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一章 かつての生徒が迎えにきて

4話 その男、前世あり。

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自分には前世がある。

その事実に気づいたのは、20の頃。
地方子爵の次男であったが、魔力を持たずに俺は役人を志して、日々勉強に励んでいた。

そんなある日、国立図書館内でやたら古びた書物を見かけた。
どういうわけか気を引かれてそれを開いてみると、その記憶はとんでもない頭痛とともに、唐突に記憶として蘇ってきた。


今から約1000年前――。
今はなき、グランデ王国にて、俺はアデル・オースティンという名の魔術師であったらしいのだ。

前世でも所持魔力は0で属性魔法はろくに使えなかったものの、こと魔術の扱いとなれば天下一。
はじめは冒険者がてら研究をしていたが、やがてその力量を買われ、王立魔法学校にて魔術学の教授まで上り詰めた。

その後は術式の研究や術具の開発などに心血を注ぎ、国の発展に貢献。やがて名誉教授の地位をもらう。

『当代一の魔術師』と、もっぱらもてはやされるほどだった。


以降の人生など一部はっきりしない点はあるものの、その記憶はあまりにもリアルな質感を持っていた。
かつ、『転生した事実は誰にも言ってはならない。言えば、世界に災いが訪れる』と頭の中になぜかしっかり刻み込まれていたのだから到底、作り物とは思えない。

だが、それだけなら都合のいい妄想に陥ったという可能性もある。

実際、魔術はこの世から喪失しており使い手を見たこともない。
だから、あくまで試しに頭の中にあったイメージどおりに、【浮遊】の魔術を使ってみると、これが怖いくらいにうまくいった。

「……本当にできた」

あたりの本がすべて、書庫内で宙に浮きあがったのだ。
それも術式を細かく変えることで、一冊の本ごとに自在に繰ることもでき、そのまま棚へ戻すこともできた。

そして、この体験から俺の人生は一変することとなる。

記憶が馴染んだのだろう。
日を経るごとにだんだん魔術を使いこなすようになった俺は、生活魔法として利用したり、ダンジョンでの狩りに利用したりと、どんどん使いこなしていく。

そうしているうち、22の頃に、ついぞ国に目をつけられた。
あれよあれよという間に、前世同様、ハイデル王立第一魔法学校の講師として取り立てられたのだ。


国内に5つある魔法学校の中で、最上位に位置づけられる学校である。
15歳~18歳の生徒が属しており、国が出資していることもあり、高貴な名家の生徒や学績優秀な生徒が数多く通う。

教師陣も、実績のある面子ばかりが揃う超優秀校だ。

しかし、そんな学校でも『魔術学』は研究されていなかった。
現代、『魔術』はすっかり衰退し、使えるものは一部いるものの、『属性魔法』の下位互換扱い。まったく世に浸透していなかったのだ。

俺が使う魔術は、『喪失魔術』と呼ばれていたくらいである。
そのため俺は、国で唯一の『喪失魔術学』教授として、教鞭をとることになる。

魔法陣や魔術式の書き方、発動方法などを生徒へ指導をしつつ、魔術の研究に没頭することとなった。

学説では、いわゆる五属性しか魔素の種類はないとされていたが……

魔術においては、その何倍もの魔素がある。

そんな俺にとっては当たり前のことすら、魔術のない世の中には、革命的な事実となったらしい。

研究の成果は上々で、魔術は徐々に魔法学界隈で認められていく。
そのうえ、生徒からの評判もそれなりに高かったはずだ。

中には、

「この先も私は先生だけについていきます、心から尊敬しております」

こうまで言って慕ってくれるような生徒もいたっけ。
可憐で、かつ身分も申し分のない少女だったから、その姿は今もよく覚えている。

もちろん、他の生徒らのことも忘れてはいない。
彼らへの指導を含めて、魔法学校での時間は非常に充実したものであった。

しかし、である。
その時間が長く続くことはなかった。
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