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2章

18話 【side:サンタナ】追放した側は、クエスト失敗が連続した末に、泥沼へとしての道をいく。

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ヨシュアが新たな栄光の道を歩み始めた一方、『彗星の一団』は受難の時を迎えていた。

「……僕がこんなに任務を失敗するなんて、ありえない」

上級ギルドのラウンジ。
ホセ・サンタナは、顔をやりどころのない怒りに歪めて、拳を握りしめる。

連戦連敗が進行形で続いているのだから、無理もないことだった。

それも、不調は顕著なものだった。
クエストの対象魔物にたどりつくどころか、その序盤も序盤で阻まれるのだ。

原因不明。
サンタナはそう決め付けていたが、他のパーティーメンバーまでは、同じでなかった。

(…………ヨシュアくんがいないせいだ。うちらが勝ってたのは、影で守ってもらっていたから……)

とくに、ソフィアははっきり理由に気づいていた。
幼い頃から、ヨシュアのそばにいただけのことはある。
その超越的な強さは、身にしみて分かっていた。

けれど、言えばサンタナの気に触れるのは間違いない。

そう考えた末、なにも言い出せていなかった。

ちなみに、ルリは不在にしていた。
ヨシュアがいないことに不満を露わにして、打ち合わせをボイコットしたのだ。

それに、なにやら実家でイザコザがあったらしく、忙しそうにしていた。

「……だ、大丈夫さ。きっと次の任務はうまくいくに違いない! なにせ僕がいるんだ」

明らかに、パーティーの空気は淀んでいた。

このままでは、今に誰かが辞めると言いかねない。
サンタナは、それをひしひしと感じ取っていた。

「というか、うまくいかせないわけにはいかないだろ? 今残ってる二つの依頼は、ローズさんから貰ったんだから」

それゆえの、このセリフ。
ローズとは、『彗星の一団』を贔屓にしてくれている伯爵家の女性当主のことだ。

手製ポーションなどアイテムの支援もしてもらっており、頭が上がらない恩人である。
パーティーにとっては、裏切れない存在だ。

その名を出されたら、

「……それはそうだけど」

ソフィアは言葉を失わざるを得なかった。

ほとんど脅迫に近い形でしか繋ぎ止められないパーティー。
その時点で破綻しているのだが、サンタナはそれに気づけない。

「ならば、決まりだね。予定通り、クエストは執り行うことにしよう」

たとえ、パーティーのゆく先に大きな沼が待っていようとも、彼は気づかない。

こんな時に諭してくれたヨシュアは、もういないのだ。





打ち合わせ終わり。
気まずい空気に耐えかねたか、サンタナはさっさとラウンジを後にしていた。

ソフィアは一人、残される。

上級冒険者専用のフロアだけあって、間取りは広く取られていた。
内装は豪華絢爛、今座っているソファも、見たところ高級な革製だ。

けれど、

「……落ち着かない」

もたれかかってみても、しっくりこない。静かすぎて、逆に不安になる。
落ち着かず、ポケットの中、くたびれたハンカチを握る。
猫の絵が描かれた柄物だ。いつか、ヨシュアにもらったものである。

今の『彗星の一団』に、上級ほどの実力がないのは察していた。
本当に自分がこの場所にいていいのか、そういう思いもあった。

近くに置いていた武器や防具といった荷物をまとめ、外へと移動する。

下位の冒険者ラウンジを、なんの気無しに覗いた時だ。

「知ってる? レンタル冒険者ってサービスがあってねぇ。Aランク冒険者のミリリさんと、凄腕って噂のヨシュアさんが二人でやってるんだって!」
「え~、なにそれっ! 私もレンタルしてみようかなぁ」

こんな会話が耳に飛び込んできた。

気づけば身体が動いて、

「…………そのお話、く、詳しく聞かせへっ」

ソフィアは、彼女らに声をかけていた。

突然の別れ以来、会っていないヨシュアの情報である。どうしても、知っておきたかった。

精一杯の勇気を、これでも振り絞ったのだ。
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