上 下
16 / 28
1章 追放と受け入れ

14話③ 【Side】ナタリア嬢は父に愛想を尽かして、家を出る。

しおりを挟む


さらに数日、マルテ邸にもたらされた報告は、伯爵にとって実に気に入らないものだった。

蓄えた髭をしきりに触り、報告に上がった部下へ、尊大に顎を振り促す。

「……あの呪われた男の作った護符が、魔物を避けていた可能性が高い。…………貴様、それは本当か」
「はい……、あれから総力を上げて調査を行いましたが、もうそれ以外に理由が考えられません…………」


普通、街は山あいの場所では、大きく発展できない。

山には、魔物が巣食っていることが多いため、侵入され、破壊されることがまま起こるためだ。

だが、マルテシティは、すぐ両脇を山が囲う盆地の上にあるにもかかわらず、なぜか(・・・)魔物の脅威を避けられていた。

自然の豊かな恵みを享受しつつも、安全であった。
だからこそ、街は天災を乗り越えたのち、10年で急速な発展を遂げられたのだ。

いわばハイネの祈りが作り出す安全が、街の基礎を、根幹を成していた。

なんの打算もない、ただ他人の幸福を祈る想いが。

「……不快な話だ、まったく」

けれど、マルテ伯爵はその可能性に気づこうともしない。
自らが積み上げた実績だとばかり思い込み、自分の懐に利益を溜め込んでいる。

「日を追うごとに、魔物の活動圏は、マルテシティに近づいております。このままでは、警備が難しくなるかと…………」
「仕方ない。ならば、しばらくだけ増員して対処せよ。むろん、おのおのの給金は引き下げる」
「…………なんと。それでは、警備隊の士気が下がるのでは」
「ワシに意見をするな!!」

真っ当な意見を述べた部下だったが、その一喝で、すっかり怯んでしまった。

背を伸ばし、ただ黙して頭を下げる。

この街においては、マルテ伯爵は絶対の存在だ。
青空を見ても、彼が赤といえば赤になる。

「警備にかけられる金は決まっておる。決して超えるでない。マルテ家の収入に関わるからな」
「……かしこまりました」
「ふん。次はないぞ、バカものが」

マルテ伯爵は、自らの権益をどうやって守ろうかと、それで頭がいっぱいだった。

自らの街を、「金のなる木」かのごとく考えているのだ。
どちらにせよ大切であることには違いないため、万一にも破壊されては困る。

果たして、このまま警備を増やすだけで、対応できるかどうか。

もっとも金がかからず、富を得られる方法はーーーー

マルテ伯爵はにやりと笑って、その部下へ告げた。

「……それから、あの呪われた男、ハイネ・ウォーレンを探して連れ戻せ。元の教会に突っ込んで、奴隷のように護符を作らせろ」
「か、かしこまりましたっ!!」
「ふん。分かったら、早急にここを立ち去れ」





聞くに堪えない、ひどいやりとりだった。

その一幕を、マルテ伯爵の一人娘・ナタリアはまたしても耳に入れていた。

今度は、部下からの報告があると知り、意図的に傍聴していたのだ。


(……やはりお父さまは、間違っている)


父の姿勢には、前々から疑問を持ってきた。

母が早くに亡くなっていることもあり、幼い頃こそ、父を信用し頼りきっていた。

けれど、まじめに勉学に励み大人になっていくにつれ、父への見方は悪いものへと変化していった。


だが、魔法のひとつも使えない自分になにか口出しをすることは火に油を注ぐことになりかねない。

そう思って堪えてきたが、それももうここまでだ。

(ハイネを捕まえて、またあの酷い環境に戻す……? 奴隷みたいに働かせる……? 絶対にさせないっ!)


ナタリアはもうこれ以上、間違えたくなかった。

ハイネが狙われているのに、自分の立場に囚われて、動けないようではいけない。

今度こそ、自分の心に正しく従おう。

彼との日々が嘘でなかった、と証明するために、それは必要なことだ。



ナタリアは、その決意をさっそく行動に移すことにした。



金目のものを手当たり次第かばんに突っ込んで、こっそり屋敷を後にする。


身分を隠すため、変装をしていたから、まさか本人に聞こえているとは知らずだろう。

「もともと横暴だとは思っていたがここまでとは……」
「はやくナタリア様に代替わりしてほしいなぁ」

なんて、配下の者たちが会話していたが、今は聞かなかったことにさせてもらう。


(……ずっと耐えてきたけど。私にだって、したいことがあるのよ)


ナタリアは、そのままマルテシティを後にした。

出奔したのだ。
地位をすべて捨てても大事な人である、ハイネ・ウォーレンを探すために。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

罠自動解除の加護が強すぎて無能扱いされ追放されたんだが、ま、どうでもいいか

八方
ファンタジー
何もしていないように思われている盗賊職のアルフレッド。 加護《罠自動解除》が優秀で勝手に罠が解除されていくのだ。 パーティーメンバーはそのことを知らない。 説明しても覚えていないのだ。 ダンジョン探索の帰り、ついにパーティーから追放されてしまう。 そこはまだダンジョン内。 何が起きても不思議ではない。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

転生賢者の異世界無双〜勇者じゃないと追放されましたが、世界最強の賢者でした〜

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人は異世界へと召喚される。勇者としてこの国を救ってほしいと頼まれるが、直人の職業は賢者であったため、一方的に追放されてしまう。 だが、王は知らなかった。賢者は勇者をも超える世界最強の職業であることを、自分の力に気づいた直人はその力を使って自由気ままに生きるのであった。 一方、王は直人が最強だと知って、戻ってくるように土下座して懇願するが、全ては手遅れであった。

処理中です...