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1章 追放と受け入れ

4話 追放のち魔物の襲撃

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マルテシティとナタリアに別れを告げて、数刻。

ハイネ•ウォーレンは、あてもなく街道をひた歩いていた。


すっかり日は落ちきって、夜も深い。

人気(ひとけ)は一切なく、両脇の深い山からは、虫の声が寂しげに鳴り渡る。

中には、獣の獰猛な唸り声も入り混じっていて、ハイネの心胆を寒がらせた。


唯一の頼りは、うっすらと地面を照らす魔導街灯だ。
ただ、その間隔はとても広く、心もとない。

あたりを警戒しておかなければ、いつ魔物に襲われるか。


魔物というのは、危険極まりない、人に害をなす化け物だ。

それらは山などから漏れ出す瘴気を好んで住み着き、人を襲うこともしばしばある。

一応、魔導街灯には、瘴気を避ける効果もあるのだが、

「ガルゥゥッ!!!!」

残念ながら、優秀な代物ではない。

「くそ、どうしてこうなるんだ……」

ハイネはぎりっと歯噛みする。

道に立ち塞がったのは、サンダーコボルトだ。

その身体は強い電磁波を纏っており、その威力は、直接触れれば、身体が焼かれるような痛みに襲われるとか。


こんなところまで、運が悪いとはこれいかに。

自分を呪いたくなるハイネだったが、まずは切り抜ければならない。

ナタリアに持たせてもらっていた護身用の腰刀を抜き、じりじりと後退する。


これまでハイネは祈りを捧げることで、辛うじて生計を立ててきた人間だ。

戦いの術など、ろくに知らない。剣を抜いたのも、まさに今が初めてだ。

けれど背中を向けることがどれだけ危険かは、直感的に理解していた。

一定の間合いができたところで、サンダーコボルトは飛び上がる。
ハイネめがけて、その鋭い爪を振りかざす。


ーーそこで、身体が勝手に反応してくれた。


ギリギリのところで横へ躱す。続け様に、爪を振り翳してくるが、単調だった。


逆にコボルトの隙をついて、下へと屈み、喉元を一刺しにしてしまう。

それで、コボルトは息絶えてくれたらしい。

「……分からないもんだなぁ。
 殴られ続けたおかげで、避けるのがうまくなってるだなんて」

魔物を退治したのも、もちろん初めてのことだった。

興奮して荒くなる呼吸を抑えながら、ハイネは妙な感慨にひたる。

一難を乗り越えたことに、ほっとため息をついているとーーーー

「…………どれだけ神様は僕のことが嫌いなんだよ」

さらなる災難が待ち受けていた。
闇夜に光る不気味な白目が、高みからハイネを見下ろしていたのだ。

グアァァッと叫び声を上げるのは、『一角オーガ』だった。

その咆哮は、大地を揺らし、木々は強くざわめき、その葉を散らす。

冒険者ギルドにおけるランク付けでいうなら、Aランク。
さっきのサンダーコボルトは、せいぜいDランクだから、全く格が違う。


普通は、こんな森に現れるような存在ではない。
もっと瘴気の濃い、危険区域に生息する魔物だと教会では習っていた。

なにかの拍子にオーガが進化してしまい、山の主として君臨していたのかもしれない。

「くそ、どうしろって言うんだよ……!」

ハイネは再び腰刀を構えるが、今度ばかりは絶体絶命だ。
知らず知らず、がたがたと腕が震えてしまう。

間合いだとか、相手の出方を探っているような余裕はとてもじゃないが持てない。


死がすぐそこで、こちらへ手を伸ばしている。


だからって、このままやられてたまるか、とは思った。
ナタリアに、無事に生きていてくれ、と言われたばかりだ。

ハイネは決死の覚悟で、逃げることを決めた。

道から、森の中へと飛びこむ。
ままならない足を駆って、走りに走った。木々や岩肌に身体が擦れるが気にしてはいられない。

だが、その程度でみすみす逃してくれるような甘い魔物ではない。

一角オーガは、ハイネの後ろをつけてきた。

俊敏さも桁が違った。
恐ろしい圧が、全身の毛をそば立たせる。

その大きすぎる図体は、木々などの障害物をモノともせず、迫りきた。

かなりの接近を察知してハイネが後ろを振り返ると、一角オーガは、その拳をちょうど地面に叩きつけるところだった。

「……うわっ!?」

足元がおぼつかず、ハイネはバランスを失う。
そのまま、尻餅をついてしまった。

太く大きなその腕が、木をなぎ倒しながらハイネを狙いくる。

ここも、身体が勝手に反応してくれた。
寸前で体を後ろへ倒し、ぎりぎりで直撃を回避する。

……ほんの少しずれていたら、首をもがれていた。

代わりに犠牲となったのは、『悪魔を封じ込めた』という首輪だ。
鉄屑となって、地面に落ちていた。

息つく間もなく、お次は反対の左腕が振り上げられる。

今度こそ、避ける手立てはない。完全に、一角オーガの攻撃範囲内だ。

ーー終わった、とそう思った。

走馬灯のように駆け巡った記憶は、ほとんどろくなものではなかった。

捨てられ、嫌われ、追放され。
惨めばかりの人生に、最後の最後まで情けない結末がついて終わり。

創造神・ミーネに嫌われた無能力な聖職者には、これがお似合いなのかもしれない。

ハイネが覚悟を決めて目を瞑った、その時だった。


いつまで経っても、痛みは襲ってこなかった。
代わりに思いがけない眩しさが、まぶたの裏まで入り込んでくる。

いったい何が起きているのか。ハイネは、わけもわからず目を開ける。

すると、どうだ。

腕が、足が、胸が、白い光に覆われていた。まるで、天使の羽に包まれたかのように、それは温かくも眩い。

なぜか、身体そのものが輝きを放っていた。







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