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三章 恋人のフリ?

50話 『持てる人』の夢

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     四

親である以前に経営者だから、話は聞けない。その一言で、シャットアウトだった。

「だから言ったろ、ダメ元だって」

居間から離れて縁側に立つと、鴨志田は乾いた笑いをうかべる。

その背中は、やけに小さく見えた。目にしたことはないが、鴨志田少年の影がだぶつく。

「もしかして、昔もここで庭見てたんですか? 一人の時は」
「……なんだ、お袋に聞いたのか。昔の話」

反射した窓で、ちらりと目線を流されたのが分かって、希美はこくりと頷いた。
隠し立てする必要もない。

「そうか。あー……まぁな、することがなくなったら、よくここで黄昏れてた。一人分にはいいスペースだろ?」
「……なんとなく想像できます」
「それより悪かったな、後輩。変な茶番までさせてこのザマだ」

鴨志田には、いつもの余裕がなかった。

軽妙ないじりもなく、足元を見つめて以降ただ押し黙る。

その姿は、さっき至ったばかりの結論と符合しなかった。彼が本当に会社の上層部としてしか祖父のことを見ていないなら、すぐにでも水に流せそうな話だ。社員の意見を取り合わない代表などざらにいる。

では祖父として意識しているのだとして、どんな感情を抱いているのだろう。

それが希美には掴めなかった。目の敵にしているのだと思っていた。発言も態度も、恨めしそうという表現がよくはまる。けれど、思えば行動は別だ。

憎いなら、あえてその下について働く必要はないだろう。

手を抜くためと言っても、鴨志田は結局肝心な時には誰より頼もしい。社への貢献度はかなり高いはずである。

『俺の印象なんて会長の孫でしかない』

こう、自嘲的に言っていたのが不意に蘇る。

聡明な彼のことだ。そうなることは、はなから分かっていたに違いない。それでも鴨志田は、その環境へと飛び込んだ。

もしかすると──。

やっと、希美の中で仮説ができあがる。
確信には遠かったが、これ以上こんな鴨志田を見せられたら、希美の調子が狂ってしまう。

「鴨志田さんは、会長に、おじいちゃんに認めてほしいんですね」

思い切って、言ってやった。彼はたっぷりと間を取ったあと、あぐらを組んで座り込む。

「そうだったのかもな」

距離が遠くなったせいか、その声は一層弱々しく感じられた。
希美は、鴨志田の横で膝を三角に折る。

「……子どもの頃は、ただ見てほしいだけだったんだ。それがだんだん拗れて、大学生になる時には怒りに変わってた。断っても、お金が送られてきたのが、一人暮らしなんてできないだろ、お前は半人前だって見下されてる気がしてな。
 会社に入ろうと思ったのは、成果出して目に物見せてやるつもりだったんだ。けどまぁ結局は、ずっと認めてもらいたかっただけなのかもな」
「だったら、ちゃんと働けば」
「最初は見返すためにも、ばりばりやったさ。でも、俺がどれだけ結果を出そうと、あいつの存在がちらつくだけだった。さすがお孫さん、ってそうなる。結局俺って存在は、あいつがいなきゃ始まってないんだ。どこまでも、俺はあいつの孫でしかない」

重みのある独白だった。

いわゆる『持てる人』の悩みなのだろう。
話は聞けても、希美のような庶民には身をもっては分からなかった。

だから、彼は孤独だったのだ。それどころか今も彼は、その内側にいるつもりだ。誰にも見つけられていないつもりでいる。

希美は、心の裾が揺さぶられるのを感じた。
なぜか正しく配置されていないパズルを見ているかのように、もやもやとする。

「……鴨志田さんは鴨志田さんですよ」

なぜなら彼のその悩みは、思い込みでしかないからだ。

他の誰もが気づかなかったとしても、最初から希美には彼が見えている。なのに一人だなんて、釈然としない。

有り体に言うならば、むかむかとした。
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