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二章 属性魔法学との対峙
58話 その男、あらゆる人から引っ張りだこになる
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国王により魔術による調査結果が認められた翌日。
朝、学校へと出勤するために宿の外へと出た俺は、かなり驚かされた。
なんと出たところには、
「アデル先生! 昨日の説明会について、詳しく教えてください!」
「国を動かすなんてそうできることじゃないですよ」
数人の記者がペンとメモを片手に待ち構えていたのだ。
そういえば朝食をいただいている時に宿屋の看板娘・ミモザさんが言っていたっけ。
「号外に乗ってましたよ」と。
たぶん、昨日の説明会の件だろう。
国王が直々に、魔術学教授たる俺に調査の継続を促したというニュースは結構センセーショナルなものとして報じられていたらしい、
彼女は、わざわざ俺の分も取ってくれていた。
おかげで手元にはあるのだが、いかんせん時間がギリギリであった(昨日の疲れから長く寝てしまったのだ)。
そのためまだ読んではいなかったが……
まさか、朝から張り込まれるほど話題になっているとは思わない。
「すいませんが、急いでおりますので」
俺は一応こうだけ答えて、記者たちの前を足早に後にする。
が、ぴったりとくっついてくるのだから困った。
まぁ考えてもみれば、別にここの宿屋に宿泊していることだって、誰かに言ったわけではない。
それなのに朝からこうして待ち伏せをしているのだから、常識は通用しないらしい。
どうしたものかと思いつつ、そのまま記者らを引き連れて、大通りまで出る羽目になる。
「少し取材にお答えいただければ、それだけでいいですから!」
と、記者の方が言うのには正直揺らいだ。
まだ学校は遠いから、いっそのことインタビューを受けてしまったほうが楽だったりして……
そんなふうに思っていたそのときだ。
すぐ横の道に、一台の馬車が止まった。その馬車からは複数人のいかにも鍛えられた男たちが降りてきて、俺の周りを囲み始める。
今度はなんだよ……。もしかして、どこかの貴族に攫われるのか?
そう思っていたら、その馬車から最後に降りてきたのは、リーナであった。
「ずいぶん派手な真似をしたね、リーナ」
「先生が不用心なのですよ。昨日の号外が出てから、先生はかなりの有名人になっていますから。歩いて通勤などすれば、当然こうなります」
「……悪かったよ」
「別に責めているわけではありませんよ。なんなら、こうして迎えに上がることで先生を助けられて嬉しいくらいなのですから。どうぞ、こちらへ。行きましょうか、学校に」
リーナはそう言ってにこりと笑みを浮かべると、俺に向けて手を差し出してくる。
この状況で、断ることなどできるわけもない。
……だが、手を触るというのはいかがなものか。
俺は自分の手を出すことなく、「お願いするよ」とだけ答える。
「そこまでして避ける必要はないと思いますよ」
リーナはこう口を尖らせていたが、一応は手をひっこめてくれた。
彼女とともに籠に乗りこむと、馬車はすぐに出発する。
「あの人たちは置いて行っていいのか?」
「えぇ。目くらましのために、屋敷から出動させただけですから。構いませんよ」
「……なかなかな人使いだな」
「賃金を与えている以上、しっかりと働いてもらわないといけません。あれも立派な仕事ですから」
なるほど、と納得する。
たしかに一流貴族なら、人をうまく使うのは一つ必要なことだ。
「リーナ。感謝するよ。とても助かった。宿からついてこられて面倒だったんだ」
「そうですか。やはりあの宿に住み続けるのは、まずいのかもしれませんね。場所が割れてしまっていますから、またあのように、人が集まってしまいかねません」
たしかに、その側面はあるかもしれない。
朝から記者に張りこまれたりしたら、宿としては迷惑そのものだ。
泊りに来る客からだって敬遠されてもおかしくない。
「そろそろ、どこかに家を借りたほうがいいかもしれないな。まだお金に猶予があるわけではないけどね」
「そういうことでしたら、いいところがありますよ。家賃は0、家事、食事、風呂つきで、送り迎えも完備です。いかがでしょう」
「……それって」
「もちろん、私の家ですよ。私はまだ諦めていませんからね」
……そういえば、この生徒はかなり諦めが悪いのだった。
俺は苦笑いを返しつつ、ふと思う。
「というか、よく俺をあの通りで捕まえられたな」
「先生の居場所を見つけるのは得意ですから。そろそろ大通りに出てくるころ合いかと思い、待ち伏せさせていただきました」
