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三章 古の対峙

80話 師は使うもので、切り捨ててもいい。

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「おぉ、オレステ!! 助けてくれ、こいつらが私に狼藉を働いたのだ!!」
「……先生。その黒いものは」
「この魔術陣は、こいつらにはめられたんだ。こいつらが私に【魔物召喚】を強制しているんだ!! だから殺せ!! すぐにやれ!! お前は俺の生徒だろう!! 実績を作ってやったじゃないか!!」

シモーニの叫び声が、研究室内に響き渡る。

それが余韻を残して消えたのち、オレステのほうを見れば、彼は茫然と立ち尽くしていた。

その気持ちはいたいほどに分かる。
慕っていた師の罪が疑惑ではなく、確信に変わってしまったのだ。

そしてそれに自分も加担してしまっていた。
その事実は、彼にとってかなり重い。

だが彼はそれを乗り越えていかねばならないのだ。

「オレステくん。教師というのは自分の糧にすればいい。そうならないなら、切り捨てて
いいんだ。妄信するんじゃない。君は君だ」

だから俺はオレステにはっきりとこう伝えた。

「先生のいうとおりです。決断なさい」

これに、リーナが同調するなか、シモーニは再び「やれ!」「殺せ!!」「今ならやれるだろう!!」と必死にわめく。

オレステはそんななか黙りこくっていたが、やがて剣を鞘から抜く。

「おぉ、そうだ! 殺せ!! 今なら油断している!!」

そして、それを大きく振りかぶり――突き刺した。
地面に張り付けられた状態のシモーニの顔のほんの少し横の床に、だ。

「俺は間違ったことはしたくないんです、先生。やめにしてください、こんなこと」
「な、なにを言っている。俺はこいつらにやらされて、それで……」

彼はなおも言い訳をしようとするシモーニの側に屈むと、その首筋に手刀を落とす。

「あ、が…………」

そもそも一流冒険者になれるだけの腕があるオレステだ。
シモーニは泡を吹いて、そのまま気を失って倒れる。

が、これで一件落着とならないのが、面倒くさかった。
術者がこんな状態になってもなお、【魔物召喚】の術は解けない。

こうなったら頼れるのは、精霊のあの子だけだ。
俺は一度窓の外を見やる。一応、日が昇っていると言えなくもない時間になっていた。

これなら、一応怒られないだろう。
俺は精霊召喚術式を展開して、ビアンコを呼び出す。

が、しかし読みは外れていた。

「だから、ご主人!! まだ早いですってば!!」

ビアンコは俺の肩に乗ると、足を組み、ふんぞり返る。

「の割には眠くなさそうだね?」
「……まぁ? わたし、偉い子なので起きてたんでいいですけど」
「うん、偉いな」
「なんかテキトーに言ってません?」

と、ここまで言ったところで、リーナは我慢ならなくなったらしい。
腕組みをしながら「まず先生の言うことを聞きなさい」と言うから、俺は苦笑いする。

「どうしても、これをなんとかしなきゃいけなくなったんだ。力を貸してくれるか? ほら、魔力ならたっぷり用意してあるよ」
「……まぁそういうことなら。あとで、そこの娘には色々言いますが、とりあえずいいです、やります」

今回はさっきの【白鑑定】よりも、さらに魔力を使う。
が、しかし、そこは新しい指輪があれば、問題なかった。

ビアンコはそこから吸い取った魔力を、【白魔素】に変換して放出してくれるから、俺はそれを元に【魔物召喚解除】の術式を描く。

はじめて書くものであったが、その場に元の式があるのだから、難しいことではなかった。
なかなかな強威力だったが、無事に【魔物召喚】の魔術が解ける。

「……先生」
「あぁ、とりあえず終わったよ。これで新たに送り込まれることはない。残りを倒せば、終わりだ」

あっけのない幕切れだ。
俺は、意識を失い倒れたシモーニを見下ろす。

口を半開きにしたその情けない顔にため息をついていると、オレステはそんなシモーニの横に座り、その身体を自らの背に負う。

「どうするのですか、それ」

とリーナが、まるで物かのように聞けば、オレステはそれに答えないままフロアを出て行こうとして、そこで立ち止まる。

「……こんな人間でも、師だった。だからこいつは、俺が衛兵に引き渡す。もし裏切りが不安ならついてくるといい」

こう言うと、ゆっくり階段を降り始めた。
その音が、誰もいない静かな棟内に鳴り渡る。

リーナが判断を仰ぐように俺を見るから、首を横に振った。

「大丈夫だよ、心配ない。あの分なら、まず間違いなく誤った判断はしないよ。妄信は解けただろう」
「……そうですね」

リーナは、すでに誰もいなくなったオレステが去っていた方を見ながら、少し間を開けてこう呟く。

「なにか思うところがあったかい?」
「……先生。師は使うもので、切り捨ててもいいというあの話ですが」

「あぁ、あれか。あれなら、本当にそのとおりだと思うよ。リーナも俺が間違っていると思うことがあったら切り捨ててくれていい。しがらみには、なりたくないからね」

俺がこう言えば、リーナがふふっと軽く笑う。

「なりませんよ。先生は私にとって光ですから」
「……おいおい。やめてくれよ」
「やめませんよ。でも、先生がもし悪事に手を染めることがあったら――」
「そのときは叩き潰してくれよ」

俺が笑ってそう言えば、彼女は口元を少し緩めて、ふふと笑い漏らす。

「はい、私が責任をもって。必ず潰します」

一目で艶があると分かる青色の髪を肩の後ろへと払いながら、彼女は長いまつ毛に朝日の粒を弾いて、その奥に収まる力強いサファイア色の瞳で俺を見つめる。

思わず息を飲まされるほどの美しさであった。

まぁ台詞はその可憐さに見合わず、なかなか過激なものであったが。


それでこそ、リーナらしいというものだ。

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