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1章

4話 ゲームのメインキャラの誰とも関わりたくない件

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「あなたみたいな下賎な身分の人は、もっと後ろに下がってなさい。なんなら帰ったら? おほほ、おーほほっ!! おーほほほほほ!!!!」
「きゃっ……!」

心配する母を置いて家を飛び出し、茶会に来たところまではいい。

が、私はまさかの婚約破棄スタートのせいですっかり忘れていた。
私は悪役令嬢・ジュリアにいじめられているという設定のモブキャラだったのだ。

「そこで床でも舐めてなさい、下賎な男爵令嬢風情なんてね。おーほほほほ!!」

汚く嘲られ、扇子で額を打ちつけられる。

やっぱりこんな茶会こなければよかったと、後悔の念が湧いた。


打たれた箇所が痛むので手で軽くさすりながら、私はジュリアの赤髪縦ロールを睨みつける。

こいつがまたクズ元彼の浮気相手に似てるのよねぇ……。そして、彼女が体を擦り寄せる男、エリゼオ王子はエリゼオ王子で、クズ元彼に雰囲気が似ていた。

遠目にもさらさらと分かる銀色の髪、完璧に設らえられた美しい輪郭、優しげな垂れ目ーー。

そりゃあメインヒーロー。
見た目は非の打ち所がなく、うっかり見つめてしまえばドキッともさせられる。


現代のアイドルなんて、もはや目じゃないほど輝いて映った。どこを取ってみても、磨き上げられている。

が、それもこれも、あくまで上辺だけの話だ。

「あぁ、あたしだけのエリゼオ。今日こそ、こんな茶会抜け出して散歩にでも出ない?」
「ははっ、そうしたいけどね、ジュリア。これは僕の主催だからそうもいかないんだ」
「固いこと言ってないで、いいじゃない。いきましょうよ~」

会話を聞くだけで、気分が悪くなる。

なんで転生してまでこんなものを見せられてるんだか。嫌いなキャラ同士のやりとりを眺めているほど、無為な時間はない。

それもこっちは婚約破棄直後! 余計にきついったら。


ジュリアがエリゼオの耳元に唇を寄せているのが目に入った時には、嗚咽まで漏らしてしまった。

ティーカップを手に口元を隠していなかったら、気づかれていたかもしれない。


不快な気分になるだろうことは、分かっていた。
それでも私が茶会へと足を運んだのは、今がゲーム内のどの時点なのか把握しておく必要があったためだ。


そして、私の予測はぴしゃりと当たっていた。

今日は、アニータが唯一ゲームに登場する王子のお茶会で間違いない。
まだ各キャラの攻略ルートへ入る前の段階だ。


だってほら、主人公のリーナ嬢の姿も端っこに見える。

彼女は伯爵令嬢。
もう少し出張ってきても、誰も文句は言わないだろうに、そこから動く気配はなかった。

魔物との繋がりがある、とか、悪魔の子である証とかいう噂により、人々に恐怖される、その真っ黒な髪と目を深くローブを被ることで隠しているのだ、たしか。

みなが華やかな装いをする茶会のなかにあっては、目立たないったらない。
存在感は皆無だ。

たしか、リーナは
『……人、多すぎ……。絶対誰にもばれないよう、遠くから見ていなきゃ』
なんて、こんな独り言をこぼしているのだ。

内気すぎる性格やその生い立ちを含め、ゲームの設定はそのままらしい。

安心とも落胆ともつかぬ吐息が、ついつい漏れる。

それから私はこっそりと(もともと誰も注目していないかもしれないが)、茶会の席を後にした。


いじめられてまで、王子と仲良くなりたい? いいえ。むしろ関わりたくない。

リーナ嬢と友達になりたい? いいえ。

加えるならば、他のご令嬢たちも私がジュリアに狙われているせいか寄ってこないし、親しい人もいない。


お高い紅茶やお菓子を嗜みたい? いいえ。庶民な私の口には合わない。本当はポテトチップスとか唐揚げとか欲しいなぁ、なんて思ってしまう。


何より、優雅に見せかけてコピー用紙より薄っぺらーい作り物の空気感を、肌が拒否していた。


そう、つまり今の私にとってみれば、こんな空間はおままごと同然に無意味なのだ。
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