21 / 28
1章 追放と受け入れ
19話 結界魔法
しおりを挟む剣士と弓士の兄弟を指導しつつ、ハイネらは、水源地を目指していた。
二人の訓練のため、魔物が出そうなところに、ときどき寄り道をしながらである。
「……今日だけで明らかに強くなれてる気がするな、兄者」
「弟よ、それは気のせいではない。きっと、本当に強くなれているんだ」
実際、コボルト程度の魔物相手ならハイネが指示を与えずとも倒せるようになっていたのだから、大進歩だ。
兄のタングと弟のトング。
はじめは、少しややこしかったが、もう呼ぶのにも慣れた。
寄り道の成果は、他にもあった。
山の奥地に、オクラが群生しているのを発見したのだ。
マルテシティでは人気の野菜として、市場に並んでいるのを見かけることもあったが、
「……兄者、知ってるか、この星形の奇妙な実をつける草」
「弟よ、俺にはわからん。寡聞にして知らん」
カミュ村では、ただの野草だと思われているようだった。
とすると、これはいい物を見つけたかもしれない。
もしくは米と並んで、名産品となれるだけの野菜だ。
(……まぁそのためには、まず商人が来ないと始まらないんだけど)
味などを見るため、まずは一部だけを摘み取っておいた。
レティにお願いして、調理に回してもらうつもりだ。
他にも、出るわ出るわだった。
群生したたくさんの山菜類に、野いちごや林檎など果実類のなる木々も発見する。
ここまで奥には踏み入っていなかったらしい。
その分、豊富に実りがあった。
帰りに土産として持って帰ろうかと話しているうち、ハイネらはいよいよ流れの始点へと辿り着く。
「…………ハイネ様、これ」
くたびれきって半目状態だったナナが、ふとその目を大きく開いた。
兄弟二人も、同様に唖然としている。
「どうやら、これが原因みたいだね」
湧水の源にあたる、沢。そこを、かなりの大岩が塞いでいた。
「はえぇ、こんなもんが」
兄・タングが軽率にもそれに触れる。
「……やめて! 離れてくださいっ!」
咎めたのは、ナナだった。厳しい顔をして、続ける。
「……これ、生きてますよ。聞こえます、嫌な拍動が。魔物です、こいつーー」
ナナが言い終わる前、ゴゴゴと山肌が揺れ始める。
岩からむくりと手足が生え、顔が起き上がる。
「「ひぃ~!!!!!」」
「グガァァァッ!!!!!」
タング、トングの兄弟があげた悲鳴と、魔物の叫び声が入り混じっていた。
縦にも横にも、人の体の三倍近い図体だった。体重にすれば、はるか上をいくに違いない。
その大きすぎる全身を目の当たりにして、
「……岩石ゴブリン」
ハイネは、一つの記憶にたどり着いていた。
ゴブリンの進化系の一つである、強力な魔物だ。ランクはA、危険認定もされている厄介な存在だ。
「後ろに下がって!! 草陰にでも隠れていてください!」
ハイネはそう言うが、兄弟二人は従わない。
いや、従えないでいるらしかった。
腰が抜けたのか、その場にしゃがみ込んでいた。
「ハイネ様、わたくしが二人を守っておきましょうか?」
「いいよ、さすがに男の人は重いだろうし。ナナも早く、どこか安全なところへ!」
岩石ゴブリンは、重たい身体を揺すりながら、ハイネらに近づいてくる。
ゴツゴツとして、大きすぎる足だ。
あんなものに踏みつけられたり、蹴られようものなら、それだけで息絶えてしまいかねない。
ハイネのすぐ後ろには、まだ兄弟二人が怯えきってしゃがんでいた。
戦闘をするのに適した環境とは決して言えないが、
「ーーマナ、構築」
これ以上は引き下がれない。もう限界のラインだ。
「……ハイネ様、素敵な目」
ナナの声が聞こえたのは、そこまでだった。ハイネは自らの内部へ、奥深くへ、意識を尖らせる。
ここで倒れられても、あとが面倒臭い。
そもそもの目的は、湧水が滞っていた原因を探り、対処することだ。
この大きな体に、沢からの流れを塞がれては、元も子もない。
