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1章
2話 転生したら嫌いな乙女ゲームのモブキャラだった
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ーーーー転生してきたのは婚約破棄から遡ること、ほんの1時間ほど前。
そうと気づいたとき、まず私は「あーあ」とデコを叩いた。
こんなことになろうとは、いったい誰が思おうか。
女子ならば、一度は夢見る乙女ゲーム転生、それを果たしたと言うのに気分は最悪だった。
私・霧崎祥子だって、転生を夢見る女の一人であったはずなのに。
なんでこんな憂き目に……。
乙女ゲームは、昔から大好きだった。
ブロンドさらさらヘアのイケメンに溺愛されて婚約してお姫様になったり、禁断の兄妹愛に溺れて世界を敵にしても愛を貫いてみたり。
そういう憧れが、そこには詰まっていた。
中学生頃に生まれたその憧れは高じるところまで高じて、シナリオライターの職についたほどだ。
世界観設定からストーリー分岐からなにからなにまでを担当した。お金をかせぎたかったのもあり、さまざまな仕事をもらった結果、残業に次ぐ残業で朝を迎えるなんてのは日常茶飯事。
それでも私はゲームを好きだと胸を張れた。
それくらい私は乙女ゲームを愛していたのだ。
そして最近では、現実逃避的な意味合いでも重宝していた。
ついこの間、彼氏の浮気が判明したのだ。
長年同居してきて、そろそろ次のステップを踏み出す時期かな、と思っていた頃だった。
なんと、もう3年以上前から二股をかけていたそうだ。
「なんで、そんなことを……最低よ」
と言えば、
「気づかないお前も共犯だろ? 仕事ばかりで俺を放置するから悪いんだ。半分こってことで、手打ちにしてくれないかな。あはは」
などと、罪をなすりつけてきたうえ開き直られる。
誤魔化すような最後の笑いがムカつくったらなかった。
彼がフリーターだったから、私は必死にシナリオ仕事に精を出し、しかも毎日ご飯まで食わせてやっていたのだ。
だというのに、最悪の言い様だった。
さすがに堪忍袋の尾が切れて、それからすぐに別れた。
そんな救いのなさすぎるハードモードな現実から逃げ込むにも、乙女ゲームは最適だったのだ。
……でも、『黒の少女と白王子』だけは話が違った。
SNS繋がりのオタ友に勧められて、プレイしたのだが、どうしてもキャラやストーリーが肌に合わないのなんの。
――黒魔法が使えることにより、周りから「悪魔の子」だとか言われて虐げられてきた主人公が美しい王子に見初められていく。
話自体はテンプレだったが、キャラがだめだった。
メインヒーローであるエリゼオ第五王子の優柔不断な性格はなんとなく元カレに似ていたのもあるし、主人公のリーナ嬢のあまりに気弱な性格も私の得意とするところではなかったのだ。
一応、ストーリーが進むにつれて、その性格になった理由は明らかになっていく。
けれど進行がかなりのローテンポであるせい、『今さらそんなこと言われても……』な気分になり、感情移入を阻まれた。
ストライクゾーンがあるとするなら、遥か上を通過するくらい外れている。
他の攻略対象キャラも軒並み受け付けなかったあたり、私にしてみれば大暴投だ。
友人への義理だけでやり進めていたのだが、最後までダメだった。
しかし、しかし、なんの因果か。
私はその世界に転生してしまった。
目を開ける前に、そう身体が理解していたのだから、まず間違いない。
たぶん、趣味が合わずプレイするのが辛くなって、そのまま寝落ちしたせいだ。出勤しなければと起き出そうとしたら、こうなっていた。
あぁなんてことだろう。
こんなことになると分かっていたら、私の大好きなスローライフ系乙女ゲーム『七色学園へようこそ』をプレイしながら寝たものを!
行動力のあるヒロインと、正統派ながら謎多きイケメンによる溺愛スローライフもの。あの、明白な敵役のいないまったり感が好きだったのに。
そうは思うけど、もう遅い。
だって意識は完全に、元いた世界とは切り離されている。残念ながら元に戻ることはなさそうだ。
仕掛かり中のシナリオ仕事のことを悼みながら、私は恐る恐る目を開く。
ついに、この世界と対面した。
「……知らない天井ね、本当に」
お決まりの一言とともに、被っていた毛布をのけて起き上がる。すぐに近場にあった手鏡をたぐり寄せた。
自分の容姿を確認して、
「…………やった、なんとかなるかも!」
ガッツポーズ!
シナリオを担当したゲームがバカ売れして、人気を博し、アニメ展開された時並みの喜びだ。
私は、モブキャラ令嬢だったのだ! あの嫌いな主人公・リーナじゃない。
せいぜい画面後方に写っていただけの存在だった。
とまぁ。
はじめは舞い上がった私だったが、記憶の中にある嫌な記憶を見つけ、すぐにげんなりする。
私が転生してきたキャラは男爵令嬢、アニータ・デムーロ。貴族学校を卒業したての18歳。
その作中での存在感は、ほとんどないに等しい。
たしか、エリゼオ王子の取り巻きの1人で、彼に声をかけようとしたところ、悪役令嬢・ジュリアに
『貧乏令嬢なんて、あたしの王子様の近づく権利もないわ!』
などと額を扇子でばちんと叩かれるなど、いじめの標的にされる……。
アニータが出てきたのは、後にも先にもその一回きりだ。
だからまさか
『アニータが婚約者に邪険に扱われ、彼の気を引くためにエリゼオ王子の元を訪れていた』
なんて胸糞悪いドラマが潜んでいようとは思いもしなかった。
前世のクズ彼氏に続き、転生したらクズ婚約者。
最悪のコンボだと思っていたら、その婚約者が部屋を訪れ、今度は理不尽な婚約破棄を突きつけられる。
転生しても男運がないとはこれいかに。
そうと気づいたとき、まず私は「あーあ」とデコを叩いた。
こんなことになろうとは、いったい誰が思おうか。
女子ならば、一度は夢見る乙女ゲーム転生、それを果たしたと言うのに気分は最悪だった。
私・霧崎祥子だって、転生を夢見る女の一人であったはずなのに。
なんでこんな憂き目に……。
乙女ゲームは、昔から大好きだった。
ブロンドさらさらヘアのイケメンに溺愛されて婚約してお姫様になったり、禁断の兄妹愛に溺れて世界を敵にしても愛を貫いてみたり。
そういう憧れが、そこには詰まっていた。
中学生頃に生まれたその憧れは高じるところまで高じて、シナリオライターの職についたほどだ。
世界観設定からストーリー分岐からなにからなにまでを担当した。お金をかせぎたかったのもあり、さまざまな仕事をもらった結果、残業に次ぐ残業で朝を迎えるなんてのは日常茶飯事。
それでも私はゲームを好きだと胸を張れた。
それくらい私は乙女ゲームを愛していたのだ。
そして最近では、現実逃避的な意味合いでも重宝していた。
ついこの間、彼氏の浮気が判明したのだ。
長年同居してきて、そろそろ次のステップを踏み出す時期かな、と思っていた頃だった。
なんと、もう3年以上前から二股をかけていたそうだ。
「なんで、そんなことを……最低よ」
と言えば、
「気づかないお前も共犯だろ? 仕事ばかりで俺を放置するから悪いんだ。半分こってことで、手打ちにしてくれないかな。あはは」
などと、罪をなすりつけてきたうえ開き直られる。
誤魔化すような最後の笑いがムカつくったらなかった。
彼がフリーターだったから、私は必死にシナリオ仕事に精を出し、しかも毎日ご飯まで食わせてやっていたのだ。
だというのに、最悪の言い様だった。
さすがに堪忍袋の尾が切れて、それからすぐに別れた。
そんな救いのなさすぎるハードモードな現実から逃げ込むにも、乙女ゲームは最適だったのだ。
……でも、『黒の少女と白王子』だけは話が違った。
SNS繋がりのオタ友に勧められて、プレイしたのだが、どうしてもキャラやストーリーが肌に合わないのなんの。
――黒魔法が使えることにより、周りから「悪魔の子」だとか言われて虐げられてきた主人公が美しい王子に見初められていく。
話自体はテンプレだったが、キャラがだめだった。
メインヒーローであるエリゼオ第五王子の優柔不断な性格はなんとなく元カレに似ていたのもあるし、主人公のリーナ嬢のあまりに気弱な性格も私の得意とするところではなかったのだ。
一応、ストーリーが進むにつれて、その性格になった理由は明らかになっていく。
けれど進行がかなりのローテンポであるせい、『今さらそんなこと言われても……』な気分になり、感情移入を阻まれた。
ストライクゾーンがあるとするなら、遥か上を通過するくらい外れている。
他の攻略対象キャラも軒並み受け付けなかったあたり、私にしてみれば大暴投だ。
友人への義理だけでやり進めていたのだが、最後までダメだった。
しかし、しかし、なんの因果か。
私はその世界に転生してしまった。
目を開ける前に、そう身体が理解していたのだから、まず間違いない。
たぶん、趣味が合わずプレイするのが辛くなって、そのまま寝落ちしたせいだ。出勤しなければと起き出そうとしたら、こうなっていた。
あぁなんてことだろう。
こんなことになると分かっていたら、私の大好きなスローライフ系乙女ゲーム『七色学園へようこそ』をプレイしながら寝たものを!
行動力のあるヒロインと、正統派ながら謎多きイケメンによる溺愛スローライフもの。あの、明白な敵役のいないまったり感が好きだったのに。
そうは思うけど、もう遅い。
だって意識は完全に、元いた世界とは切り離されている。残念ながら元に戻ることはなさそうだ。
仕掛かり中のシナリオ仕事のことを悼みながら、私は恐る恐る目を開く。
ついに、この世界と対面した。
「……知らない天井ね、本当に」
お決まりの一言とともに、被っていた毛布をのけて起き上がる。すぐに近場にあった手鏡をたぐり寄せた。
自分の容姿を確認して、
「…………やった、なんとかなるかも!」
ガッツポーズ!
シナリオを担当したゲームがバカ売れして、人気を博し、アニメ展開された時並みの喜びだ。
私は、モブキャラ令嬢だったのだ! あの嫌いな主人公・リーナじゃない。
せいぜい画面後方に写っていただけの存在だった。
とまぁ。
はじめは舞い上がった私だったが、記憶の中にある嫌な記憶を見つけ、すぐにげんなりする。
私が転生してきたキャラは男爵令嬢、アニータ・デムーロ。貴族学校を卒業したての18歳。
その作中での存在感は、ほとんどないに等しい。
たしか、エリゼオ王子の取り巻きの1人で、彼に声をかけようとしたところ、悪役令嬢・ジュリアに
『貧乏令嬢なんて、あたしの王子様の近づく権利もないわ!』
などと額を扇子でばちんと叩かれるなど、いじめの標的にされる……。
アニータが出てきたのは、後にも先にもその一回きりだ。
だからまさか
『アニータが婚約者に邪険に扱われ、彼の気を引くためにエリゼオ王子の元を訪れていた』
なんて胸糞悪いドラマが潜んでいようとは思いもしなかった。
前世のクズ彼氏に続き、転生したらクズ婚約者。
最悪のコンボだと思っていたら、その婚約者が部屋を訪れ、今度は理不尽な婚約破棄を突きつけられる。
転生しても男運がないとはこれいかに。
応援ありがとうございます!
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