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一章 かつての生徒が迎えにきて
3話 その男、魔力0でも最強の魔術師
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指をぐっと手の内側へ握りこむ。それから空気中に素早く書き付けたのは『魔術サークル』だ。
すぐに、紋様が空中に浮かび上がる。
ちなみに俺自身の所持魔力は、正真正銘の0であった。
けれどその分は、右の中指にはめている特殊な指輪が、代わりに空気中に漂う多種多様な魔素から、魔力を生成してくれていた。
――【視認阻害】、【鉄壁吸収】。
そして、術の発動までは、ほぼノータイム。
五年ぶりの発動でも、身体がはっきりと記憶していた。
魔力を流し込んで使ったのは、視界を遮る魔術と、攻撃を受け止めて自分の魔力へと変える魔術だ。
空気とともに太陽光の粒子を圧縮して強い白光を発生させ、一方で粒子濃度の薄くなった周囲の空気を円盤状の受け皿にして魔力を吸収する。
これにより、生徒の目にはヒュドラが忽然と現れた白光に包まれていたように見えているはずだ。
そのうえ、火球があたることもなくなる。
なぜ見えないようにまでしたかと言えば、諸事情で目立ちたくなかったからだ。
あまり注目されると、困る事情があるのだ俺には。
ともかくこれでやっと、準備は整った。
あとは、この化け物を倒すだけ。
そしてそれも、魔術(・・)を解放した以上は、簡単な事であった。
――【反転】。
続けて発動したのは【鉄壁吸収】と対になる魔術である。
魔術サークルに貯めこまれた魔力を、今度は一気に放出するのだ。
かなり強力になったそれは、巨大な一本の薙刀となり、ヒュドラの首元をめがけて飛んでいく。
そして、あっさりとその首をはねた。それも三つの首をすべて、だ。
ヒュドラは一本でも首が残っていれば、再び分裂する。
が、これで間違いなく息だえたに違いなかった。俺はそれらの首が轟音を立てて山肌へ落ちるのを確認してから、ほっと息をつく。
後ろを振り返ってみれば、生徒はなにが起きたか分かっていない様子で、茫然と座り込んでいた。
「なんだ、なにが起きたんだ……⁉ 俺が見た化け物は幻覚……⁉」
ひとまず誰一人怪我させることなく、実習が終わったことに安堵すると同時、俺が倒した場面を見られていなかったことにもほっとする。
『魔術』は、世の中一般に言う魔法・『属性魔法』とは大きく違う。
属性魔法は、火、水、風、土、光と五の属性に分かれ、血筋によって発動できる属性が決まる。どんな達人でも、自分の属性外の魔法は放てない。
が、『魔術』は、そうではない。
魔術サークル内の紋様や術式を書き換えて操ることで、属性の概念から離れた魔法をも使うことができる。
大気中のさまざまな魔素を利用する点も含めて、根本から性質が異なるのだ。
有用性の高いこの『魔術』であるが、今の時代では廃れており、使い手はほとんどいない。
そのため、見つかれば間違いなく異端視される。
実際、過去には痛い目にあった事もあった。
だから、決して使わないよう、完全に封印していたのだ。
ではそもそもなぜ、俺が魔術を使えるか。
そのワケはといえば――――俺が、アデル・オルラドが前世持ちの転生者であるためだ。
すぐに、紋様が空中に浮かび上がる。
ちなみに俺自身の所持魔力は、正真正銘の0であった。
けれどその分は、右の中指にはめている特殊な指輪が、代わりに空気中に漂う多種多様な魔素から、魔力を生成してくれていた。
――【視認阻害】、【鉄壁吸収】。
そして、術の発動までは、ほぼノータイム。
五年ぶりの発動でも、身体がはっきりと記憶していた。
魔力を流し込んで使ったのは、視界を遮る魔術と、攻撃を受け止めて自分の魔力へと変える魔術だ。
空気とともに太陽光の粒子を圧縮して強い白光を発生させ、一方で粒子濃度の薄くなった周囲の空気を円盤状の受け皿にして魔力を吸収する。
これにより、生徒の目にはヒュドラが忽然と現れた白光に包まれていたように見えているはずだ。
そのうえ、火球があたることもなくなる。
なぜ見えないようにまでしたかと言えば、諸事情で目立ちたくなかったからだ。
あまり注目されると、困る事情があるのだ俺には。
ともかくこれでやっと、準備は整った。
あとは、この化け物を倒すだけ。
そしてそれも、魔術(・・)を解放した以上は、簡単な事であった。
――【反転】。
続けて発動したのは【鉄壁吸収】と対になる魔術である。
魔術サークルに貯めこまれた魔力を、今度は一気に放出するのだ。
かなり強力になったそれは、巨大な一本の薙刀となり、ヒュドラの首元をめがけて飛んでいく。
そして、あっさりとその首をはねた。それも三つの首をすべて、だ。
ヒュドラは一本でも首が残っていれば、再び分裂する。
が、これで間違いなく息だえたに違いなかった。俺はそれらの首が轟音を立てて山肌へ落ちるのを確認してから、ほっと息をつく。
後ろを振り返ってみれば、生徒はなにが起きたか分かっていない様子で、茫然と座り込んでいた。
「なんだ、なにが起きたんだ……⁉ 俺が見た化け物は幻覚……⁉」
ひとまず誰一人怪我させることなく、実習が終わったことに安堵すると同時、俺が倒した場面を見られていなかったことにもほっとする。
『魔術』は、世の中一般に言う魔法・『属性魔法』とは大きく違う。
属性魔法は、火、水、風、土、光と五の属性に分かれ、血筋によって発動できる属性が決まる。どんな達人でも、自分の属性外の魔法は放てない。
が、『魔術』は、そうではない。
魔術サークル内の紋様や術式を書き換えて操ることで、属性の概念から離れた魔法をも使うことができる。
大気中のさまざまな魔素を利用する点も含めて、根本から性質が異なるのだ。
有用性の高いこの『魔術』であるが、今の時代では廃れており、使い手はほとんどいない。
そのため、見つかれば間違いなく異端視される。
実際、過去には痛い目にあった事もあった。
だから、決して使わないよう、完全に封印していたのだ。
ではそもそもなぜ、俺が魔術を使えるか。
そのワケはといえば――――俺が、アデル・オルラドが前世持ちの転生者であるためだ。
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