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1章
17話 明らかに変わり始めた白王子
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それからしばらくもすると、令嬢たちは蜘蛛の子を散らすように帰っていった。
きっとさまざまな理想や妄想をエリゼオに抱き、押し付けていたのだろう。
それが謎の女に虜にされる彼を見て、幻滅したのかもしれない。
ジュリアは最後まで、「ありえない、ありえない!」と騒いでいたが、その暴走を他の令嬢さんが連れ出してくれた。
一応余裕を持って、周りを確認してから、彼は私のハットを一度取る。
「ありがとう、もういいよ。悪かったね、僕のためにこんな不評を買う真似までさせて」
「エリゼオ王子こそ、よくやりきってくれました。ありがとうございます」
「そうだろう? まぁ半分は本音だったからね」
たぶん、ジュリアたちと過ごす時間などない、と言っていた部分のことだろう。
偽とはいえ、演技に費やした分と同じだけ一緒に時間を過ごしてきた。彼も、私には本音を言えるようになってきたらしい。
「それで、次はどうするんだったかな」
「次は、しばらくまた毎日会ってくれれば、それでいいですよ。数日もしたら、きっと貴族たちにも噂が広がって、王家も本格的にエリゼオさまを止めに来るはず。そこが次のポイントですね」
「よくできた考えだね?」
「そりゃあ、こういうのを考えるのはプロですから」
煽てられて、ついつい調子に乗ってしまう。
でもそれくらい、今日のイベントを無事に終えられたのは大きかったのだ。
ここで失敗していたら、シナリオは大崩れ。一から考え直さなければいけなかった。
「こういった話をするときの君はいい顔をするね」
「あらまぁ。そういうエリゼオ王子も悪くない顔をしてるようですけど?」
「分かるのかい? うん、きっとこの弁当のおかげだろうね。どんな状況で食べても、君の料理は美味しいや。これが毎晩出てほしいくらいだ」
なにもそこまで気に入ってくれなくても!
コックが本気で監修したものとは違って、私のはシナリオの片手間で作ってきた我流でしかない。
「そんなものでよければ、ご自由にお食べくださいな」
私はこう残して、席を立つ。
今日はもう十分に仕事は果たした。あとはシナリオの作成にでも費やそう。
そのまま去っていこうとして、自分の身なりに気づいた。
「どこかで着替えて行きたいのですけど、お部屋をお借りしても?」
さすがにこの黒装束のまま帰るのは、憚られる。
道ゆく人皆が振り返るだろう。魔族がきたー、悪魔が出たー、とか思われるかもしれない。
「部屋なら、庭から渡り廊下を曲がったすぐのところに、衣裳部屋がある。女性ものもいくつか用意しておいたから、好きに着て帰るといいよ」
「そうですか、助かります」
ふぅ、よかった。
胸を撫で下ろしたのも束の間、なぜかドレスが腰元に少し張り付く。
見れば、裾がつままれていた。
「でも、もう少し話でもしていかないか? 一人で残って食べるよりは、誰かと食べた方が美味しく感じるからね。そうだ、また物語を読ませてくれると嬉しいな」
首を傾げて、彼は私へ微笑みを投げかける。
同じ笑みでも、ずいぶん初めとは印象が違った。今のそれは、建前などではなく、単なる彼の想いだ。
作り笑いの時は出ないエクボが、可愛く頬を凹ませている。
「でも、あんまり残ると私が黒服女の正体だってバレちゃいますよ」
「それなら心配ない。このハットをかぶっていてくれればね。どうだろう?」
「…………いいですよ、もちろん。王子に言われたら、断れません」
「そうか、よかった。じゃあ専属の料理人、もしくは作家になって欲しいと言ったら?」
「断りますって、それは!」
きっとさまざまな理想や妄想をエリゼオに抱き、押し付けていたのだろう。
それが謎の女に虜にされる彼を見て、幻滅したのかもしれない。
ジュリアは最後まで、「ありえない、ありえない!」と騒いでいたが、その暴走を他の令嬢さんが連れ出してくれた。
一応余裕を持って、周りを確認してから、彼は私のハットを一度取る。
「ありがとう、もういいよ。悪かったね、僕のためにこんな不評を買う真似までさせて」
「エリゼオ王子こそ、よくやりきってくれました。ありがとうございます」
「そうだろう? まぁ半分は本音だったからね」
たぶん、ジュリアたちと過ごす時間などない、と言っていた部分のことだろう。
偽とはいえ、演技に費やした分と同じだけ一緒に時間を過ごしてきた。彼も、私には本音を言えるようになってきたらしい。
「それで、次はどうするんだったかな」
「次は、しばらくまた毎日会ってくれれば、それでいいですよ。数日もしたら、きっと貴族たちにも噂が広がって、王家も本格的にエリゼオさまを止めに来るはず。そこが次のポイントですね」
「よくできた考えだね?」
「そりゃあ、こういうのを考えるのはプロですから」
煽てられて、ついつい調子に乗ってしまう。
でもそれくらい、今日のイベントを無事に終えられたのは大きかったのだ。
ここで失敗していたら、シナリオは大崩れ。一から考え直さなければいけなかった。
「こういった話をするときの君はいい顔をするね」
「あらまぁ。そういうエリゼオ王子も悪くない顔をしてるようですけど?」
「分かるのかい? うん、きっとこの弁当のおかげだろうね。どんな状況で食べても、君の料理は美味しいや。これが毎晩出てほしいくらいだ」
なにもそこまで気に入ってくれなくても!
コックが本気で監修したものとは違って、私のはシナリオの片手間で作ってきた我流でしかない。
「そんなものでよければ、ご自由にお食べくださいな」
私はこう残して、席を立つ。
今日はもう十分に仕事は果たした。あとはシナリオの作成にでも費やそう。
そのまま去っていこうとして、自分の身なりに気づいた。
「どこかで着替えて行きたいのですけど、お部屋をお借りしても?」
さすがにこの黒装束のまま帰るのは、憚られる。
道ゆく人皆が振り返るだろう。魔族がきたー、悪魔が出たー、とか思われるかもしれない。
「部屋なら、庭から渡り廊下を曲がったすぐのところに、衣裳部屋がある。女性ものもいくつか用意しておいたから、好きに着て帰るといいよ」
「そうですか、助かります」
ふぅ、よかった。
胸を撫で下ろしたのも束の間、なぜかドレスが腰元に少し張り付く。
見れば、裾がつままれていた。
「でも、もう少し話でもしていかないか? 一人で残って食べるよりは、誰かと食べた方が美味しく感じるからね。そうだ、また物語を読ませてくれると嬉しいな」
首を傾げて、彼は私へ微笑みを投げかける。
同じ笑みでも、ずいぶん初めとは印象が違った。今のそれは、建前などではなく、単なる彼の想いだ。
作り笑いの時は出ないエクボが、可愛く頬を凹ませている。
「でも、あんまり残ると私が黒服女の正体だってバレちゃいますよ」
「それなら心配ない。このハットをかぶっていてくれればね。どうだろう?」
「…………いいですよ、もちろん。王子に言われたら、断れません」
「そうか、よかった。じゃあ専属の料理人、もしくは作家になって欲しいと言ったら?」
「断りますって、それは!」
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