……うん、リーナも待ち伏せしてくるうちの一人だったわ、そういえば。
朝、学校へと出勤するために宿の外へと出た俺は、かなり驚かされた。
なんと出たところには、
「アデル先生! 昨日の説明会について、詳しく教えてください!」
「国を動かすなんてそうできることじゃないですよ」
数人の記者がペンとメモを片手に待ち構えていたのだ。
そういえば朝食をいただいている時に宿屋の看板娘・ミモザさんが言っていたっけ。
「号外に乗ってましたよ」と。
たぶん、昨日の説明会の件だろう。
国王が直々に、魔術学教授たる俺に調査の継続を促したというニュースは結構センセーショナルなものとして報じられていたらしい、
彼女は、わざわざ俺の分も取ってくれていた。
おかげで手元にはあるのだが、いかんせん時間がギリギリであった(昨日の疲れから長く寝てしまったのだ)。
そのためまだ読んではいなかったが……
まさか、朝から張り込まれるほど話題になっているとは思わない。
「すいませんが、急いでおりますので」
俺は一応こうだけ答えて、記者たちの前を足早に後にする。
が、ぴったりとくっついてくるのだから困った。
まぁ考えてもみれば、別にここの宿屋に宿泊していることだって、誰かに言ったわけではない。
それなのに朝からこうして待ち伏せをしているのだから、常識は通用しないらしい。
どうしたものかと思いつつ、そのまま記者らを引き連れて、大通りまで出る羽目になる。
「少し取材にお答えいただければ、それだけでいいですから!」
と、記者の方が言うのには正直揺らいだ。
まだ学校は遠いから、いっそのことインタビューを受けてしまったほうが楽だったりして……
そんなふうに思っていたそのときだ。
すぐ横の道に、一台の馬車が止まった。その馬車からは複数人のいかにも鍛えられた男たちが降りてきて、俺の周りを囲み始める。
今度はなんだよ……。もしかして、どこかの貴族に攫われるのか?
そう思っていたら、その馬車から最後に降りてきたのは、リーナであった。
「ずいぶん派手な真似をしたね、リーナ」
「先生が不用心なのですよ。昨日の号外が出てから、先生はかなりの有名人になっていますから。歩いて通勤などすれば、当然こうなります」
「……悪かったよ」
「別に責めているわけではありませんよ。なんなら、こうして迎えに上がることで先生を助けられて嬉しいくらいなのですから。どうぞ、こちらへ。行きましょうか、学校に」
リーナはそう言ってにこりと笑みを浮かべると、俺に向けて手を差し出してくる。
この状況で、断ることなどできるわけもない。
……だが、手を触るというのはいかがなものか。
俺は自分の手を出すことなく、「お願いするよ」とだけ答える。
「そこまでして避ける必要はないと思いますよ」
リーナはこう口を尖らせていたが、一応は手をひっこめてくれた。
彼女とともに籠に乗りこむと、馬車はすぐに出発する。
「あの人たちは置いて行っていいのか?」
「えぇ。目くらましのために、屋敷から出動させただけですから。構いませんよ」
「……なかなかな人使いだな」
「賃金を与えている以上、しっかりと働いてもらわないといけません。あれも立派な仕事ですから」
なるほど、と納得する。
たしかに一流貴族なら、人をうまく使うのは一つ必要なことだ。
「リーナ。感謝するよ。とても助かった。宿からついてこられて面倒だったんだ」
「そうですか。やはりあの宿に住み続けるのは、まずいのかもしれませんね。場所が割れてしまっていますから、またあのように、人が集まってしまいかねません」
たしかに、その側面はあるかもしれない。
朝から記者に張りこまれたりしたら、宿としては迷惑そのものだ。
泊りに来る客からだって敬遠されてもおかしくない。
「そろそろ、どこかに家を借りたほうがいいかもしれないな。まだお金に猶予があるわけではないけどね」
「そういうことでしたら、いいところがありますよ。家賃は0、家事、食事、風呂つきで、送り迎えも完備です。いかがでしょう」
「……それって」
「もちろん、私の家ですよ。私はまだ諦めていませんからね」
……そういえば、この生徒はかなり諦めが悪いのだった。
俺は苦笑いを返しつつ、ふと思う。
「というか、よく俺をあの通りで捕まえられたな」
「先生の居場所を見つけるのは得意ですから。そろそろ大通りに出てくるころ合いかと思い、待ち伏せさせていただきました」
……うん、リーナも待ち伏せしてくるうちの一人だったわ、そういえば。
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