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1章 追放と受け入れ

24話 赤子の手をひねる戦闘

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代官らの襲来まで残りわずか。
ハイネは一人、集会所を後にした。

建物の裏手にある草陰へ身を隠すと、『結界組成』を用いて、建物全体を包む結界を作り上げる。


レティたち村人やナナには引き続き、室内に篭ってもらっていた。

つまりこの結界さえ破られなければ、彼らが怪我をすることはないわけだ。


マナ魔法はまだ覚えて一ヶ月ほどでしかない。

だからこそ今できるベストを尽くそうと、ハイネは念を入れて、その強度をより上げていった。

マナは、魔力の最小単位であり、その結合により魔法は発動される。

つまり、その密度を高めれば高められるほど、強固な魔法が作り上げられるはずだ。


そうして準備を怠らずに待つこと、数分。
代官たちは、ついにカミュ村にやってきた。

ナナの言っていたとおり、ざっと200人はいる。

「こんな村、潰すまで搾り取って構いませんぜ。デビッドリーチ男爵!」
「はっは、言われなくとも潰すさァ。さてはて、家の中に引っ込んでるのかねェ」
「引きずり出してあぶり出しちまいましょうとも!」

例の代官は、男爵と呼ばれる男に、媚びへつらっていた。
しきりに頭を下げながら、両手をこねる。

「代官。お前の言う変な旅人とやらがいたとしたら、そいつも捕まえるぞォ。
 なにせ伯爵様が探してらっしゃる奴かもしらねェ。捕まえたら大手柄だ」

「…………あやつを伯爵様が。ですが、奴は妙な魔法を使うんです」
「はっは、どんな魔法だろうが、こっちは200人。圧倒的な多勢だぜェ。この人数に敵うわけがねぇさァ。
 それも、元Bランク冒険者の俺様もいるんだぞォ?」

男爵の方も、余裕綽々と言った様子で、ニタニタと笑う。
妙に縦へ尖った黒髪が、特徴的な男だった。

(……変な旅人、って僕のことだな、完全に)

「変」呼ばわりされるのには慣れているが、悪党に言われるのは癪に触る。

マルテ伯爵がハイネを探していると言うのも気がかりだ。

けれど、その程度では、ハイネの冷静さは崩れない。

息を殺して、ただただ作戦開始を待っていると、

「サリちゃん、な、泣かないで! せっかく隠れてるのに、居場所がバレるだろっ」

それは予定通りに始まった。

むろん、わざとである。

あたかも見つかってしまったかのような、それらしい演技をしてもらうよう村人たちにはお願いをしていた。

「おいおい、なんだァ? そんなところに固まってるのか、虫ケラどもォ」
「ひひひっ。男爵、これは運がいいですぞ、取り囲んで一網打尽にしてやりやしょう」

「オォ、そりゃあいいなァ。こっちは二百人いるんだしなァ」
 逃げ出してくるネズミを一匹残らず絞り上げる。こりゃあ、ちょうどいい余興になりそうだァ」

調子づく男爵と代官だったが……。


集会所の周りには、ハイネが展開した結界が張ってある。

透明であるため、その存在にまったく気づかないまま、男爵は部下たちに集会所を囲むよう指示した。

「燃やされとうなかったら、大人しく出てこいやァ!! じゃなかったら、こっちから行くぞォ?」

男爵が入り口の前で偉そうに言うけれど、そのすぐ眼前には、もう結界が貼られてある。

「って、なんだこれェ!? くそ、全く入れないじゃねぇかァ!!?」

もちろん入れるわけがなかった。

やっと子分たちも異変に気づいたらしく、結界に攻撃を仕掛けるが、その全てが弾かれる。

申し分のない、防護結界だ。

「ふはは、俺は元Bランク冒険者様だぞ? これくらいなんてことないぜェ!! 
 火よ我が求めに応じ、この手に業火の力を与えよ! 炎炎球(ファイアボール)!」

なんだか立派な詠唱だったが、これも全く効かなかった。

結界は揺らぐことさえしない。
集中力の高まったハイネの魔法は、そうやわなものではないのだ。


やけを起こしたのか、全員で一斉攻撃を仕掛けるが、なんの変化も起きない。
結界は、不落の城と化していた。

「ーーマナ、構築」

言葉を返すようだが、敵がこれだけ固まってくれればやりやすかった。

ハイネは、さらにマナ魔法を使い、『武器変幻』を発動する。

いつかと同じく、腰刀をブーメランへと変えた。
万一にも察知されないよう、素早い回転をかけて、それを放る。

「な、な、な、なんだ!?」

その回転は、発動者のハイネでさえ目で追うのがやっとだった。
豪風が起きて、集会所の周りから次々に人を薙ぎ払う。

ファイアボールにより、燃えていた草木が、さらなる火に炙られ燃え盛った。

誰も発動者のハイネが潜む場所には気づかなかった。

あるは吹き飛ばされ、あるは火傷を負い、手下たちは混乱に陥る。

二百人いようが、統制を失えばただ烏合の衆だ。

「まただ、またあの変な旅人の仕業か!? くそ、こんなのやってられるかっ」
「く、くそ、死にたくないっ!!」

一部の手下たちは、怪奇現象のような現状に恐怖を感じたらしく、我先にと村の外へと逃げ出す。

「て、てめぇらァ!! ふざけるな、金なら払っているだろう!」
「あんな安金に命張れるかよ!!」

男爵が呼び止めても、もうその足が止まることはなかった。

ハイネも知らなかったが、どうやら前回で恐怖を植え付けられていたらしい。


あの悪徳代官もその例外ではなかった。

集会所から遠く離れた場所、地面に座り込み、立ち上がれなくなっていた。


まだ戦おうとする意思がある残党は……

「か、勝てる!? 兄者、俺たち、代官どもに勝ってますぜ!?」
「弟よ、ハイネさんが弱らせてくれたおかげだ……思い上がるな。でも、俺たちでも戦えている!」

タングとトングの兄弟が、対処してくれていた。

これも予定通りだ。
はじめから、後処理は任せてあった。

稽古の甲斐があったかもしれない。その戦いぶりは立派である。

二人はハイネのおかげと言っているが、今の強さならば、彼らだけでも善戦できていたはずだ。
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