大きい身体は、分割しなければなるまい。
しかし岩の体を、砕けるかどうか。
ハイネはもう一度、岩石ゴブリンの全身を確認する。
「トングさん、矢を撃ってください!」
「や、矢を?」
「えぇ、めった撃ちで結構ですから、頭を狙って!! そこが急所です。頭を壊せば、岩は石に分解されますから」
「わ、わ、わ、わかりました!!」
へろへろの矢が、乱雑に放たれる。
しかしそのうち何本かは運良く、岩石ゴブリンの顔面を覆う石の、その隙間に挟まってくれた。
「は、ハイネ様、もう矢がありません」
「あれだけで十分ですよ。ありがとうございます」
となれば、今度は彼らを守ってやる番だ。
ハイネは神経を尖らせるため、瞳を閉じる。
強く、深く、体内のマナに意識を集中させていった。
イメージするのは、マナによる強固な防護壁だ。
ハイネは目を見開く。
と、地面に、正方形の光線が走った。
またたくまに白く輝く壁が構築され、最終的に直方体の箱が作り出されていく。
最後に、透明になった。
うまくいったようだ、防御の結界。
が、ほっとしている暇はないらしい。
岩石ゴブリンは、いよいよハイネらの目の前までやってくる。
大きな腕が目一杯開かれた。
ーー来る。
そう思った次の瞬間、岩石ゴブリンは結界を壊さんと挟み込んでいた。
「「あわわわわ、大丈夫なんですか、これ!?」」
兄弟が、シンクロして騒ぎ立てるのを、
「安心しなさいな。ハイネ様の魔法は、超越してますから♪」
ナナが静める。
実際、とんでもない力だった。
あんな衝撃を加えられれば、どんな大岩でも粉々になるに違いない。
だが、マナ結界の強度はその力を大きく上回っていた。
岩石ゴブリンは、むきになったのか力を込めるが、びくともしていない。
ハイネは、小さな結界を階段をなすように作り上げる。
大きくないものであれば、簡単に作ることができた。
そこを軽快に飛び渡っていって、『武器変幻』。
一閃。
岩石ゴブリンの頭に、大きく振りかぶった巨大なハンマーを打ち付けてやった。
「グ、グ、ガァ…‥‥‥」
矢が楔となり、顔面の大岩を砕く。
それにより、大岩でできた身体全身が、ぱらぱらと砂になり降り落ちてきた。
結界で作った箱の上で、ハイネは剣をしまう。
ステータスを確認すると、
__________
獲得済魔法
・武器変幻(武器の形をイメージしたものへ変形させることができる)【回数2/5】
・自動獲得(ドロップアイテムを的確に獲得することができる)
・組上げ生成(材料などを、用途に合わせて自在に加工できる)
・結界組成(マナ製の結界を作り出すことができる)【回数20/100】
__________
新たな魔法が加わっていた。
前には、不完全なものしか作れないだろうということで、野営を諦めさせられたが……。
今日は、無事に扱うことができた。ほとんど思い通りの大きさ、そして強度だった。
「さっすがハイネ様! また、一段と使いこなせるようになってきてますね」
ナナが、ハイネの造った結界を登りながら言う。
「うん、ありがとう。これは、かなり便利な魔法だね」
「おっ、早速他の利用方法が思いつきましたか?」
「うん。掃除とか、高いところの物を取るのが楽になりそうだ。さっそく家に帰ったら、レティさんに言って、屋根の掃除でもしようかな」
「ハイネ様、小さい! その使い方は、小さすぎますよ!? 『超越』魔法で家事をするだなんてっ」
そうは言われても、ハイネにしてみれば、これほど実用的なことはない。
無限の可能性に思いを馳せて、ハイネは一人、ほんのりと微笑む。
「……すげぇ、すごすぎる。兄者、神がいるぞ、天に」
「ハイネ様は、空を歩けるのか…‥。弟よ、あの人は本当に神かもしらん。現人神だ、きっと」
タングとトングの兄弟が、それを崇めるように見上げているとも知らず。
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる