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2章
33話 破壊力、高すぎます。
しおりを挟むそうして動き出したエリゼオとラーラの関係を進展させるための計画。
そこへおあつらえ向きに転がり込んできたのは、ラーラの誕生祝賀会のお誘いであった。
「お友達になりたてですぐにお誘いしてごめんなさい。でも、アニーには絶対来てほしくて。いいかな?」
なんて彼女は遠慮がちにしていたけれど、むしろありがたいこと尽くしのお話だった。
単に友人として嬉しいのもあるし、私のシナリオにとってもプラスに働く。
参加者の一人には、エリゼオも含まれていたのだ。
ラーラの実家は、オースティン公爵家である。その力には少しばかりの陰りが見えるが、そうはいっても貴族全体で見れば名家であることに変わりはない。
そのため、節目の行事がある際には、王家の者も一部参加するのだそう。
そしてお誕生パーティといえば、欠かせないのはプレゼントだ。
ここに、私は活路を見出していた。
プレゼントを選ぶとき、よほど無難なものを買うのでなければ、あげる相手のことを考えないわけにはいかない。
好みはなにか、逆に嫌いなものはなにか、どういったものなら驚いてくれるか。
そうして悩んでいる時間はもはや、相手へ捧げているものと言って過言ない。
だから、親しい人への贈り物ほどなかなか決まらず、長考を必要とするのだ。
要は、贈り物を考えれる時間の長さは、関係性に比例するわけだ!
そして、これは反対のことも起こりうる。
なんとも思っていなかったのに、送るプレゼントがなかなか決まらず真剣に考えているうちに、好意が芽生えた。
こんな話は決して珍しいことじゃない。
今度の狙いは、それだった。
「うまくそそのかしてくれたみたいね、やるじゃないヴィオラ」
私は陳列棚にうまいこと身を隠しながら、少し先で衣装選びをするエリゼオ、ヴィオラ両人の動向に目を光らせる。
プレゼントするものが服飾系の類で決まりになったことは、事前にヴィオラから垂れ込みを受けていた。
彼とはかったうえで、私は尾行させてもらっている。
「ふむ、難しいものだね。他人が身に着けるものを選ぶというのは、なかなか難儀なものだ」
「そこできちんと考えてこそのプレゼントでございます。それに、王家の者としての品位やセンスが試される場でもあります。ここは納得のいくまで、時間に糸目をつけずに考えるべきでしょう」
「そういうものか。難しいが、やってみるくらいの必要はありそうだね。っと、これなんかどうだろうか」
そう言って彼が手にしたのは、花を模した胸飾りだ。
クリーム色の布で作られており、一見すると質素にも見えるが、遠目にも手に寧に作られているのが分かる良品だ。
それに、使い勝手もよさげだった。
味気ない単色の服に合わせるだけで、ちょっとの飾り気を添えられる。
そうたとえば、私が気に入って今も着ている青のワンピースなんかによく合いそう……って、あれ?
「あぁ、ダメだ。どうしてもアニータしか浮かんでこないな。このアクセサリーなんて、アニータがよく着ているワンピースに合いそうじゃないかな?」
「それはそうかもしれませんが……」
ここで、ヴィオラがエリゼオの耳元に吹き込む。
それを聞いて、王子らしくにこやかだった目つきが真剣なものへと変わった。
「うん。それならば、どうしても見てみたくなったよ。それに、腕輪だけでなく、これも日々身に着けてくれたなら、また一歩、僕という存在が彼女の日常に溶け込めるような気もする。
よし、これはひとまずアニータの分として買っていくこととしよう」
あれれ、おかしくない!?
ラーラのためのプレゼントを買うはずが、籠の中に入ったのは私宛てのものなんだけど。
そのあともしばらく眺めていたが、吟味されるのはなぜか私宛のプレゼントばかり。
「そういえばアニータの誕生日はいつなのだろうね。今度聞いておかなくちゃいけないね」
プレゼントを吟味するエリゼオの横顔は、はた目にもわかるほど生き生きしていた。
それが自分のために捧げられていると思えば、恥ずかしさのあまり声が漏れそうになった。陳列棚の陰で一人、うずくまる。
こればっかりは、破壊力が髙すぎた。
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