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3章

41話 味方のピンチに新スキル?

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ルリは、すぐに診療室の外へと駆け出していく。

一人の老婦人を脇に伴って、意気揚々と戻ってきた。
手際良く症状やらを尋ねると、ベッドに寝かせる。

そして、その胸付近に手を当て、

「癒しの光よ、人の子を包め。回復治癒!」

ヒールを始めた。
ぽわっとした白い光に、部屋全体が包まれる。

「私もちょっとは活躍しないとね♪」

ミリリが魔導を用いてバフをかけることで、その輝きは思わず目を瞑ってしまうほどになっていた。

効果も、同様に強化されていたらしい。

「……おぉ、ずいぶん体が楽になったよ。ありがとうね、ルリちゃん。あなたたちも」

治療が無事に終わる。

身体をゆっくりと起き上がらせた老婦人に、俺は水を手渡した。
魔法により、生成したものである。

老婦人は、それをくいっと一息で飲み干す。

喉に詰まらせたりすることもなかったのは、ルリのヒールが、うまくいった証拠と言えよう。

「あんたの作る水は、美味いねぇ。久しぶりにこんなに美味しいのを飲んだよ」

にこり礼を返しつつも、さすがにそれは気のせいだろうと苦笑いせざるをえない。
……たぶん助けてもらったという意識が、そう思わせたのだろう。

一人の治癒が終わると、人を入れ替えて繰り返していく。
順番などの調整は、ソフィアが買って出てくれていた。

手の空いた俺は、ヒールの様子をよくよく観察する。

ひと段落したところで、ルリに声をかけた。

「なぁ、俺にも手伝わせてもらってもいいか」
「……えっ、ヨシュっちが? どうやって?」
「直接、ルリに魔力を流させてほしいんだ。実は、俺も光魔法は使えるんだ。ヒールスキル、習得したいなと思って」
「えぇっ、ルリびっくりなんだけど」

そういえば、これまでは『平均』だと思ってもらうため、全属性を使えることはルリにも伝えていないのだった。

「あれ、ということは………。ルリが教えるのっ、ヨシュっちに?」

ちょっと得意げな顔になっていたので、ここは気分を乗せてやることとする。

「おう、お願いします。ルリ師匠」
「いいひびきじゃーん、それ! いいよ、いいよ! にしても、師匠かー、ルリが師匠かぁ」

効果てきめんだったらしい。
いかにも嬉しそうに、ミリリの肩を揺する。

「いいなぁ私も光魔法ほしかったよ。ヨシュア、分けてー! 光分けて! 私にも、ソフィアちゃんにもー!!」
「属性が分けられるわけないだろー」

彼女は少し寂しげな顔になるが、無属性魔法のレパートリーに長けた魔道士。
彼女こそ、稀有な存在だ。

ミリリを含めて、俺たちは三人でのヒールを進めていく。

いわば、油を注ぎ続けた火と同じ。
ルリの魔法出力が衰えることはなく、順当なヒールがなされていく。

何度めかで、俺は自分のステータスを確認した。

_____________

冒険者 ヨシュア・エンリケ

レベル 375

使用可能魔法属性

火、水、風、土、雷、光

特殊スキル

俊敏(高)、持久(高)、打撃(高)、魔力保有(大)、広範探知(高)、目利き(高)、隠密(中)、【New!!】治癒(中)

ギフト
【無限変化】
あらゆる武器や魔法への適性を有する。
一定以上の条件が揃うと、スキルを習得可能。

武器別習熟度
短剣 SS
長剣 A
大剣 B
弓  B
ランス C
魔法杖 B
……etc

_____________
 
…………ヒールスキルの習得に、成功していた。

うん、ほんと【無限変化】さまさまである。

「ルリ、ありがとう。覚えられたみたいだ」
「はやっ!? じゃあもう師匠終わり!?」
「そうだなぁ、今日いっぱいはルリ師匠って呼んでやるよ」
「や、やぶさかではない!」

ヒーラーが二人になれば、格段にペースは上がった。

ルリの家を訪れていた人たちへの治療が、とんとん拍子で片付いていく。
そして、無事に最後まで捌ききった。

魔力はまだまだ余していたが、さすがに疲労もたまる。ふぅと俺がふぅと息を吐くと、他三人のそれも重なった。

そのときだ。
廊下を早い足音が近づいてくる。部屋の扉が、強く開け放たれた。
一人の少女が、部屋の中へと飛び込む。

「ルリ! あぁ、この人たちが言ってたレンタル冒険者って方ね?」

見た目は、ルリにそっくりだった。
少し服装が落ち着いているくらいで、実によく似ている。

挙動の大きさも、身長の小ささも瓜二つ。
ちょうど俺の腹にめり込みそうな頭の位置だ。

「ルリちゃんのお姉さん?」

ミリリが問うと、その少女は、まぁと頬に手を当てる。

「違いますよ、お世辞がうまい子ねぇ。私は、ルリのママ!」

…………少女ではなく、母だった。

俺たちは驚きから無言で顔を見合わせる。

ルリママは、随分と嬉しそうに、ふふと笑い続けていた。
彼女は、ぱちんと手を鳴らす。

「さ、ご飯用意するから、今日はもう終わりにしましょう? 嬉しいこと言ってくれたから、たくさん用意しちゃう!」

チーズのみならず、美味しいものに目のないミリリが、「はーい!!」と手をあげるまで、そう時間はかからなかった。

少しののち、食事の席へと移る。
父親は、近くの街までポーションの補充やらで出かけているらしく、不在にしているそうだった。

「それで、いつからこんなことになったんです? なにか心当たり、とかは?」

ロリママ、いや、ルリママの奮発した手料理に舌鼓を打たせてもらいながら、話を聞くこととする。

「豚のチーズトマト煮……! 魅惑のコンボ! もぐもぐ」

若干、ミリリの咀嚼音が気になるけれど。
うん、実際ルリママの料理はなかなかのものだが。
いつものことだと、俺はルリママと目を合わせた。

眉を少し落として、彼女はため息を吐く。

「それが、ここ最近急にこんなことになったんです。それで、ルリには帰ってきてもらったのよ。
 でも、不思議で。私たちはなんてことないのに、町の一部の人だけがあんな感じで揃って病気になっちゃって」

……たしかに、見たままの話だ。二人ともピンピンしている。
ルリパパも、街へ出向くくらいだから、元気そのものだろう。

「なにか変わったことがあったりしました?」
「いいえ、思い当たりません。普通に暮らしていただけで……。
 神獣さまの怒りだ~、なんて言ってる老人の人もいましたけど、それは迷信だと思います」

ルリママは、懐かしげにやや目を細める。

「今は幽霊町みたいですけど、元々は結構、畑作がさかんで、活気ある町だったんです」
「こ、このお料理の野菜も、この土地のものを使っているのですか」

ソフィアが口を挟む。
ルリと瓜二つの見た目のママさん相手だ。

こういう時は黙りこくるのが通例だが、少し話しやすかったのだろう。

ちょっと前のめりになって、ルリママは首を縦に振る。

「はい。大きな山の麓にあって、水も緑も豊かですから。元々は空気も綺麗なんですよー! それがなぜかこんなことに……。
 あ、そうだ。隣の町も、同じような状況になってるみたいなの」
「隣町まで、ですか」

色とりどりの料理が並んだ食卓の上に、うーんと黒めの唸り声が落ちてくる。

「まぁまぁ、とりあえず考えるのは後にしない? この感じだと、すぐに解決しそうにもないしっ!」

ミリリの明るい声が、それを引き裂いた。
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