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一章 かつての生徒が迎えにきて
20話 その男、五年ぶりに王都へ帰還する。
しおりを挟むその後、力を取り戻したリーナとの旅は、すこぶる楽だった。
中級程度の敵は、本来の実力を取り戻した彼女にとって敵ではないらしい。
「これくらいの敵で、先生の手を煩わせられませんよ」
現れた敵を馬から降りることなく、剣に纏わせた魔法で次々になぎ倒していく。
「……もう俺いらないんじゃ?」
と思うレベルだったが、彼女は「なにを言いますか!」と前方で声をあげる。
「魔術についても、まだまだ教わり足りません。これからですよ、むしろ」
その声音は、さっきより一段と明るい。
夕方を過ぎて暗くなっていく森とは正反対だ。調子よく、森の中を進んでいく。
やがて日が完全に落ちて当たりは真っ暗になるが、そこで俺は先導をとって変わった。
魔術の一つ【暗視】を使えば、夜目が聞くようになるのだ。
「……本当、使い勝手がいいですね」
「魔術サークル内の式に、集めた魔力を規定通りに流し込んでいるだけだけどね」
「そもそも、それだけ早く魔術式をその場で書けるのは先生だけです。難しいんですよ。術式も困難ですし」
まあたしかに、俺も前世がなければ、そう簡単ではなかったと思う。
この操作性の難しさも現代において魔術学が廃れてしまった一つの理由かもしれない、と改めて考える。
久々に、研究者らしい思考ができたことに我ながらほっとしていると、前方に怪しげな影を見つけた。
道の両脇に潜んでいるのは、うん、間違いなく野伏。
ダンジョン内で生活するだけではなく、冒険者から追いはぎを行うなど、荒くれた連中だ。
どうやら馬の足音が聞こえて、俺たちをターゲットにしたらしい。
一部のものは、もう刀や薙刀を構えて、こちらをうかがっている。
「ま、たしかに馬に乗ってダンジョンに入る奴は、金を持ってるって思われるか」
草陰には、一人ではなく何人もの影を感じた。
このままでは襲われるのは目に見えている。
「先生、どうかしましたか?」
「この先に野伏がいるんだ。徒党を組んでる」
「……急いでいるのに厄介ですね、それは」
「あぁ、正面から勝負するのは避けたいね」
そのための方法は、すでに思いついていた。
俺はいくつかの魔術を準備したうえで、野伏たちの潜む草陰の横を通過せんとする。
「運が悪かったな、若造ども! このおれさま達に見つかったのが運の尽きだぜ。とっとと金目の物と、その綺麗な嬢ちゃんをおいて―――――って、いないだと⁉」
彼らがちょうど出てきたその時に、【視認阻害】の魔法を発動してやったのだ。
そこへ、リーナが小声による詠唱とともに水属性の魔法・水槍を食らわせる。
空から水で作った槍を降らせたのだ。
「な、なんだ⁉ 見えねぇところから、攻撃が飛んでくるぞ!!」
「ぐああっ⁉ な、なんなんだ⁉ 霊現象でも起きてるのか⁉」
……馬車を止めて、うしろを振り返れば超滑稽な光景が広がっていた。
「くそ、そこにいるんだろ!! てめぇら、かかれ!!」
「やれ! 一斉に刀を突きさすんだ!」
どうにか反撃をしようと、すでに誰もいない空間に向けて、刀を振りつけたりなどしているのだ。
だが、そこに誰がいるわけでもない。認識を阻害し、ただ白光りする壁だけが存在している。
そのため、まるで寸劇状態であった。
ここまできたら、もう容赦はしない。
俺は【視認阻害】の壁に【反転】も発動させる。
それにより、今度は自身の攻撃が跳ね返って、いともあっさりと全滅していた。
「完膚なきまでにやりましたね、先生」
「うん。あぁいう輩は、早いうちに芽を摘んでおいた方がいいからね」
「とても助かりました、ありがとうございます」
あの分ならば、しばらく伸びていることになるだろう。
違法行為の通報は誰かにまかせることとして、俺たちは再び馬車のスピードをあげたのであった。
そしてついに長い距離を要した『惑いの森林』を抜ける。
ダンジョンの外へと出たら、そこからは舗装をされた平坦な道をしばらく行くことで……
まだ日も変わらない頃、もう目的地に到着していた。
そこにそびえるのは、王都の門。ハイデル王家の家紋である、鷹をモチーフにした彫りがその特徴であり、相変わらず立派な作りをしていた。
これは、前世の時にはなかったから後世に作られたものだ。
その門の前には、通過の審査待ちだろう商人の列が、深夜にもかかわらずできている。
さすがは、眠らない街・ハイデル王都だ。
「さぁ行きましょうか、先生。私の特許がありますから、この列に並ぶことはありませんよ。さぁ、馬を下りてこちらへ」
リーナに導かれて、簡易的な検問を無事に通過する。
高ぶるような、懐かしいような、どっちともつかない心地だった。
なにせ、もう帰ってくることはないと思っていたのだ。
かつての日々が一挙に頭を駆け巡って、俺は一度深い息をつく。
それから覚悟を持って門の下をくぐり、王都・ハイデルの中へと踏み入れた。
これが実に、五年ぶりの帰還であった。
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