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2章
28話 仕事を放り投げてでも駆けつけてくれるらしい
しおりを挟む「んー、でも、これじゃあいたずらに魔力を消費するわね。ちょっと疲れてきたかも」
「うむ、これでは防戦一方ぞ。すきを見て逃げるか?」
周りを囲まれている以上、それも博打だけど、この状況では少しのリスクはしょうがないか。
そう思ったその時であった。ぐらり、乗っていたフェンの身体が傾く。
彼はすぐに飛びのいてくれて、その場はことなきを得たが
「へっ、地面の下からなら攻撃できるぜ!!」
いきなりピンチ到来だ。この水のベールの中で暴れられると、さすがに面倒くさい。
私が少しだけ浮き足立つ。
「ざまあ見ろ」
「身分知らずの恋にうつつを抜かすから罰が当ったんだ」
「私の推しを、エリゼオ王子を返しなさい! あんたがあの人のなんだって言うのよ!」
なんて大衆の心ない言葉もあり、パニックになりかけていたときだ。
「やめろ、お前たち」
その声は騒がしい民衆たちのヤジを切り裂いて、耳にまっすぐ飛び込んできた。
揺らぎはいっさいなく、綺麗に一本芯が通っている。
「アニータにそれ以上、手出しをするようなら、この場で成敗するよ」
「……このヴィオラも加勢いたしましょう」
エリゼオが、ついでにその執事の彼も来てくれたらしかった。
あいかわらず、状況はよく見えない最悪の視界の中だけれど、一気に事態が収束していくのだけは分かった。
攻撃の一切がやんだので、私はベールをとく。
エリゼオは私とフェンをかばうように、その前に立ちふさがった。
「大丈夫か、アニータ」
「……エリゼオ、どうしてこんなところに!? 今日は公務だったんじゃ」
「街での騒ぎがその場に知らされてね。騒ぎを起こした人の特徴を聞けば、大きな白のフェンリルに乗っていたというから、駆けつけてきたんだ」
「……お仕事をほっぽり出して?」
「あはは、まあそういうことになる。といっても、僕はどうせ飾りだけどね。いればいいだけの会合よりも、君の方が大切だ」
少し前ならば、考えられないような男らしい台詞であった。
その白い礼服を着た背中も、いつか見たものよりもずっと大きくうつる。
「僕は彼女を大切に思っているのは本当だ。そして、彼女たちが僕になにかしたわけじゃないことは、僕が断言しておく」
「……それがたしからしいことは、わたくしが執事として確認もしております。この者は、不浄の策でもって、エリゼオ王子をそそのかしたわけではありません」
民衆へ向けて、なかば選挙の演説みたいに、私の無実を告げてくれる。
なんというか、さすがに恥ずかしい。これはあれだ。誕生日のお祝いをお店でおおっぴらにやられて、他の人の眼に晒されるときの感覚に近い。
こそばゆくて、エリゼオとヴィオラの影に隠れようとしていたら、見つけた。
主犯・ジュリアがこそこそと、民衆の中に消えていこうとしていた。
「残念ですが、ジュリア・エルミーニさま。これは看過できません」
それをめざとく捕まえて、ヴィオラが淡々と告げる。
が、ジュリアは開き直ったらしく、それをはんっと鼻で笑った。
「残念だけど、あたしは本当にこの女が狂気じみた悪女だと思ったからやっただけよ! その噂は令嬢たちにも持ちきり。その噂を信じるのは罪にならないのではなくて? お、お、おほほほ」
言われてみれば、たしかにそう。受け入れざるを得なかったのか、
「もう彼女が悪人でないことは承知したはずです。次はありませんよ」
そう宣告するヴィオラに、軽蔑と苛立ちがありありと伝わる一にらみを残し、私には親指を地面に突き刺してみせて、彼女は去って行く。
悪役令嬢、きわまれりだ。
あそこまで行ったら、いっそ潔い。
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