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一章 かつての生徒が迎えにきて
16話 時に生徒で、時に生徒じゃない。
しおりを挟む「いい快晴ですね、先生。きっと天気も先生の選択を祝福しているのですよ」
出立の日は、それから二日後になった。
そもそもまともな暮らしをしていたわけじゃない。
リーナに手伝ってもらうと、荷物の少ない家の片づけはすぐに済んだ。
とくに別れを惜しむような友人がいなかったのも大きい。
ここでの日々は、とにかく仕事に支配されており、人付き合いする余裕などなかったのだ。
「彼女とか、妻とかはいないのですよね」
ただ、片づけの最中リーナにこう聞かれたときは、少し答えに躊躇した。
まともな人間ではないと思われるかもしれない、そう考えたためだ。
が、しょうもない見栄を張ったところで、どうせすぐにばれる。
「あぁ、そんな余裕はなかったからね。家庭を抱えるなんて考えられないよ」
正直に言えば、
「……そうですか、独り身ですか。それはよかったです」
なぜか独身を喜ばれたのは、本当に謎だった。
それから、やたらともじもじしていたのも。
ともかくも、そんなこんなうちに片付けは無事に終わり、翌朝。
俺たちはリーナの手配した二頭の馬にそれぞれ乗って、王都へ向けて出発した。
本来なら、旅程は約一日を要する。
山や森に囲まれた盆地に作られた王都までは、それらを迂回するようなルートを通らなければならず、直線距離よりかなりの時間がかかるのだ。
しかし、リーナは少し急いでいるらしかった。
「実は少し滞在日程を引き延ばしておりました。このままでは、学校内の各種決裁に滞りが出てしまうかもしれません。ダンジョンを通り抜けていきませんか」
「もしかして、『惑いの森林』か? たしか中級にあたるダンジョンだったよな」
『惑いの森林』ダンジョンは、王都の右側を囲うように存在しており、かなりの大きさを誇る。
普通ならば大回りをする必要があるが、突き抜けていければ、移動距離は短くなる。そのぶん、所要時間も半日程度には短縮できるだろう。
「はい。私は、すべてのランクのダンジョンに立ち入る権利を持っております。入ることにはなんの問題もありません」
「俺は構わないよ。そういうことなら、君に任せるよ、リナルディくん」
「……ありがとうございます、いつまでも手のかかる生徒で申し訳ございません」
そう謝罪してからリーナはたづなを操作して、馬の進行方向を変える。
が、すぐに止めて俺の方を振りかえった。
その割に、なぜか視線は空の方を向いている。
「それと、リーナとお呼びください、先生。もう生徒じゃないので」
「……先生って呼んでるし、どっちなんだよ」
「時に生徒であり、時に生徒じゃないんです」
都合がいいな、それ。
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