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2章

32話 戻ってこい? 冗談だろ、誰が戻るものか。俺はすでに天職を見つけているから、もう遅い!!

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剣を交えたのは、ほんの一瞬だった。

鋼と鋼のぶつかり合う、甲高い音が辺りに響く。それはほんの一瞬のことだったが、

「……僕のソードが折れた…………だと?」

それで勝負はついていた。

柄のみになった剣を、信じられないといった顔つきで、サンタナは見つめる。
腕が剣の重さで痺れたのか、それさえ落としてしまった。

はっきり言おう。かなり手を抜いた。

魔力量が、剣技が、幼い頃から積んできた鍛錬の量が違う。

サンタナ相手に本気を出せば、万が一には命を奪いかねないのは、見るだけで、はかりとることができた。
こいつを刺した罪で捕まるなど、毛頭ごめんである。

ただそれでも、差は歴然だった。

「終わりでいいな?」

俺は、護身用のボロ刀を鞘へとしまう。

しばらくののち、サンタナはワナワナと震えだした。
壊れた仕掛け玩具のように、へらへらと笑いだす。

「な、なんのインチキを使ったというんだ、君! こんなこと、許されていいわけがなかろうっ! 僕が君に負けるわけがないっ!」

よっぽど認めたくないらしい。

決してインチキなどではないが、別にこれ以上、付き合ってやる義理もない。

心配なのは、二人の方だ。

俺が彼に背を向ければ、砂が擦れ、崩れ込む音がする。
振り見れば、サンタナが膝をついて、縋るように俺を見上げていた。

「……………認めるよ、認めようじゃないか。君は強い、とても強い。追放したのは僕の間違いだった!!
 だから、もう一度やり直そうじゃないか。
『彗星の一団』に戻ってくるといいさ! 歓迎しようじゃないか!」

必死に身振りを交え、訴える。

俺は目を瞑り、彼らとの日々に思いをやった。
たとえば、うまくいっていた頃に戻れたとして、どうするか。

深く考えるまでもなかった。

「悪いけど、戻る気なんて微塵もないよ。形はともあれ、追放してくれてよかったとさえ思うぐらいだ」
「……なん、だと?」
「もう、信頼できるバディがいるんだよ、俺には。天職だって見つかったんでな」

朝顔の刺繍が裾をひらりと翻し、俺は今度こそ小屋へと向かった。

いきなり、影から飛びつかれる。

天真爛漫全開なロリっ子ちゃんと、美を極めたような麗人。
腰に、タイプの違う美少女二人がぴっとり張り付いてしまった。

「ヨシュアくん、信じてた……!」
「ヨシュっちぃ!! 急にいなくなるから、ルリ、寂しかったんだよぉ。ソフィアに話は聞いてたけどぉ。
 助けに来てくれて、ありがとうっ!!」

じわり胸が熱くなる。

手当は、すでに終わったらしい。
そもそも早い段階で突入できたため、軽傷で済んでいたようだ。

「だーい人気だね。ちょっと妬いちゃうかも」
「……ミリリ。ありがとうな」
「ううん、力になれて嬉しい限りだよっ。えへへ。
 早かったね。お疲れ様っ」

ミリリが陰りの一切ない笑みを、俺の方へと向ける。

大して体力を使ったわけでもないが、その労いは素直に嬉しかった。

ミリリの笑顔はすごいな、と思う。
勝手にこちらが微笑んでしまうのだから。

「あ。聞こえてたよっ、パーティーに戻る気ないんでしょ? えへへ、私のこと信頼してくれてるんだねっ♪ 」
「なっ……」
「照れるな、照れるな~! 私も、ヨシュアをあんな奴のところに戻させる気なんてないよっ」

ミリリまでもが、俺の腰に抱きついてくる。

……さっきまでのことを思えば、平和ではあるが。
シリアスだったはずが、一息で空気が抜けた感覚に近い。

色々と常軌を逸しすぎでは? いや、幸せではあるけれど。

俺が半ば混乱していると、その時だ。
突然、地面が大きく揺れた。

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