウントダウンは進んでますからね♪ 私が来てから、ですので」

僕は掛け時計を振りみる。家が光っているのを見たのは、たしか六時ごろだ。もう二時間以上が経っている。だが、その理論でいくならば

「じゃあ、君が戻ってくれれば話は済むってわけだ。おとなしく戻ってくれないかな」

僕はゲームのTOP画面を表示させたスマホを、サキュバスの方へ突き出す。
安易な考えだったが、画面の奥から出てきたというなら、その逆もできるかもしれないと考えたのだ。

「い、嫌です、私は戻りませんよ」

 彼女の表情が少し曇る。
 もしかしたら、この単純な方法が、悪魔撃退法なのかもしれない。僕は確信に近いものを得て、自信満々に両手で握ったスマホを、露出したおへそ付近に押し当てる。

「いやん♡ ご主人様のエッチ♡」
「それだけかよ!! 僕で遊ばないでくれない!?」

が、引っかけられただけだった。光沢を放つ白い肌に、直方体が沈み込むのみでなにも変化はない。

「とにかく、そんなことしても状況は変わりませんよ。死なないためにも、告白すればいいんです。幼馴染の澄鈴さんに」
「……名前。なんで知ってるの、そういえば」
「よくゲームしながらボヤいてましたよね、告白の練習をしてたのも見てましたよ。ご主人様がゲームをしてる間のことは、全部私も知ってます」

たとえば、と朗々、事例が述べられていく。オンライン対戦で負けてスマホを床へ投げた醜態や、中々やめられず駅のトイレで三時間プレイした時のことまで覚えられていた。

「なんでも聞いてください。嘘はつきませんので」

僕はそれから、沸く限りの疑問をぶつけた。イカサマを暴いてやるくらいのつもりだったが、全てにそれらしい回答があった。
結論を言うと、僕は彼女を否定しきれなかった。

「まぁそういうわけなので、今日からよろしくお願いしますね。ご主人様♡ 私のことは結愛って呼んでください」

終わり際、呆然とする僕に、結愛は恭しくかしずく。

「あ、期間が終わるまでは、私もこの家に泊めさせてもらいますので」
一言、付け足されたが、それに反応をする余裕はもうなかった。

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