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1章 追放と受け入れ

2話 呪われた青年は能力を与えられず、処分される。

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翌日。

魔力付与式は、正午過ぎから教会にて執り行われていた。

講堂にずらりと詰めかけているのは、数えで18の歳を迎える者と、その関係者たち。

今日という日だけは、身分に関係なく、一箇所に集められるのだ。


構内にいるのは、それだけではない。

魔力付与式は、世界の主たる神が関わるだけあって、公的な儀式でもある。
前方に設置された関係者席には、役人らの姿もあった。

ナタリアの父で、地域では一番の権力者、マルテ伯爵も訪れているようだ。
娘に魔力が付与される瞬間を見届けよう、とそういうことなのだろう。


お堅い雰囲気のなか、儀式は粛々と進行していく。

ちょうど、名前を呼ばれたものが、壇上へとのぼったところだった。
そこでは司祭が待ち受けており、まず神前へと長い祈りの言葉を捧げる。

その後、各人の頭の上で、ガラスの聖杯をひっくり返すことにより、光が身体へ降りてくるのだ。

この瞬間こそが、魔力付与の時である。

「炎属性、スキル・鑑定眼!」

その結果は、さまざまに分かれて、そのたびに講堂には一喜一憂する声が溢れる。

ちなみに、このくらいが普通程度の能力だ。
属性は一つが妥当で、『鑑定眼』は平凡なスキルだが専門性は高い。

商人や職人向きのスキルだ。

人が入れ替わり、再び魔力が付与される。

「炎・水属性、スキル・魔力生成!」

ここまでいけば、かなり優れている部類だろう。
属性二つに、こちらは生活にも戦闘にも、万能そうなスキルである。

果たしてその能力を与えられたのは、

「へへっ、やったぜ! この分なら、今後も安泰だわ~」

昨日、ハイネに陰口を叩いていた男だった。

どうやら、同い年だったらしい。


決していい気分にはなれない。歯噛みしたくもなるが、妬む暇すらない。

なぜなら次は、ナタリア・マルテ嬢の番だったからだ。

仕事に徹していたはずの司祭が彼女に見惚れて、少し動作が緩慢になる、
それほどの美貌を、神より既に授かっている彼女のことだ。

「み、水・風属性、特殊スキル・『剣聖』……!」

与えられた能力も、それはそれは素晴らしいものであった。

剣技系スキルの最上級にして、特殊スキルである『剣聖』。
圧倒的な鍛錬効率に、抜群の魔力操作を自然と行えるようになるらしい、伝説級のスキルだ。

噂の話としか思っていなかったそれを、彼女は賜っていた。

「素晴らしい! さすがは、マルテ伯爵のご令嬢でいらっしゃる!」

こんな称賛の声が飛び、講堂内からわき起こった歓声が耳に轟く。
マルテ伯爵は、鼻高々といった様子で、壇上に立つ娘を見ていた。

ナタリアはといえば、少し戸惑っている様子だったが、少しはにかむ。

「では、最高の結果も出たところで、この度の付与式はこれにて終わりーー」

司祭がこう告げかけたところで、口上を止めた。

「あぁ、まだハイネ・ウォーレンが残っておりました。失礼いたしました」

もはや、忘れかけられていたらしい。

ハイネに非はないが、祝福ムードに水が差された格好だ。
一転、場を白けた雰囲気が覆う。

悪口やブーイングが耳を突き刺すが、ハイネはそれをただただ堪えて、ナタリアと交代で、壇上へと上がった。

「頑張って」

ナタリアにこう小声で言われたが、あとはもう運命に委ねるしかない。

全ては、信じてきた神・『ミーネ』の示すがままに。

そう思っていたハイネだったのだが、なかなか判定が下されない。
……どうしたことか。

思っていたら、司祭が信じられないといったふうに呟く。

「……ない、反応しない、全く出ない……!?」

嫌な予感がハイネの脳裏をよぎる。
そんななか、司祭は何度も祈りを捧げ、聖杯をハイネの頭上にかざすを繰り返した。

が、結局最後まで、ハイネに光が降りてくることはなかった。

ナタリアの時とは、まるで違う意味で、場内がざわつきだす。

ハイネは、黙って目を瞑っていることしかできなかった。
同じ聖職者として、司祭はかなりの上位職だ。物を言えるような身分では到底なかった。

本当は、みじめであり、悔しくもあり、今に泣き出したかったのだが。

ハイネには、堪えることしかできなかった。

「どういうことだ、司祭よ。魔力は誰しもに与えられるのではなかったか?」

こう尋ねたのは、マルテ伯爵だった。司祭はうろたえながら、答える。

「そのはずなのです。長年この仕事をしてきましたが、こんな場合を見たことがない。

 ……ただ理由を考えるとすれば、こやつが、ハイネ・ウォーレンが呪われた子であるから、『神に仇なす者とみなされた』からでしょうか」

「……悪魔を封じられた子ゆえに、神がこやつを嫌った、と。そういうことか?」

確認するかのような問いに、えぇ、と司祭は肯く。

それに呼応するかのごとく、ひそひそと心地のよくない噂話が交わされだした。

「『ミーネ』様への反逆者? ありえない、人間じゃないわ、あんな奴」
「あいつ、ここにいさせたら危険だろ、早くどこか連れて行けよ」

いつも以上に、それらは冷ややかなものだった。
ハイネを見る視線も、まるで遠慮がない。もはや人間を見る目ではなかった。
喉元に刀を突き刺してくるかのようだ。

ナタリアがどうにか宥めようとしてくれるが、彼らの反応は変わらない。

それを見て、重い腰を上げたのは、彼女の父・マルテ伯爵だった。
その黒い口髭が、にぃっと意地汚く吊り上がる。

「……衛兵ども。この呪われた青年を捕らえろ。早急に、処分する。神に仇なすものをそのままにはしておけん」
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