上 下
8 / 28
1章 追放と受け入れ

8話 到着した村で待ち受けていたのは、妙な賊で……?

しおりを挟む


一夜明け、ハイネらは森を抜け行き当たった小さな道をひた歩いていた。

どことも分からぬ場所だった。

そして、いつ魔物や獣の類が飛び出してくるや知れない環境である。
それでなくとも、野営するような道具も持ち合わせていない。

一度はマナで結界を成す案も出たが…………。

どのレベルの魔物が出てくるかがわからないため、結局取りやめになった。


それでなくとも覚えたての魔法である。まだ全幅の信頼は置けない。


だから、ぶっ続けで歩いていた。
それでもハイネが眠気に襲われなかったのは、

「ハイネ様にゴミ投げつけてくる馬鹿がたくさんいて、ほんとむかついたんですよ。
 天使の罰を下してやろうと何度思ったか!」

同行者となった天使・ナナが、やたらと喋ってくれるからだった。

首輪により、ハイネの中に封印されていた時も、彼女に意識はあったらしい。

その分、色々な感情になったというが、彼女の主だった女神・アテナイはハイネの中に完全に溶け込み、言葉を発さなかったらしい。

誰にも愚痴や想いを共有できず、ナナは苦しんでいたそうだ。
その感情が今になって、爆発しているとか。

ハイネは聞いていて、ふと疑問に思う。

「そういえば、ナナさんは天使なんだよね。じゃあ別に、10年くらい大した時間じゃないんじゃ……?」
「そりゃあそうですけど、体感は同じですもん~。1000年生きてても、10年は長いんですよ」

見た目は、ハイネと変わらない年頃に見える。

いや、それ以下かと思うくらい幼く映るのに、この少女は自分の数百倍の時間を生きてきたのだ。

「……そっか、ナナさんは1000歳なんだね」
「なっ、年増じゃないですよ!? 天使の中では若い方ですし! というか、1000歳だなんて言ってませんし!?」

この焦りようは、間違いなく図星だ。

……1000年生きてきた天使の反応にしては、随分と分かりやすすぎるが。

「わたくしは1000歳じゃなくて、繊細なんです~」

それはかなり無理がないだろうか。

下手くそな口笛を吹くナナを見て、そう思うハイネだったが、そもそも年齢を指摘したかったのではない。

「ねぇ、本当にこのままの言葉遣いでいいの?」
「いいんですよ、別に! ほら、わたくし、この世界はまだ10年目、10歳ですし。可愛い後輩ができたと思ってくださいな」
「後輩なんて持ったことないから、分からないよ」
「まぁ! じゃあ、わたくしが初めての後輩ですね」

満面の笑みを咲かせ、ナナはハイネの腕にしがみつく。
反射的に距離を取ろうとするハイネだったが、

「後輩と先輩は常にくっついているものですよ? 知らないんですか」

今度は強引に袖を引かれる。
肘先がやけに柔らかいけれど、こんな時どうすればいいのかハイネは知らない。

なぜか熱くなる顔を誤魔化しているうちに、引きずられていくのだった。





そうして、歩くことしばし。
その看板が見つかったのは、太陽がすっかり上りきった頃だった。

「やっと、村に着くみたいだね」

矢印の書かれた看板には、「カミュ村まで30分」と書かれてある。

名前だけは聞いたことがあった。

たしか、かなり山脇にあり森に囲まれた小さな村だ。
この村も、たしかマルテ伯爵の統治下にあるはずだった。


「おー、ついに! わたくし、少し疲れました。休憩でもしましょう~」
「天使でも疲れるものなんだね?」
「そりゃあ人の形になって、歩いてるんですもの。それに、この足で歩くのなんて10年ぶりですし」

なるほど、途中から度を越して寄り掛かられていたのは、そういうわけか。

ハイネは納得しながら、頭の中では、今後の予定を組み上げる。

ハイネも、かなり疲弊していた。

日頃の労働で体力がある方とはいえ、寝ずに戦い、歩いたのだから、当然かもしれない。

「村へ入ったら、まずは魔物から剥ぎ取ったアイテムを売り、金を作って宿屋を借りて休もうか」
「宿屋! 宿屋!」
「それから、ご飯もどこかで調達しなくちゃね」
「ご飯! ご飯!」

まるで子供みたいな反応をして、ナナは元の勢いを吹き返す。

嬉しいと、羽が勝手に出てくるらしい。背中の後ろで、しきりにはためいていた。

その調子にあてられ、ハイネ自身もやや元気を取り戻し、村を目指していたところ、

「……様子が変かも」

まだかなり手前で、ナナが口に手を当てて言う。

「なにかあったの? 僕は、何にもわからないんだけど……」
「天使は人よりも耳がいいんですよ。わたくしは天使の中でも、聴覚には自信があるんです。
 たくさんの情報を拾って、意識したものだけを集中して聞き取れるんです。……カミュ村で、なにか起きてるみたい」

