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3章

49話 思わぬ贈り物

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町人たちより一足先、俺たちはヤマタウンへと戻る。

町に帰ってきてすぐのところ、小さな女の子が全力で手を振り、こちらへ駆けてきた。

腹に力を込めて受け止めれば、

「やっぱりヨシュっち、ほんと頼りになるっ!!」

ルリが涙ながらに、しわくちゃの笑顔を見せていた。
その後ろ、ソフィアがそれを見守る。

彼女の目にも、ほんのりと光るものがあった。

「それで、疫病の方はこっちでも治ったのか?」
「うん! もうばっちりすぎ。急にみんなの体調が戻って、今はすっかり。
 ヨシュっちにお礼が言いたいの一点張りだよ。祝宴どころか、石像作りたいって人もいるくらい!」

……まさかヤマタウンでも、そんなことになっているとは。

ミリリがくすくす笑う。

「ヨシュア、目立ちたくないとか言ってられなくなったね?」
「……まぁ、幸いなのはここが田舎町ってことかな」

どれだけ噂されようが、普段活動拠点としているライトシティまでは届かないだろう、うん。

「それより、二人もありがとうな。色々と助かったよ」
「……ヨシュアくんの言うことなら、なんでもする」「ヨシュっち、それルリのセリフだし!」



「病人らの本復を、ヨシュアさまに感謝して…………乾杯!」

その後、二つの町合同での宴会は、実に派手に催された。

自然に恵まれ、畑を広げる土地だけはある。

並んだ料理には、地場の野菜がふんだんに使われて、もちろんチーズも種類豊富に並ぶ。

ミリリにとっては極楽空間、さぞ夢中になっているかと思えば、

「ど、どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」

なぜか、俺のそばを離れない。

「ううん、元気そのもの! だけどね……」
「だけど?」
「もう~、恥ずかしいけど言うよっ。私は、ヨシュアを取られたくないのっ。
 見て、あの子たち!」

ミリリが指差す先には、頬を染めていたり、髪を繕っていたり、とろんとした目を向ける町娘たちが、こちらを見ている。

完全に、俺はロックオンされていた。

目が合うと、あっという間に周りを囲まれる。

「わ、私を街に連れ出してくれませんか! 勇者さま!」
「そんな子より、あたしと。胸には自信があるんだけど、どう?」
「ちょっと抜け駆けはダメよ! ここは間をとって私を!」

なんだこれ、なんだこれ。

慣れない状況にも程がある。俺がタジタジしていると、後ろから、両腕を引かれる。

「ヨシュっち、モテモテ~! ちょっと妬いちゃうかも」
「ヨシュアぁ! だめだよっ。私の隣にいるって約束だよぉっ!!」

ルリに、ミリリだった。

とどめとばかり、俺の首にしなやかな腕が巻きついてくる。

「……ヨシュアくんは渡さない」

ソフィアだ。背後に柔らかなものが、しっかりあたる。
控えめながら、弾力はたしかな主張をしていた。

ソフィアの声は、きゃいきゃい黄色い声で満ちていた俺の周りを引き裂くかのよう。
端的に言えば、どす黒かった。

「マジのやつだ、目がマジだ……」「綺麗すぎて怖い、あの人」「あ、後にします~」

……なんだか分からないけれど、人払いができた。
 
おかげさま、ちょっと落ち着いたところで、俺はルリへ尋ねる。

「で、ルリは今後どうすんの」

前パーティーを辞めたときは、「急いで実家に帰らねばならないから」と言っていた。

その原因であった疫病が解決したのだ。再度考える必要があろう。

「んー、悩んでたんだけどー。もうちょっとヤマタウンに残ろうかなって」
「……そっか」

意外なことだった。
ルリのことだから、すぐにでも冒険に行きたがると思っていた。

「ヨシュっちのおかげで、そうしようかなって決められたんだよね。
 色んな人の治療してたら、ヒーラーとして町に残るのもアリよりかなって」

「…………それのどこに、俺のおかげがあるんだよ」

「全部じゃんか! 自分のヒールがまだまだなことにも気づいたし。なによりさぁ。
 今回、ヨシュっちのおかげで、たくさんの人を救えたじゃん? だから、その人たちの今後を守っていくのは、ルリの務めかな、って」

ルリはそこで言葉を切り、くるっと俺に背を向ける。

「…………あのさ、ヨシュっち。どう思う、この決断」
「ルリが決めたことなら、いいんじゃないの。応援するよ」
「じ、じゃあ!」

ルリは突然に再び振り返った。
つっと背伸びをしたかと思えば、手ずから渡されたのは、小さな包みだ。
中を開けてみれば、指輪がひとつ入っている。

「それが、ルリなりのヨシュっちへの応援! あと、ルリの気持ちというか……。あーもうわかんないけど! 本気だから!」

ルリが小さな足を目一杯広げ、どこへやら駆けていく。

「ママのバカ! 恥ずかしすぎじゃん!」

こんな悲鳴を上げていたから、恐らくルリママの入れ知恵だったのだろう。

「思わぬ敵…………。ルリ、油断ならない」
「ちょっとソフィアちゃん!? 目が笑ってないよっ!? 羨ましいのは分かるけど!」
「……………ミリリにも絶対渡さないよ、ヨシュアは」

祝福に包まれる一角、再び場が荒れ始める。

……えっと、単なる感謝だよな?

俺はなかなか落ち着かない胸を押さえつつ、そう思うのだった。





そして、その頃ーーーー
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