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1章 追放と受け入れ

12話 『超越』魔法の生産チート

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レティは先に起き出していたらしい。


ナナとサリと、三人揃って一階へ降りれば、すでに朝食が用意してあった。

レティの父が昔召していたという服を借り、着替えを済ませる。

「やっぱり、少ないですよね……。本当にすいません、すいません。前まではもう少し多く出せたんですが……」

彼女は、太めの眉を落として、ハイネに謝るが、今朝も今朝とて、ハイネにとっては十分な量だった。

これだけしっかりと寝て、朝からパンとスープを一緒に食べられるなんて、数年ぶりのことだ。

これほどの恩を受けて、なにも返さないわけにもいくまい。
ハイネにとって、それは自然な考えであった。

「レティさん、ごちそうさまでした。お礼と言うほどのことではないのですが、僕にできるような雑用ならなんでもお申し付けください」
「えっ、そんな。
 昨日、サリを救っていただいたことを思えば、一日泊めたくらい、どうということはありませんよ」
「遠慮なさらないでください。僕、雑用は得意ですから」

下働き期間が長かったため、とっくに雑務が骨の髄まで染みている。
大抵のことなら熟せる自負が、ハイネにはあった。

いつもと変わらぬ笑顔を浮かべるが、そこには我知らずのうちに、熱がこもる。
レティは、その圧に押し負けたらしい。

「……そこまで仰るなら、お言葉に甘えさせていただきます」
「かしこまりました。なんなりとどうぞ」


朝食終わり。
レティがハイネとナナを伴って向かったのは、村の端を流れる川べりだった。

それほど大きくない川ではあるが、勢いは急で、流れは強い。水も、茶色に濁っているようだった。

「足を滑らせないよう気をつけてくださいね、最近ちょっと荒れているんです」
「雨でも降ったんですか?」
「はい、上流の山で長雨があったらしくて、このところはずっとこの調子です」

村民であるレティさんは説明しながらも、先々進む。

木材を抱えていてなお、ハイネより速い。その理由は、

「ハイネ様、離れないでくださいね!?」
「うん。というか、離してくれないみたいだけど」
「だって、洪水だけは怖いんです~……! 覗き込んだら、ひやっとするというか」

ナナが、みっちり腕にしがみついてくるせいだ。小刻みに、その体は震えていて、ぎゅむっと瞼を強く閉じている。

天使も、濁流を怖がるらしい。平和な世界に慣れすぎているからだろうか。

「家で、サリちゃんと留守番してればよかったのに」
「わたくしはハイネ様のおそばにいるんです~、だ」

意固地なものだ。
涙目になってまで、一緒にいる必要はあるのだろうか。

ハイネが苦笑いを浮かべていたら、レティさんが立ち止まった。

その一帯だけ、川と歩道とを隔てる柵が半壊してしまっている。
それを覗き込むや、

「ひぃっ!」

ナナの絡めていた腕は、さらにきつく締まった。
ハイネも、地面を掴む足にぐっと力を入れる。

「たしかに、このままじゃ、かなり危ないですね」
「はい……。なので、村の人で手分けして、修理することになったんですが、ご覧の通り手が回っていないんです」
「では、ここの修理をすればいいですかね?」
「助かります。ただ、使える道具も限られているような状態でして」

そう言って、レティが腰に巻いた前掛けから取り出した工具は、たしかに不十分だ。

「すいません、すいません。あの代官が金目のものはほとんど持っていってしまったんです。すいません……」
「レティさんが謝るようなことでは、ありませんよ。そんな二度や三度も……」

食事のことといい、やや卑屈なところのある方だが、それすらも根本は彼女のせいではないのかもしれない。

ハイネと同じく人に虐げられ続けた者の、防御反応とでも言おうか。


「なんとかしてみますよ」

同じ境遇にある人を、落ち込ませたくはない。

ハイネはにこりと笑って、そう答えた。


……とは言ったものの、どうしたものか。
ハイネが轟音で唸る川を前にして、腕組みしていると、

「もしかしたら、マナを使えば直せるかもしれませんよ」

やっと恐怖心の落ち着いたらしい、ナナがこう助言をくれる。

「……え? こんなこともできるの」
「はいっ。なにせ、アテナイ様は、構築の神。その力を自在に使えるハイネ様なら、物を組みあげることだって、ちょちょいのちょいのはずです♪」

そう簡単かはともかく、やってみる価値はありそうだ。

ハイネは早速マナを構築し、魔法を組み上げていく。
『自動獲得』魔法を習得した時と同じような過程で、完成形をイメージしていった。

ーーより強固で、今後壊れぬような柵を。

そう半分願いを込めるように、ハイネは材料たちに手を触れる。
すると、ひとりでに木材が宙に浮き、丸く切り出されていく。

縦、横、それぞれの棒に穴が開き、うまく嵌るように打ち込まれていき、

「……本当にできた」

組み上がる。
そこには無事、立派な柵の一部が出来上がっていた。

「うんうん、ハイネ様、これですこれ♪」

ナナは納得顔で頷く。
一緒にステータスバーを見てみると、

__________
 獲得済魔法

・武器変幻(武器の形をイメージしたものへ変形させることができる)
・自動獲得(ドロップアイテムを的確に獲得することができる)
・組上げ生成(材料などを、用途に合わせて自在に加工できる)【新規 回数1/5】

__________

能力を獲得することもできていた。

一方、はたからそれを見ていたらしいレティはーーーー

「…………す、すごすぎる、なんですかその柵!?」

川に落としかねない勢いで、ハイネの肩を掴んできた。

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