ハイネに実感はゼロ、風が渡る音しか入ってこなかったが…‥。

近づけば不穏なやり取りが、朧げに聞こえてくる。

かなり年季の入った門を急いでくぐってすぐ、

「こ、これは…………」
「ハイネ様、あの子!」

衝撃的な光景が待ち受けていた。

思いきり、頭をぶたれたような感覚になった。

入ってすぐ。

本来ならば馬車の荷下ろしなどをするだろうスペースに、人が磔にされていたのだ。

それも、小さな女の子だ。せいぜい五、六歳だろう。

既にぐったりしている様子で、抵抗するだけの気力もないらしい。
力のない目が、うつろにハイネらを見下ろしていた。


磔台の下では、鎌を手にした恰幅のいい男がにやにや笑う。

「どうか、その子を、サリを離してやってください! あたしが悪いんですから!」
「はっ、馬鹿め。お前が供物納められねぇから、こんな目にあってんだろうがよ、このガキは」
「そ、それは…………」


母親だろうか。
若い女性が懇願するが、聞く様子もない。

周りの住人も、さんざん抵抗した後なのだろう。痛ましい目で見ることしかできていなかった。

「…………なんだ。こんな時に、よそ者かよ。あぁん!?」

ハイネらの来訪に気づいたらしい。癪に触る声で、その男はがなり立てる。

聞くに堪えなかったらしい。
ナナは、耳を覆い頭を伏せるが、ハイネは違った。

呪われた男だとか、下人だとか、頭の中に浴びせられた罵声たちが蘇る。

これくらいは慣れていた。なんなら、日常茶飯事のことである。

ただ、この状況は散々な目に遭い続けてきたハイネにしても、あまりに異常だ。

「なにをしている」

目を刃のように尖らせて、今に喉元に突き刺さんばかりの圧をハイネは発す。

「ちょっとばかりの罰だよ、罰。こいつの親が、貢物を渋ったからこうなったんだ。素直に出してりゃよかったのに。
 ま、どっちにしても関係ねぇよ、よそ者にゃあ」

……どうやら始末のつけられない悪党らしい。

暴力を振りかざして、弱者から搾取をする。挙句は、子どもを見せ物にするとは。

昔から、ハイネを苦しめてきた人間たちと同じだ。自分より下の者の命など、どうでもいいと思っている。

少女の姿に、つい自分を重ねてしまう。

たとえば敵わないとしても、村の者ではないとしても。
罪のない子どもへの危害を、放っておけるわけがない。

「……その子を離せ、すぐに解放しろ」
「今だったら見逃してやる。いいからとっとと行けよ、見窄らしい格好しやがって!」

まともな返事はもらえなかった。

へっ、とそいつはハイネらの方へ唾をふきかける。

「10だけ数えてやる。とっとと行きな、死にたくなかったらなァ」

脅しのつもりだろう、側から部下らしき人間が出てきて、槍の穂先をこちらに向けた。

男はにちゃりと粘り気のある笑みを見せながら、両手を開く。

「いーち…………」

と、ハイネにはそれだけで十分だった。

自らの保身など、ひとつもその頭には、なかった。
彼女を見捨てようなどと、よぎりもしない。

腰刀を抜き放ち、少女を縛り付けていた縄紐を断つ。

納刀したのち、着地姿勢など取れないまま垂直に落ちてくる少女を、下へと滑り込み受け止めた。

やや無様な格好になったが、そこはご愛嬌だ。


躊躇のない判断だった。民衆も、悪党の男も、その様子に唖然としていたが、

「へぇ、一人でワテらとやろうってのか!? よそ者がヨォ!!」

怒り心頭らしく男は大声を上げ、口笛を吹く。
すると、わらわら、碌でもなさそうな連中が辺りから集まってきた。

どうやら、影に控えさせていたらしい。

「許さん、やっちまえ!!!! ものども!!」

戦いなど、昨日の夜覚えたばかりだ。
でも、ここでやらないわけにはいかない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

罠自動解除の加護が強すぎて無能扱いされ追放されたんだが、ま、どうでもいいか

八方
ファンタジー
何もしていないように思われている盗賊職のアルフレッド。 加護《罠自動解除》が優秀で勝手に罠が解除されていくのだ。 パーティーメンバーはそのことを知らない。 説明しても覚えていないのだ。 ダンジョン探索の帰り、ついにパーティーから追放されてしまう。 そこはまだダンジョン内。 何が起きても不思議ではない。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...