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三章 恋人のフリ?
52話 本当に恋人になるかも?
しおりを挟むしかし結局、会長さんには通じなかった。
同じ言葉で、物言えぬまま断られる。
けれど、今度の鴨志田は引き下がらなかった。
私の手をいっそう強く握って、彼は無理くり続ける。
「経営者だったらなんだ? なら俺はその孫養子なんだよ」
「なにが言いたいんだ、蓮」
「どうせ、じぃさん含めての俺なんだ。利用したって普通だろ? それに、俺が言うことってだけで却下してんなら、それこそ経営者としてどうなんだよ」
実に彼らしい、皮肉のよく効いたセリフだった。
正攻法は取らないらしい。
「……まずは話してみろ」
そして少し牙城が崩れる。
理路整然と話し出す鴨志田を、希美は援護した。
ついさっきまで赤ら顔だった老人の顔つきが、会長のそれに取って代わる。
「『天天』か……。もう長いこと行ってないな」
突破口さえ開ければ、そう難度の高い攻略でもなかった。
現場を引退して何年経っても、会長はまだ料理の腕を磨き続けているのだ。その原点たる一号店を誰より大事に思っているのは、希美でも鴨志田でもない。他ならぬ会長に違いなかった。
「ぜひ、お願いしますっ!」
「うむ、分かった。私の負けだ。スケジュールには空きを作るようにするよ」
快諾を得て、希美は鴨志田に満面の笑みを振り向ける。
彼は眇めるように、祖父たる会長を見ていた。
「えらくあっさりと俺の話を聞くんだな」
「はっは、やっぱりそう思うか。……私は、お前がそうやって歯向かってくるのを待ってたんだ」
「はぁ? なにを言ってるんだ」
「これまでのお前は、はっきり私に意見を口にしたことがなかっただろう。それじゃあトップは務まらないと思ってな。試していたんだ」
なんだそれ、と傍で聞いていた希美は虚を突かれる。
双方を想うが故のわだかまりだったとは、なんて不器用な愛情だろうか。
この二人はちゃんと、似たもの同士の祖父と孫だ。
「蓮を変えたのは君かな?」
と、話の水が希美に向けられる。
「えぇと、私はそんな。……あ、いや! 彼女なので、それくらいお茶の子さいさいです!」
「君、もう無理しなくてもいいよ。ただの後輩で、彼女じゃないんだろ?」
「はえ、どうしてそれを……」
「さっき、妻が言っていたんだ。かなりぎこちなかった、とね」
鴨志田がぷっと吹き出す。かと思うと、腹を抱えて笑いはじめた。
「やっぱりダメだったか、あの大根役者っぷりじゃ。最初からバレるだろうなって思ってた。とりあえず、会に参加できればよかったんだ」
「なっ、じゃあなんでこんなに頑張ったんですか、私!」
「ちょっと面白くなってな。あと、言うのが面倒になった」
希美にしてみれば大真面目だったのに、このカロリー節約御曹司ときたら。
希美が必死に抗議するのを、会長は温かい目で見守る。
「これは本当に、近い将来そうなるかもなぁ」
「なりません!!」
宴会場の喧騒を切り裂く、一叫となった。
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