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2章
26話 まさかの襲撃!
しおりを挟むそれよりも、の問題は自衛が必要という話の方だ。
変な連中に襲われたときに撃退、返り討ちに出来るようにならなくては!
私はその決意から、一人街外れの森を訪れていた。
エリゼオに見つかったら、確実に止められる。もしくはついてこようとするだろう。
だが、それじゃあ私の特訓にならない。あの王子は性格こそ気弱だが、べらぼうに強いのだ。
バトル系の作品に出てきてしまうと、チートになってしまうので、なぜか登場回数の少ないキャラくらいにはたぶん強い。
だから、あえて彼が王城で公務に従事していると分かる時間を狙った。
この場所は通称、魔の森。このゲームの設定上、この世ならざる存在たち、つまりは魔物が出現する場所とされている。
といっても、王都の周りにあるそれはほぼ完全に人の手によって把握されており、何方かと言えば管理された狩場。
地方の管理の行き届いていない「魔の森」とは異なり、安全性は高いのだとか。
主人公・リーナ嬢が使う黒魔法はその魔物たちを狂わせることもあるとかいう、いわくつきだが……。
私はあくまでモブ令嬢だ。そのようなあまりに変わった属性は与えられていない。
「聖なる水よ、瘴気を討ち払え!」
可能なのは水属性と、召喚術のみだ。
でも、それを上等に操ることが出来れば、かなりの威力を出すことが出来る。今も、襲いかかってきたケルベロス一頭を水流による波動でひるませてやった。
鳴き声をくすぶらせ、ケルベロスはのたうち回る。
そこへ、精霊獣・フェンが爪による一撃をくれてやることで、無事に倒すことに成功した。
地面に転がったのは、ケルベロスから私は売れる部位である牙をむんとはぎとる。
敵を倒せば、即座にドロップアイテムが貰えるというのがゲームらしい設定は、残念ながらそのまま適用されてはいなかった。
グロかろうがなんだろうか、ちゃんと見なくてはいけないし触れなければアイテムを手に入れられない。
けれどまぁ、そういうものと思えば、どうということはない。
結論、人間の心の方が百倍醜いしね!
あんな奴(元カレ)とか、こんな奴(元婚約者・ディエゴ)とかを思い浮かべながら、私ははぎ取りを終えた。
得たアイテムを水ですすいでから、かばんへとしまった。
こうしてドロップさせたアイテムは、商人ギルド加盟のショップに卸したり、場合によってデムーロ家直営ショップで売りに出すつもりだ。
「アニーよ、ずいぶん腕を上げたな」
「ありがと。フェンも強くなってきたわね! でも、どうせならまだまだ行くわよ。一回きたんだから、しっかり稼いでおかないとね」
ケルベロスの牙は、ドロップアイテムとしては平々凡々だ。値段にして、1000ペリー。ここからさらに、液を抽出するなどして、強壮剤にするのが一般的らしい。
安い、安すぎる!
もっと高価なものをドロップさせたい。となると、相手も強力になるのだが、そこは自分への試験みたいな側面もあった。
フェンの背に乗り、私はどんどんと奥まで入っていく。
いくら管理の行き届いた森とはいえ、奥に行けばいくほど空気は穢れ、それに引き寄せられた魔物の出現数も比例的に増える。
「さて、見つけた! ここにいたのね、イノタン! へへへっ!」
果たして、待っていた魔物がやってきた。それは、例の豚肉そっくりな味の肉の味がする魔物だ。
身体は大きく、日本の山で見かけるようなイノシシとは比べものにならないくらい大きい。平常時のフェンをもしのぐ体格だ。そして、鼻横についた牙も頑丈そうだった。
だが、突進してくるという攻撃スタイルは同じらしかった。
猛然と私の方へ掛けてくる。
「アニー、ここは我が防ごうか」
「結構よ、むしろちょっと離れにいてくれる?」
びびって腰が引けてしまうのが一番いけない。
「我が手に水の加護を!」
こんなときこそ、現世での知識を活かすべきだろう。私が水魔法で作り出したのは、身体をまるごと覆い尽くすような傘だ。
それをイノタンに向けて、正面にかざす。
そこまでやってから、見た目はたしかに似ているけれど、本当にイノシシと同じ習性を持っているのかと心配になったが、思い通りになってくれた。
イノタンはとたんに戦意を失ったように、方向を転換し、とぼとぼと引き返していく。
「今よ、フェン! これ食べて!」
そこを好機とみた私は、フェンに再び例の魔力玉を放り投げる。それを飛び上がって咥えた彼は、その体をみるみるうちに大きくして、イノタンをもしのぐ大きさに成り代わる。
「爪は駄目よ、お肉に傷が付くからね」
「あいわかった」
じゃあどうするのかといえば、突進だ。フェンはイノタンの身体の横手へ向けて、大きな身体をまるで砲丸のようにして突っ込んでいく。
終わってみれば、なんとあっけない。イノタンを倒すことに成功していた。あっさりと私は勝利を手にしたのだ。
うんうん、だいぶ強くなってきたんじゃないかしら。これなら、自分くらいは守れるかもしれない。
フェンの力によるところが大きいけれど、彼の力も私の力の一部である。
モブのわりには、魔法に恵まれているキャラで本当に良かった。
イノタンは綺麗に洗ってから、フェンの背中に布のシートを敷き、乗せて帰ることにした
このまま1匹単位で肉屋へ卸せば、かなりのお金になるだろう。
バラ肉の部分は持ち帰らせてもらって、食後のつまみにカリカリ焼きでも作ろうかな、と思いをはせつつ、私は王都まで帰ってくる。
と、仁王立ちの少女がそれを待ち受けていた。
「あんた……、なんであんたみたいな野暮ったい、貧乏、しかも自分で魔物狩りするような野蛮な女がエリゼオさまの選んだ女……? ありえない、ありえないわよ!!」
うわあ、もしかしてこれ。さっそく自衛しなきゃいけない?
待ち受けていたのは、ゲームの悪役令嬢・ジュリアだった。
例の襲撃による謹慎はもうとけたらしい。なんというか、やっぱり公爵令嬢って役得よね……。
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