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三章 恋人のフリ?
51話 二人、手を繋いで。
しおりを挟む「その俺が、あいつの孫じゃなかったら、ここにいないんだ」
「そうだとしても! うちは、鴨志田さんだけを見てる。むしろ蓮さんしか、見てへん!」
希美はありったけの声を振り絞った。鴨志田が床へ垂らした右手を、両手でぎゅっと強く握る。
「へなへなでさぼりがちで、斜に構えててむかつくけど、でも誰よりも影で努力する蓮さんを、うちはよー知っとる! うちは見とるから、やから」
彼の腕を思いっきり引いて、立ち上がった。
「そんなこと言わんといて。弱い姿とか見せへんで。うちの知ってる蓮さんは、もっと強い先輩のはずや!」
鴨志田の腰が上がる。
鼻先が触れる距離で、まっすぐに視線を合わせた。
希美はそこへ、嘘のない本音を託す。
彼の普段は細い目が、大きく見開かれた。やがてそれは、感極まったようにぐしゃりと歪む。
ともすれば泣きそうで、でも嬉しそうな、複雑な表情だった。
「……後輩は、本当に読めないなぁ。二流映画の脚本家なのか」
「いえ。私は、蓮さんの彼女ですから」
今日だけは、とは小さく付け加えた。
「調子狂うなぁ……」
鴨志田は髪をかき乱したかと思えば、明後日の方角へ首を振り向ける。
希美はもう一度、彼の手に自分の両手を重ねた。
「今からもう一回、会長のところへ行きましょう! あんなの滅茶苦茶ですもん。親じゃなくて、経営者なんだったら社員の話に耳を傾けるべきです!」
「……そうだよな、そう思ってたところだ」
「はいっ! あんなの間違ってます! 勇気がないなら、私のをあげますよ。有り余ってるんで!」
なにかの糸が切れたかのように鴨志田が笑った。
希美がそれに釣られて、縁側の空間に二人分の笑い声が籠る。
希美の手が、きゅうっと締められた。
「じゃあ行くぞ」
いつも通り感情がなさそうに言って、彼は居間の方へと歩き出した。
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