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イタリアンドルチェ
第26話 謎の真相は……?
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六
「西園寺さん、あなたにストーカーなんていませんよね」
琴さんの話は、私のワンルームで聞くことになった。
本当は「蔵前処」で、という予定だったのだそうだが、恐怖に琴さんの腰がすっかり抜けてしまっていた。そこで、すぐ近くにあった私の家を貸し出した。
ちょうど家具を買っていてよかった。買いたてのクッションが三人分あって、組み立て式の小さなローテーブルもある。もし来客があったら、と見越して、マグカップもちょうど三つ用意していた。そこにインスタントコーヒーを注いだ。
「…………もう全部気付いてるのね」
琴さんは怯えきって憔悴していたところからは、いくらか平気を取り戻しているようだった。そんな彼女へ、駒形さんは衝撃の真実に言い及ぶ。
「えぇ、俺のストーカーをしてたっていうところまでは」
ストーカーはいないどころか、琴さん自身がストーカーだったのだ。「蔵前処」の倉庫で聞いた時には、とても驚いた。
「それを全部って言うのよ。どうして気付いたわけ?」
熱いコーヒーを一口飲んで、反対に冷めたように琴さんは言う。ストーカーをしていたことへの反省の色は、目立っては見えない。
「まずストーカーがいないんじゃないか、と疑ったのは、あまりに怖がっていなかったからです。ストーカーが出たとなれば、今日のあなたのように、取り乱してしかるべきです。
でも、あなたのストーカーへの態度は、むしろ余裕さえあった。店でも叫んだだけ、帰り道ではすぐに怖がる素振りを見せなくなった。この時点で嘘かもしれない、と。
それであなたの家に入って、確信しました。普通、ストーカー被害に遭っていたら防犯対策の一つは行いますが、あまりに無警戒でした」
「で、でも、金曜日の二回目は確かに音がしたわよね。人もいたって言ってたじゃない」
私も、そうだと乗じる。ストーカーはいない、とは事前に知らせてもらっていたが、そこのからくりは聞いていない。
「えぇいましたよ。でも、それはあなたの知り合いなんじゃないですか。大学のご学友でしょう」
「なっ、なんでそれ」
「金曜日も今日も、この嘘のストーカー騒ぎをでっち上げるために、わざわざスタンバイさせてたんですよね。普通、ストーカーが出たら、すぐにでも解決したいものです。でも、あなたは今日・火曜日を指定した。それは彼の予定を考慮して、ですよね。その彼から言質は取ってあります。同じ学部で、ゼミが一緒だそうですね」
ストーカーもどき、の意味は、偽物ということだったのか。
「それから、あなたが俺のストーカーをしてるって分かったのは今日です。もっとも、金曜日の段階から疑ってはいたんですが」
「……は、今日? なんかしたっけ」
「イタリアン、ご自身でコースを組んで召し上がってましたが、あれは俺と汐見さんが日曜に行ったランチのコースと内容がほとんど同じでした。あなたが頼まれたのは、俺が話題にしたものばかり。確かめるために、わざわざ新メニューを追加したんです。全く同じメニューを選んでくるのは、見てないとあり得ないですから。日曜日もどこかから見ていたんでしょう?」
私の中で、情報のかけらが繋がっていって、嬉しくない事実にぶつかる。ということは、あの日曜日のランチは仕事だったということだ。
「…………まんまと罠にかかったってわけね。じゃあ、その……私の気持ちももう分かってるのよね」
「いえ、そこだけが分からないんですよ。なぜ俺なんかをストーカーしたんです。それにわざわざ嘘の依頼なんて真似まで」
被害にあった側とはいえ、それを聞いちゃあいけないんじゃなかろうか。
それにそんなもの、探偵ではない私でも分かる。仲裁しようとしたのだけど、その前に
「好きだからよ」
と琴さんはストレートに告白した。
「西園寺さん、あなたにストーカーなんていませんよね」
琴さんの話は、私のワンルームで聞くことになった。
本当は「蔵前処」で、という予定だったのだそうだが、恐怖に琴さんの腰がすっかり抜けてしまっていた。そこで、すぐ近くにあった私の家を貸し出した。
ちょうど家具を買っていてよかった。買いたてのクッションが三人分あって、組み立て式の小さなローテーブルもある。もし来客があったら、と見越して、マグカップもちょうど三つ用意していた。そこにインスタントコーヒーを注いだ。
「…………もう全部気付いてるのね」
琴さんは怯えきって憔悴していたところからは、いくらか平気を取り戻しているようだった。そんな彼女へ、駒形さんは衝撃の真実に言い及ぶ。
「えぇ、俺のストーカーをしてたっていうところまでは」
ストーカーはいないどころか、琴さん自身がストーカーだったのだ。「蔵前処」の倉庫で聞いた時には、とても驚いた。
「それを全部って言うのよ。どうして気付いたわけ?」
熱いコーヒーを一口飲んで、反対に冷めたように琴さんは言う。ストーカーをしていたことへの反省の色は、目立っては見えない。
「まずストーカーがいないんじゃないか、と疑ったのは、あまりに怖がっていなかったからです。ストーカーが出たとなれば、今日のあなたのように、取り乱してしかるべきです。
でも、あなたのストーカーへの態度は、むしろ余裕さえあった。店でも叫んだだけ、帰り道ではすぐに怖がる素振りを見せなくなった。この時点で嘘かもしれない、と。
それであなたの家に入って、確信しました。普通、ストーカー被害に遭っていたら防犯対策の一つは行いますが、あまりに無警戒でした」
「で、でも、金曜日の二回目は確かに音がしたわよね。人もいたって言ってたじゃない」
私も、そうだと乗じる。ストーカーはいない、とは事前に知らせてもらっていたが、そこのからくりは聞いていない。
「えぇいましたよ。でも、それはあなたの知り合いなんじゃないですか。大学のご学友でしょう」
「なっ、なんでそれ」
「金曜日も今日も、この嘘のストーカー騒ぎをでっち上げるために、わざわざスタンバイさせてたんですよね。普通、ストーカーが出たら、すぐにでも解決したいものです。でも、あなたは今日・火曜日を指定した。それは彼の予定を考慮して、ですよね。その彼から言質は取ってあります。同じ学部で、ゼミが一緒だそうですね」
ストーカーもどき、の意味は、偽物ということだったのか。
「それから、あなたが俺のストーカーをしてるって分かったのは今日です。もっとも、金曜日の段階から疑ってはいたんですが」
「……は、今日? なんかしたっけ」
「イタリアン、ご自身でコースを組んで召し上がってましたが、あれは俺と汐見さんが日曜に行ったランチのコースと内容がほとんど同じでした。あなたが頼まれたのは、俺が話題にしたものばかり。確かめるために、わざわざ新メニューを追加したんです。全く同じメニューを選んでくるのは、見てないとあり得ないですから。日曜日もどこかから見ていたんでしょう?」
私の中で、情報のかけらが繋がっていって、嬉しくない事実にぶつかる。ということは、あの日曜日のランチは仕事だったということだ。
「…………まんまと罠にかかったってわけね。じゃあ、その……私の気持ちももう分かってるのよね」
「いえ、そこだけが分からないんですよ。なぜ俺なんかをストーカーしたんです。それにわざわざ嘘の依頼なんて真似まで」
被害にあった側とはいえ、それを聞いちゃあいけないんじゃなかろうか。
それにそんなもの、探偵ではない私でも分かる。仲裁しようとしたのだけど、その前に
「好きだからよ」
と琴さんはストレートに告白した。
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