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3章

42話 同じベッドで。

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日が暮れてしまえば、原因調査に乗り出すのも難しい話だった。

結局、俺たちは他に当てもなく、そのままルリの家に泊めてもらうこととなる。

「狭くて、ごめんね。普通の民家だから……」

ルリママはこう申し訳なさげにしていたが、そこを責められるわけもない。

だから誰が悪いというわけでもなく、起きてしまった問題だった。

「ルリの家さぁ、結構狭めなんだよね。だから、ルリの部屋入れても、空き部屋って二つしかなくて。
 ベッドも合計二個しか空いてないって感じなの」

部屋割りだ。
俺は、すぐに手をあげる。

「床でいいから、俺。というか廊下でもいいし、押し入れでもいい」

当然、こうなるべきだろう。
女子陣を差し置いて、俺がベッドを使うなど、おこがましい。

これで話は片付いたと思ったのだが、

「だめだよー、ヨシュア! ちゃんと寝なきゃ、腰痛めるよっ、身体休めないと。めっ、だよ」

お次は、ミリリが手をあげていた。

「うん。うちが床で寝る。ヒールできないし」
「だめだよ、ソフィアちゃん! 色々と役に立ってくれてるもん。
 それに、私は普段から床で寝ることもあるから、余裕だしっ!」
「ルリ的には、本当は三人ともに使って欲しいんだよねぇ。お客様だし!」

熱いベッドの譲り合い、いや床の奪い合いが始まってしまった。
やいのやいの、意見を交換した結果、

「ヨシュア、グーパーで分かれるよっ! それで、同じだった人と同室! ベッドは二人で使うの。
 えへへ、ミリリ賢いっ!」
「賢くないだろ…………! 俺も同じベッド使うのかよ」
「ん? そうだよ? それがどうしたの?」

いや、ほら、倫理的なアレじゃん。

「見て、ヨシュア! ソフィアちゃんとか、めーっちゃやる気だよっ! 満々だよ!」
「えぇ…………」

俺は、恐る恐る幼馴染の顔色を伺う。その口元が少しだけ動いていた。

「絶対うちがヨシュアくんと、絶対うちが絶対うちが……」

……やべぇ、あれは一晩中、匂いを嗅ぎにくる人間の顔だ。

なんとか回避したい。
糸口はないかと俺は懸命に探りだす。

「あら、楽しそうなお話してるわね。私も混ぜてもらおうかしら。狙うは……やっぱり特賞のヨシュアくん?」

……そこへ、まさかの参戦表明があった。ルリママが小躍りして混ざってくる。

待て待て、人妻はマジでまずい。

「えへへ! じゃあ、グーチョキパーに変更だねっ。みんな、いくよっ。せーのっ!」

俺の焦燥とは無縁、ミリリが号令をかける。
手を出さざるを得なかった。

えぇい、運にかけるほかない! 幸い、ルリママの参戦により、五人になった。
つまり、一人あぶれることができる。

俺が出したのはグー。
恐る恐る目を見開けば…………

「チョキって……えぇ、ママと寝るの!? ルリもう十七歳だよっ!?」
「あらあら、まだ十七よ。いいじゃない」

「…………外れ。パーなんて出すんじゃなかった」
「私はグーだっ! ということはー、ヨシュア♪    今日は一緒に寝ようねっ」

おいおいおい。

一人で寝られる、唯一の当たりくじを引いたのは、ソフィアだった(彼女はハズレだと思っているようだが)。

ミリリは、俺の手をとる。

「じゃあ行こっか! 今夜は寝かさないぜっ」
「まじで言ってる……?」
「うんっ。ベッドないなら仕方ないよ~! それにルールはルール! ヨシュアも早めに諦めなさいっ」
「そんな忠実に守るべきやつなのか、これ。もっと守ったほうがいいものあるんじゃね……」

俺の純情とか。

「もう決まったものは、決まったの! それとも! …………私と一緒に寝るの、そんなに嫌?」
「…………ずるいだろ、それ。嫌、じゃないけどさ」
「じゃあ問題なしだねっ!」

頭ひとつ分ほど下で、ミリリは会心の笑みを見せるのであった。
その瞳があまりに煌めいていたので、ちょっと魅入られたのは秘密だ。


もろもろの支度を整えて、就寝時間を迎える。

「や、やっぱりドキドキするよぉ」

ミリリは、ルリの寝巻きを借りたらしい。

サイズが絶望的にあっていないせい、色々と露出しそうな限界ぎりぎりなんだが……? とくに、胸の盛り上がりなどは、はちきれんばかりだ。

「……俺、やっぱり床で」
「だ、大丈夫だからっ! 一緒のベッド使おっ!」

そんなわけで、ベッドへ二人で入る。

火を消して消灯。
どうにかすぐにでも寝ようとするのだが、心臓がうるさい。

それが、やっと落ち着いてきた頃だ。

「ねぇ、ヨシュア。起きてるでしょ?」

ミリリが、口を開いた。

「…………な、なんだよ」
「えへへ。声が近いの、嬉しいかも」
「そ、そんなことの確認か?」
「ううん、違うよ」

毛布の下、探るようにして、手が握られる。
不安定な熱が流れ込んできた。

逃れようとするが、思いの外力強かった。

「改めて、ヨシュアに会えてよかったなぁって、今実感してたの。
 じわじわ胸が熱くなってね」
「…………それは俺も思うけど」
「じゃあある意味で両思いだっ、えへへ」

ぽん、と腕が一つ跳ね上げられた。

「ど、どうしてそんなこと言い出したんだよ、突然」
「私ずっと一人でレンタル冒険者してきたからさぁ。
 もしそのままだったら、絶対ここに来れなかっただろうなぁって、ふと思ってさ。困ってる人の力になれる機会が増えたんだよっ! 一人より二人、二人より三人。
 君が私の世界を広げてくれたんだ。
 そう思ったら、ちょっとね」

俺は、天井を見上げる。
自然、言葉は口をついていた。

「ミリリのおかげで、俺の方も随分広がったよ」
「そっか、嬉しい! これからも、隣にいてくれる?」

こくり、頷く。
見えていないかと思って隣を振り向けば、

「こ、これが一番近いねっ」

鼻先がふれる距離に、整った顔があった。危うく唇が触れかけて、俺は反射的に顔を反対へ向ける。

もは心臓の鼓動は、ベッドを揺らすまでになっていた。

「あ、あ、明日もしっかり頑張ろうねっ! ヨシュア」
「お、お、おう」

ミリリの方も、緊張し上がっていたようだ。

会話が途切れ、訪れた静寂。暗闇の中に、甘めの空気が漂う。

そこからミリリが寝つくのは、まぁ早かった。
規則的な呼吸、唾を飲む音、それらが間近で耳に入ってきて…………


公言通りといえば、そう。
本当に、俺はなかなか寝付けなかった。

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