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二章 属性魔法学との対峙

66話 その男、ギルドにて密談をする

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フライングバットから剝ぎ取った「黒蝙蝠の爪」を買い取ってもらうという名目の元、ダンジョンを出た俺はルチアと別れて、ギルドへと向かった。

「それ、大して高くないんじゃないの?」と、その際にルチアが言っていたとおり。「黒蝙蝠の爪」は、一つ大体500ベルとたしかに高くない。

だが、貧乏生活を強いられてきた俺は、その大切さを知っている。
小金とはいえ取りこぼしたくはなかったし、それにギルドではどうしても聞いておきたいこともあった。



「まさか先生から声かけしてもらえるなんて思わなかったっすよ。いろいろ忙しそうなのに」

俺が捕まえたのは、かつての生徒の一人、レオナルド・リオル。
今はこのギルドで、【鑑定】の魔術を活かして、冒険者試験の統括をしている管理職者だ。

さすがに、高い地位にいるだけのことはある。応接間に通してもらい、ソファ席で向かい合う。

「でも、俺になんか用です? もしかして、もう上級ダンジョンの受験資格手にしました?」
「いいや、まだ全然及ばないよ。最近はなかなか行けていなかったしね。実績も作れていないんだよ」
「そうですか……。って、じゃあなんで俺のとこに?」
「あまり信の置けない人間には話したくないことがあってね。むしろ時間をもらっても平気だったか?」

俺がこう確認すれば、レオナルドは大きく目を見開き、なぜか身体をわなわなと震わせ始める。

「えっと、大丈夫かい、リオル君」

あまりにも異様なその様子に、俺がこう声をかければ、彼はぶんぶんと首を縦に大きく振った。

「全然大丈夫っす。ちょっと感極まっただけっす。先生に信用してもらえるなんて、光栄至極っす……!!」
「おいおい、大げさすぎやしないかな」
「いいえ。俺からしたら、このうえないことなんです。なんせこの俺が、先生に信用してもらえるほどの男になれたんすから」

彼はひしひしと喜びを感じているらしく、拳を握りしめて、嬉しそうに言う。
……が、別にそこまで深く考えて声をかけたわけじゃない。

ただ彼は昔からやんちゃでこそあれ、義理堅かった。

誰かにいらぬ他言をすることはないだろう。そう思っただけなのだが、まぁいい。

「ぜひ、なんでも聞いてください!!」

得意げにこう胸を叩く彼に、俺は遠慮なく聞かせてもらうこととする。

「リオルくん、ダンジョンで最近、なにか異変は起きていないかい?」

この一言には、レオナルドの目つきが一気に厳しいものへと変わった。

赤い目を尖らせて、

「……異変ですか」

と、低い声で呟く。

はじめて見たというくらい、真剣な顔だった。
これがかつてのやんちゃ少年ではなく、今の彼、一ギルド職員としての顔なのだろう。

そして、こんな顔をするからにはなにかあることは間違いないらしい。
その確信を得てから、俺は説明を加えることにする。

「もちろん、この間のアーマヅラが出たこともの一つだ。だけど、それだけじゃない。今日、ダンジョンに行ったら、まるで魔物に出くわさなかった。唯一、フライングバットだけだ。こんなこと、これまではなかった」
「……さすが先生っす。一回で、違和感に気付くなんて。もはや凄くても驚きません。大方そのとおりっす。冒険者たちのなかにも、魔物が少なくなったと感じている人はいるみたいですね。そのせいで依頼をこなせなくなったと嘆いている人も増えています。明白な原因は、分かっていないのですが、ギルドでも一応調査をかけてはいます」
「やはりそうか」

むろん、魔物が減ること自体はありえないことじゃない。
ダンジョンの発する瘴気が弱くなればその分、出現する魔物が弱くなったり、数が減ったりするのは普通だ。

が、今日確認したところ、瘴気に大きな変動はなかった。
だのに、数時間もダンジョンにいて、遭遇した魔物がたったあれだけというのは、おかしな話だ。

「……それで言えば一つ、気になることがありまして」
「なにか掴んでいるのかい?」
「いや、それほどのことじゃないですよ。ただ、直接ダンジョンに出向いているわけでもない俺が感じていることなんで、耳半分に聞いてほしいんですが……」

ここでレオナルドは口元に手を当てるから、俺は少し身を乗り出して、彼のほうへと耳を傾ける。

「今の環境で一人だけ、荒稼ぎしている冒険者がいるんです」

それはたしかに、気になる話だった。
魔物の数自体が減っているのだとしたら、特定の一人だけが成果をあげているのは、たしかにおかしい。
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