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3章

48話 知らぬ間に、町民全員に一斉ヒールを施していたようです。

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いまだべったり額を地面につけたままの町人たち。
俺は膝をついて、できるだけ友好的に呼びかける。

「あの、もう顔をあげてください。というか、立ち上がってください、みなさん。
 その偽物は捕らえてるんですよね?」
「は、はい! 手首を縛ったうえ、武器も奪っております!」

ひとまずは安心できる情報だ。
であるなら、優先すべきは彼ではない。

「もしまだ病に困っている人がいたら、俺がヒールしますよ」
「私も手伝いますよっ」

ひれ伏した町人たちの顔が、順々に上がっていった。

「ほ、本当ですか!?」
「こら、バカ! 白老狼様を従属させてる冒険者様だぞ! 嘘を言うわけあるまい!」
「お前こそ馬鹿だ! この方々はもはや冒険者様ではなく、英雄いや英傑様なのだぞ!? 呼び方に気を付けろ!」

そして謎の口論が始まるのだから、おかしい。

「英雄でも英傑でもないですよ、俺たちは」
「じ、じゃあ神様?」
「いえ。一介のレンタル冒険者ですから」

本物だよっ! とミリリが親指を立てる。
若干締まらないが、それもまた彼女らしくていい。

「では、英雄英傑のレンタル神様の方々! お、恐れながら、病人はこちらの集会所に連れてきてございます!」

もはや敬称なのかさえ分からぬ謎の呼び方をされつつ、案内を受ける。

そこで待ち受けていたのは、

「あ、あれ? さっきまでみんな苦しそうにしていたのに……。ほ、本当なんです、嘘じゃないんです!」

健康そのものとしか思えぬ町人たちであった。
回復を喜び合い、肩を抱き合っている。

ミリリの首が、キョトンと右に落ちた。

「どういうことなんだろう?」
「…………白老狼をヒールしたことで、町民たちの身体の水も浄化された……とか」
「ってことは、さ。ヨシュア、あの一瞬で、何百人をいっぺんにヒールしたってこと!?」

すごいっ! とミリリはその場で大ジャンプして飛び跳ねる。

それを漏れ聞いたのだろう。町人たちは口を揃えて言う。

「「あなた様は、救いの神だったのだ……!」」

いや、ただのレンタル冒険者なのだが。

もう言うのも面倒になってしまった。

俺たちが苦笑いをしていると、一人の老人が前へ出てくる。

代表してだろう、改めて深々頭を下げた。

「どうか。ささやかですが、お礼をさせてくださいませぬか」
「いや、そういうのは別に……。俺たち、ヤマタウンに帰らないといけない用があるので」
「な、なんと! ヤマタウンもお救いになられたのですか?!」

……まぁ、こうしてこの町の人々が元気にやっているということは、ヤマタウンの病人たちも本復していることだろう。

あえてなにも答えなかったが、老人は俺の態度から察したらしい。

「やはり、このまま、礼も返さぬのでは、我々としても収まりがつきませぬ。どうか。ヤマタウンとの合同開催でも結構でございます。
 祝宴を催させていただき、お食事などをご用意させてください」
「お、お、お、お食事!?」

……ミリリが、反応を示してしまった。

たぶん彼女に犬のような尻尾があったなら、全力で左右に振れていることだろう。

「左様です。山菜に、近くの高原で飼育している水牛から取ってきたチーズ、もちろん肉類も、惜しみなく使わせていただきますゆえ」
「水牛チーズ!!!??」

ミリリの目が爛々と踊りだす。
俺の袖をくいくいっと引いて、乞うように見つめる。

こうなったら、もう断れそうもない。

「……じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

俺の一言により、場は大きな盛り上がりを見せる。
祝宴の席はまだ先の話だというのに、今に踊り出しそうになっている人までいた。

町人の一人が咳払いをして言う。

「そうと決まれば、善は急げと言いますから。まずは、あの偽物を男爵様に突き出しましょう」

……そうだ、騒ぎに巻き込まれて危うく忘れかけていたが。

そもそもは、サンタナの動向を探りにきたのだった。
俺は、一応申し出る。

「そういうことなら、俺たちが引き渡してきますよ」
「いえいえ、そんな。英傑様のお手を、小者の処理で煩わせるわけにはいきません! もう抵抗する様子もありませんし、お任せください」

町人たちが頑なだったため、任せることにした。

去り際、サンタナが拘束されているという小屋を、一応覗かせてもらうこととする。

扉を少しだけ開いた時だ。

「ひぃぃ、すまなかった! 悪かったから!」

…………実に情けない声が響いてきて、そっと閉めた。

あの分なら、確かに抵抗もできまい。
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