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三章 恋人のフリ?
45話 わたしなりの礼装!
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三
約束の日曜日、希美はほとんど微睡むこともできないまま、朝を迎えていた。
早いリズムを刻む鼓動は、太陽が昇っても昨夜から変わらない。
深呼吸をしても、すぐに元へと戻ってしまう。
「なんでこんなことになるんやっ!!」
辛抱しきれず叫ぶと、きゅーちゃんを起こしてしまった。
羽をばたつかせる彼を宥めてから、化粧室へと向かう。
緊張の理由は、名誉会長に会うからではない。
安請け合いをした、鴨志田の頼みごとによるものだ。
まさか次は自分がおめかしをすることになるとは考えもしなかった。
洗面台の前、鏡の中に映る自分と睨み合いをする。クマを消してメイクを施し、ネットの見様見真似でヘアアレンジを決めた。
精一杯だったのだが、似合っていない気がして落ち着かない。
細かく弄っていたら、あっという間に時間が来ていた。
焦って玄関を出る。
駐車場には白のベンツが一台止まっていて、辺りの住宅地から見事に浮いていた。
少しは希美の努力を褒めてくれるかしら。ドキドキしつつ、車に乗せてもらう。
「……礼装をしてくれ、って頼んだよな」
まず浴びせられたのは、どよんと淀んだ目線だった。
「はい、だから私なりに頑張ったんですけど……だめでしたか?」
「俺は、ドレスって意味で言ったんだよ。どこに、彼氏の家でやる会食にスーツで来る奴がいるんだ。これから就活か?」
「えぇ、ドレスなんて持ってませんよ!」
声がひっくり返る。鴨志田は、おかしそうに口に手を当てた。
「……ま、いつもの後輩も落ち着くけど。せっかく可愛くしてんのにもったいない」
「えっ、今なんて」
「なんでもない。俺の彼女なんだろ、今日は。言うなれば社交辞令だ。ちょっと寄り道するからもう行くぞ」
希美がシートベルトをはめた途端、アクセルが踏まれる。
お世辞なら、最後まで本音は明かさないでほしかった。
それに、もう少し丁寧に接してくれてもいい。
仮にも恋人同士なのだ。
本当の、カッコカリであるが。
「それにしても、意外にいいところありますよね、鴨志田さんも」
「どういう意味だ。意外に、ってのが余計だっつの」
「意外ですよ。彼女のふりをしてほしい、なんて鴨志田さんの口から一番出なさそうですもん。それもおばぁちゃんを心配させないためなんですよね?」
「口うるさいからな、毎度。後輩を会に連れて行くいい口実にもなる」
会長に会う代わりに、と鴨志田が出した条件がこれだった。
代役彼女。頼まれたときは、聞き違えたかと二度尋ね直したほどだ。
彼女役が、希美でいいのかという問題もあった。
鴨志田ならば、そんな時に協力してくれる女性の一人や二人いそうなものだ。
だが、それでは嘘っぽくなってしまうのだと言う。
「……あれ、ということは、私なら本当の恋人同士っぽく振る舞えるってことですか?」
「遠慮なく物を言えるってことだ」
「もしかして男だと思ってます? 私、一応女の子ですからねっ!」
「ちゃんと女の子だろ。知ってるよ」
車は首都高へと乗り、スピードを上げる。ほとんど揺れのない安全運転だった。
昨夜から気を張り詰め続けていたせいか、ここへきて眠気に襲われる。
目を覚ました時には、もう車は止まっていた。まぶたを擦りつつ下りると、すぐに洋服店へと連れて行かれる。
ぼけっとしているうちに、
「…………なんやこれ」
煌びやかにドレスアップされていた。
姿見に写るは薄ピンクのロングプリーツを着て、お嬢様然とした自分だ。
約束の日曜日、希美はほとんど微睡むこともできないまま、朝を迎えていた。
早いリズムを刻む鼓動は、太陽が昇っても昨夜から変わらない。
深呼吸をしても、すぐに元へと戻ってしまう。
「なんでこんなことになるんやっ!!」
辛抱しきれず叫ぶと、きゅーちゃんを起こしてしまった。
羽をばたつかせる彼を宥めてから、化粧室へと向かう。
緊張の理由は、名誉会長に会うからではない。
安請け合いをした、鴨志田の頼みごとによるものだ。
まさか次は自分がおめかしをすることになるとは考えもしなかった。
洗面台の前、鏡の中に映る自分と睨み合いをする。クマを消してメイクを施し、ネットの見様見真似でヘアアレンジを決めた。
精一杯だったのだが、似合っていない気がして落ち着かない。
細かく弄っていたら、あっという間に時間が来ていた。
焦って玄関を出る。
駐車場には白のベンツが一台止まっていて、辺りの住宅地から見事に浮いていた。
少しは希美の努力を褒めてくれるかしら。ドキドキしつつ、車に乗せてもらう。
「……礼装をしてくれ、って頼んだよな」
まず浴びせられたのは、どよんと淀んだ目線だった。
「はい、だから私なりに頑張ったんですけど……だめでしたか?」
「俺は、ドレスって意味で言ったんだよ。どこに、彼氏の家でやる会食にスーツで来る奴がいるんだ。これから就活か?」
「えぇ、ドレスなんて持ってませんよ!」
声がひっくり返る。鴨志田は、おかしそうに口に手を当てた。
「……ま、いつもの後輩も落ち着くけど。せっかく可愛くしてんのにもったいない」
「えっ、今なんて」
「なんでもない。俺の彼女なんだろ、今日は。言うなれば社交辞令だ。ちょっと寄り道するからもう行くぞ」
希美がシートベルトをはめた途端、アクセルが踏まれる。
お世辞なら、最後まで本音は明かさないでほしかった。
それに、もう少し丁寧に接してくれてもいい。
仮にも恋人同士なのだ。
本当の、カッコカリであるが。
「それにしても、意外にいいところありますよね、鴨志田さんも」
「どういう意味だ。意外に、ってのが余計だっつの」
「意外ですよ。彼女のふりをしてほしい、なんて鴨志田さんの口から一番出なさそうですもん。それもおばぁちゃんを心配させないためなんですよね?」
「口うるさいからな、毎度。後輩を会に連れて行くいい口実にもなる」
会長に会う代わりに、と鴨志田が出した条件がこれだった。
代役彼女。頼まれたときは、聞き違えたかと二度尋ね直したほどだ。
彼女役が、希美でいいのかという問題もあった。
鴨志田ならば、そんな時に協力してくれる女性の一人や二人いそうなものだ。
だが、それでは嘘っぽくなってしまうのだと言う。
「……あれ、ということは、私なら本当の恋人同士っぽく振る舞えるってことですか?」
「遠慮なく物を言えるってことだ」
「もしかして男だと思ってます? 私、一応女の子ですからねっ!」
「ちゃんと女の子だろ。知ってるよ」
車は首都高へと乗り、スピードを上げる。ほとんど揺れのない安全運転だった。
昨夜から気を張り詰め続けていたせいか、ここへきて眠気に襲われる。
目を覚ました時には、もう車は止まっていた。まぶたを擦りつつ下りると、すぐに洋服店へと連れて行かれる。
ぼけっとしているうちに、
「…………なんやこれ」
煌びやかにドレスアップされていた。
姿見に写るは薄ピンクのロングプリーツを着て、お嬢様然とした自分だ。
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