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二章 属性魔法学との対峙

64話 その男、ダンジョンでの調査に生徒と打って出る

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リーナが生徒たちを引きつけているうちに、すぐに学外へと出て、ダンジョンに向かう――。
そして日没までは一人でダンジョン調査を行い、そのまま帰路につく。

考えていたのはこんな計画であった。
が、しかし最後の授業を持ったクラスが彼女のいるクラスだったのが、まさかの展開のはじまりであった。

「いやぁ、アデル先生。一人で行くなんて水くさすぎだし」

ルチア・ルチアーノだ。
授業が終わるやいなや教室を出た俺の後ろから彼女が追いかけてきて、魔術の訓練をつけて、と懇願されたのだ。「お願い、お願いってば!」と、いつものため口で。

彼女が魔術に対して人一倍の興味を持っていて、才能があることは知っていた。

だから断り切れずに、今である。
俺は彼女とともに、王都外れに位置する『惑いの森林』ダンジョンにいた。

学校からの移動は、騒ぎにならないよう【視認阻害】魔術を使った。
いつかフェデリカに忠告されたとおり、大通りを避けてきたから誰かにぶつかることもなく、無事に到着できた。

「いやぁでもラッキーだなぁ。先生を独り占めできるなんて、今じゃそうないし。ルチアぐらいじゃない?」
「いいから行くぞ。それに、魔物も出るから気をつけてくれよ」
「はーい。で、なにをやればいいんだっけ」
「この前アーマヅラが発生した箇所の魔素確認だよ。「膨」の異常値がないか確認しにきたんだ」

「膨」の魔素が、瘴気と混じりあう。
その現象が起きるには、空気中に含まれる「膨」の魔素が通常より多いことが原則になってくる。

そもそも空気に含まれている程度の分量なら、あそこまで異常な反応を示すことはないからだ。

だから素直に考えれば、この間アーマヅラが発生した地点かその近くに、「膨」の魔素が多く噴出する原因がある。

そうでなければ、何者かの手によってその状況が作られた――と、こう考えるのが自然だろう。

「なるほどねー、じゃああれだ。【鑑定】が使えればよさそうかな?」
「そうだな。あれから、また練習したのか?」
「そりゃあもう。学校の授業サボって、魔術陣書いてたもん」
「それは教師としては見過ごせないなぁ。俺はなにも、属性魔法が絶対にダメだって言ってるわけじゃないんだぞ」
「あー、はいはい、分かってる分かってる」

ルチアは目を瞑りながら、適当に手を払う。
いうまでもなく不遜な態度だが、彼女は誰に対してもこの態度だ。

だから別に不快に思ったりはしない。

「ルチアはね、やると決めたことはとことんやるんだよ。それがルチアの信条だ! ってね」

彼女はそう言うと、指に魔力を灯して、その場で空中に紋様を描き始める。
そのスピードはさらに速くなっており、正確性も変わっていない。

そうして魔術が発動されて、彼女は何度か首を縦に振る。

「うん、このあたりはとくに変わった感じはないかも。瘴気は漂ってるけど、周りと大差ない感じ。どう、この見立て」
「……正解だろうな、きっと」
「あれ、先生は魔術使わなくても分かる感じ?」
「いいや、【鑑定】の魔術陣が綺麗に描かれていたからだよ。俺がやったって同じ結果になってる。なかなかやるな、ルチアーノ君」

俺がこう褒めると、えへんと彼女は胸を一つ叩き、歯を見せて笑った。

「まぁね。もう先生の指導いらないかも」
「うん、そうかもしれないな」
「って、ちょ、やめてやめて。冗談だって。まだまだこれ基礎でしょ。先生が「基礎を固めろ」って言ったからやったんだし。先生以外に言われてたらやってないっていうかさ」

ルチアは珍しく、少し恥ずかしそうにこめかみをかきながら言う。
それからすぐに、俺の前を速足で歩きだした。

「もう行くよ!」

……いつのまにか、立場が逆になっている。
が、別に調査ができるなら、どちらでも大きな差はない。

俺は彼女についていき、調査を進めていく。
その結果、特異的に「膨」の魔素が噴出しているような地点はどうしても見つからなかった。

「んー、じゃあやっぱり人がやったってこと?」
「あとは魔物から出てる可能性もあるね」

まぁ少なくとも、これまでそんな魔物はいなかったから、限りなく可能性は低いのだけれど。

「まぁ断定はできない。決めつけて入ってはいけないよ」

俺はあえて、こう濁す。
そこで意図的に話を断ち切った。

もし、トレントを進化させアーマヅラにするだけではなく、あれだけのサイズに肥大化させる行為が人為的に行われていたとなると、厄介な事件が後ろに隠れている可能性があるからだ。

そして、その実行者は只者ではない。
なにせ「膨」の魔素を集められるということは、魔術を使えるということとイコールで結ばれる。

そのうえ、あれだけ肥大化させるほどの量を集めたのだから、その習熟度はかなりの領域と見ていい。


魔術がほとんど廃れてしまった今の時代である。
自分で言うのもなにだが、魔術を高レベルで操ることのできる人間は少なくとも普通じゃない。

そんな危ない奴が、魔物を進化させて、なにかの悪事を企んでいるのだとしたら、あまり深く、一学生であるルチアを巻き込みたくなかった。
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