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三章 恋人のフリ?
38話 あらぬ噂は広がる。
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一
あらぬスキャンダル騒動は、鴨志田の耳にも届いていた。
朝の執務室、珍しく早めにやってきたと思ったら、
「いつもはロビーでくつろいでからきてるんだ。けど、今日はどうも人目がな」
こう言って、持参していたスタバのコーヒーを一息に煽る。
「なんで俺が仲川とライバルだとか噂されなきゃいけないんだか」
片肘を突いて、舌打ちを混じらせ、不満たらたらの様子だった。その言い草に、ごく自然発生的に、ぽっと希美の頭には疑問が湧いて出る。
「私とカップルはいいんですね?」
尋ねてから、すぐに口を覆った。
とても恥ずかしい質問をしてしまった気がする。
鴨志田は無言のまま、再びカップを手に取った。覗き込むまでもなく空なのだが、膝下でろくろのように回す。
「それは、ほら、言いようの話だっつの」
誤魔化された気がするが、追及はしなかった。元々、生来の悪癖で口が滑ってしまっただけだ。
「……後輩はどうなんだよ、この状況」
「いいわけないですよ! 私が二股なんて、事実無根もいいところです」
「知ってるよ、そんなこと。俺も当事者なんだから」
「なんでこんな話になったんでしょう? だいたい噂になるようなことなんて一つも……」
考えてみれば、思い当たる節がなくはなかった。希美は、仲川、鴨志田ともに二人きりでご飯へ行っている。
でも、それ以上のことはない。ロマンスとは無縁に、仕事の話をしただけだ。鴨志田は、半目になってニヤっと笑う。
「どうした、後輩。自分のプレイガールっぷりに気づきでもしたか?」
「無実を再確認しただけですっ! だいたいそうだとしたら鴨志田さんは遊ばれたことになるんですよ、私なんかに」
「噂ってのは面白いな、そうか後輩に遊ばれてるのか俺」
真に受けるつもりはないようだ。そこから小さな言い合いに発展していたら、
「朝から痴話喧嘩?」
佐野課長が鼻で笑いつつ出勤してくる。冷ややかな目線が、希美にだけ注がれた。
「全くどうしようもないわね。二股って。節操ないったらないわ」
いつもにまして、刺々しい。原因は明白だが、いわれはない。
あらぬスキャンダル騒動は、鴨志田の耳にも届いていた。
朝の執務室、珍しく早めにやってきたと思ったら、
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こう言って、持参していたスタバのコーヒーを一息に煽る。
「なんで俺が仲川とライバルだとか噂されなきゃいけないんだか」
片肘を突いて、舌打ちを混じらせ、不満たらたらの様子だった。その言い草に、ごく自然発生的に、ぽっと希美の頭には疑問が湧いて出る。
「私とカップルはいいんですね?」
尋ねてから、すぐに口を覆った。
とても恥ずかしい質問をしてしまった気がする。
鴨志田は無言のまま、再びカップを手に取った。覗き込むまでもなく空なのだが、膝下でろくろのように回す。
「それは、ほら、言いようの話だっつの」
誤魔化された気がするが、追及はしなかった。元々、生来の悪癖で口が滑ってしまっただけだ。
「……後輩はどうなんだよ、この状況」
「いいわけないですよ! 私が二股なんて、事実無根もいいところです」
「知ってるよ、そんなこと。俺も当事者なんだから」
「なんでこんな話になったんでしょう? だいたい噂になるようなことなんて一つも……」
考えてみれば、思い当たる節がなくはなかった。希美は、仲川、鴨志田ともに二人きりでご飯へ行っている。
でも、それ以上のことはない。ロマンスとは無縁に、仕事の話をしただけだ。鴨志田は、半目になってニヤっと笑う。
「どうした、後輩。自分のプレイガールっぷりに気づきでもしたか?」
「無実を再確認しただけですっ! だいたいそうだとしたら鴨志田さんは遊ばれたことになるんですよ、私なんかに」
「噂ってのは面白いな、そうか後輩に遊ばれてるのか俺」
真に受けるつもりはないようだ。そこから小さな言い合いに発展していたら、
「朝から痴話喧嘩?」
佐野課長が鼻で笑いつつ出勤してくる。冷ややかな目線が、希美にだけ注がれた。
「全くどうしようもないわね。二股って。節操ないったらないわ」
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