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1章 追放と受け入れ
26話 事態の収拾と決意
しおりを挟む事態に収集がつくまで、さほどの時間は要さなかった。
大掛かりなことをしたとはいえ、しっかり安全は確保していたためだ。
村人は、そのほとんどが結界の中にいたため、無事だったし、残党狩りにあたって少し怪我を負ったタングとトングの兄弟は、ナナが手当てをしてくれた。
捕らえた男爵の手下たちにも、治療は受けさせた。
その代わりに、次に同じようなことを繰り返さないよう誓わせる。
そして、デビットリーチ男爵にはーー
「俺様……いえわたくしめは、今後ハイネ様の忠実なる部下として、あなた様に必ずや忠誠を誓いますゥ……」
「では、その言葉。わたくしナナの名前のもとに確かに受理いたしました!」
誓文を書かせた上で、契約を結んだ。
もし破ろうとせんものなら、魔法が発動し、契約を強制させるものだそうだ。
どうやら女神・アテナイの元いた世界では、このように約束事を担保していたらしい。
天使であるナナは、女神の代理として、その管理を司っていたとか。
色々とこの世界の常識から、かけ離れているが……もはや今さらだ。
それに、天使らしい能力といわれれば、そうかもしれない。
「デビットリーチさん、これからよろしくお願いしますね。もちろんこの契約の件は他言無用です」
「お、俺様……じゃなくて、わたくしめの方こそ、末長くよろしくお願い申し上げますゥ……」
やかましいよりは、しおらしい方がありがたい。
とはいえ、態度が変わりすぎではないだろうか。
「肩の力を抜いてください。別に、いつまでもこの契約に縛り付けるわけじゃありませんよ」
「……と申されますとォ?」
「契約で縛り付けずとも信頼できる関係を結べれば、その暁には解除しますから」
ハイネは、にこりと笑いかける。
一方のデビットリーチ男爵は、拍子抜けといった表情だ。
「わたくしめが言うのも変ですが……。
わたくしめは、この村に狼藉を働いていた張本人……。そのような甘い処遇で、よいのですかァ?」
「えぇ。ただし、全てはこれからのあなたの行動次第ですが」
たしかに彼自身が言う通り、村からの搾取は許される行為ではない。
重い罰が与えられて然るべきだ。
ただ、元を糺せば村からの搾取はマルテ伯爵の命だったと言う。
伯爵は自身の直下にあるマルテシティを発展させるために、近隣の町や村から金を吸い上げるよう指示していたらしい。
従わなければ地位を追われていただろうというから、無罪放免とは行かずとも情状酌量は認められよう。
それに、貴族の端くれである男爵が、元底辺聖職者に裏で操られるのは、十分な罰になるだろう。
その中で彼が改心してくれたなら、なおいい。
「…………かしこまりました。ご期待に添えるよう働きますゥ……」
男爵は跪き、頭を下げる。
その変わった形の頭のてっぺんを見ていて、ひとつ思い出した。
「じゃあ早速ひとつ教えてほしいんだけど、いいかな」
「はっ、なんなりと」
「マルテ伯爵が僕を探しているというのは、本当かい?」
この真偽を聞いておかなくてはなるまい。
にこやかながら迫力のこもったハイネの笑顔に、男爵は喉を引き攣らせながら答える。
「あぁ、はい。たしかに、そのように伯爵に命じられましたッ。
緑の髪の青年が領内にいないか探して見つけ次第捕らえろ、と」
不可解な話だった。
自ら追放したというのに、今さらハイネになにを求めるのだろう。
「理由は知ってます?」
「すいません、そこまでは。……あぁそれといえば、なぜかご令嬢のナタリア様も行方しれずとかで、並行して探せと指示がありました」
久しぶりに聞いた恩人の名前に、ハイネは少し気取られる。
それも、家を出ただなんて寝耳に水だ。
令嬢が逃げ出すなど、特殊な事情でもなければ、考えられない事態である。
だが、それをこの男爵が知っているわけもあるまい。
「じゃあ、その命令はここで終わりだ。
これから伯爵に会うことがあっても、僕がここにいることは黙っててもらえるかな? もちろんナタリア様のことを探す必要もない。いいね?」
「か、かしこまりましたッ! もちろんでございます!」
うん、とハイネはまた頬を緩ませ頷く。
それがまた男爵を怖がらせたらしく、彼は唇を強く噛み締め震えていた。
これ以上、なにか聞いても仕方ない。
後日ということにして、今日は村から帰してやることにした。
♢
その夜、カミュ村では数日前の歓迎会に続き、祝勝会が催されていた。
そして、
「いやはやハイネ殿、やはり素晴らしいのぅ。統治者の才覚じゃよ、あの発想!」
「これでハイネ様が領主かぁ、やった~!!」
ハイネの、いわば『裏男爵』への就任も同時に祝われていた。
悦びに満ちた空間だった。
村人も、ナナも、揃って飲めや踊れやの大騒ぎだ。
そんななか、ハイネは一人、しみじみと思う。
(とんでもないことをしたのかもしれない……、僕は)
村を守るため、男爵の地位を乗っ取る。
この案は、代官らが襲撃する直前のほんの短い時間で決めたことだ。
あの時は覚悟を決めざるをえなかったとはいえ、人の上に立つなど、常に踏みつけられてきた自分にできるのだろうか。
今のハイネにあるものといえば、本などで学んだ基礎的な知識のみだ。
実際に誰かを指揮したこともないものが、一夜にして裏男爵である。
一足飛びに、色々な過程を飛び越えすぎている。
「ハイネ様、どうしたんです?」
「ハイネさん、大丈夫ですか、大丈夫ですか」
思い悩んでいると、ナナとレティがハイネに声をかける。
「ハイネ殿よ、酒が足りんかのぅ?」
「あ、兄者。ハイネさんの元気がない。どうすればいい……?」
「弟よ、俺に聞くでない!」
サンタナ爺に、トング・タング兄弟も、ハイネを心配そうにしてくれる。
「……いえ、はい。大丈夫ですよ」
彼らに笑顔を返すだけで、不思議と心が軽くなっていった。
吊り下がっていた重石が、その姿を消す。
そうだ、なにも一人でやるわけじゃないのだ。
むしろ、一人でやってしまっては、これまでの圧政と変わりない。
みんなに支えてもらって、一緒に変えていくべきだろう。
幸い、ここには信頼できる人たちばかりが集まっている。
ここから先の未来。
ずっと底辺で暮らしてきたハイネには、その想像が全くつかない。
それでも、手探りでもやって、光の差す未来を求めてみよう。
そう、思えた瞬間だった。
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