11 / 14
11話 逃走
しおりを挟む
私は、まだ戸惑いのなかにいた。
ぺたりと腰を下ろしていた私の手を取り、アルフレッドは立ち上がる。
「どうして私だと分かったんだ、アルフレッド!! ちっ、ばれたものはしょうがない。お前ら、こいつらは必ずここで殺しなさい!」
そこでやっと、妹は遊びとやらを諦めたようだ。
舌打ち混じりに、配下らへと命じる。
「し、しかし、ソリアーノ家と問題になるのでは……」
「つべこべ言わないの。ソリアーノ家が攻めてきたから、返り討ちにした体にすれば問題ないわよ! 早く殺しなさい。あなたの殺人は、この家の栄誉になるのよ。殺した者には、いつ使用に困らないだけの金をやるわ。殺しなさい」
「は、はっ! かしこまりました!」
再び槍や刀が構えられるのだが、アルフレッドの方が早かった。
彼は、私の首下、膝下にそっと手を入れる。エライザの薄手な寝巻きを召していたのが災いした。
肌に触れられる感覚に肩をいからせていると、そのまま抱えられる。
「悪いけど、ここで死ぬわけにはいかないんだ。明日を迎えなくちゃ、俺は死んでも死なきれない」
とたんに視界が全面、煙で包まれた。
なにかと思えば、アルフレッドが煙幕玉を投げつけたらしい。
騒ぎになる寝室をあとにして、彼は駆け出す。
すぐに煙の中から追っ手が出てくるが、それらは彼の連れてきた兵士たちが相手をしてくれていた。
喧騒を背にして、アルフレッドは迷いなく屋敷の外へと駆けていく。
私はその胸元に抱えられながら、驚きっぱなしだった。
実感に欠けるが、何度瞬きしても、目を開けると真上には彼がいる。
「無事でよかったよ、バレッタ」
「えぇ、それはそうですけど。アル、なんでここにこられたの?」
まだ屋敷の中だけれど、追手は完全に振り切ることができたようだ。
普段はあまり使わない別棟に踏み入れていたこともあり、辺りに人の気配はもうない。
もう、これくらいは聞いても良かろう。
「部下に聞かされたんだよ。君の乗った馬車が襲われた話をね。口止めしていたらしいね? でも、もしバレッタが死んだら俺がどれだけ悲しむかを考えて、彼女たちが教えてくれたのさ」
「……あの子たち。そうだったのね」
「それから聞いたよ、化粧をして襲撃を回避した話。全く勇敢だな、俺のお姫様は」
「えっと、後先考えずに動いてごめんなさい、私ったら」
「いいよ。……と言いたいところだけど、正直頼ってくれなくて悲しいよ」
「えっと、頼らなかったんじゃなくてーー」
言う前に、
「頼りたくなかった、って言うんだろ。結婚するから夫に借りを作りたくなかった、とかそんなところだろう? 分かるよ」
言葉尻を攫われる。
「そんなことまで分かるのね」
「あぁ、俺が一番君を見てるからね。どうせ『もし俺を頼った結果、家同士の抗争になったら、俺がソリアーノ家から追い出されるかも』とか考えたんだろ」
図星のど真ん中だった。
そうやって、彼の重荷になるのだけは、どうしても避けたかった。
そうなってしまっては、何のために生きているのかもわからなくなる。
彼の迷惑だけにはなりたくない。なりたくなかったのに、
「気にすることはなかったのに。迷惑なんていくらでもかけてくれ。
君さえいてくれれば、僕はどんな形でもよかったんだ。例えば、この先ずっと誰かに追われるのだとしても。愛しく可愛い君と過ごせたら、それで十分さ」
彼はこんなことを言うのだ。
ぺたりと腰を下ろしていた私の手を取り、アルフレッドは立ち上がる。
「どうして私だと分かったんだ、アルフレッド!! ちっ、ばれたものはしょうがない。お前ら、こいつらは必ずここで殺しなさい!」
そこでやっと、妹は遊びとやらを諦めたようだ。
舌打ち混じりに、配下らへと命じる。
「し、しかし、ソリアーノ家と問題になるのでは……」
「つべこべ言わないの。ソリアーノ家が攻めてきたから、返り討ちにした体にすれば問題ないわよ! 早く殺しなさい。あなたの殺人は、この家の栄誉になるのよ。殺した者には、いつ使用に困らないだけの金をやるわ。殺しなさい」
「は、はっ! かしこまりました!」
再び槍や刀が構えられるのだが、アルフレッドの方が早かった。
彼は、私の首下、膝下にそっと手を入れる。エライザの薄手な寝巻きを召していたのが災いした。
肌に触れられる感覚に肩をいからせていると、そのまま抱えられる。
「悪いけど、ここで死ぬわけにはいかないんだ。明日を迎えなくちゃ、俺は死んでも死なきれない」
とたんに視界が全面、煙で包まれた。
なにかと思えば、アルフレッドが煙幕玉を投げつけたらしい。
騒ぎになる寝室をあとにして、彼は駆け出す。
すぐに煙の中から追っ手が出てくるが、それらは彼の連れてきた兵士たちが相手をしてくれていた。
喧騒を背にして、アルフレッドは迷いなく屋敷の外へと駆けていく。
私はその胸元に抱えられながら、驚きっぱなしだった。
実感に欠けるが、何度瞬きしても、目を開けると真上には彼がいる。
「無事でよかったよ、バレッタ」
「えぇ、それはそうですけど。アル、なんでここにこられたの?」
まだ屋敷の中だけれど、追手は完全に振り切ることができたようだ。
普段はあまり使わない別棟に踏み入れていたこともあり、辺りに人の気配はもうない。
もう、これくらいは聞いても良かろう。
「部下に聞かされたんだよ。君の乗った馬車が襲われた話をね。口止めしていたらしいね? でも、もしバレッタが死んだら俺がどれだけ悲しむかを考えて、彼女たちが教えてくれたのさ」
「……あの子たち。そうだったのね」
「それから聞いたよ、化粧をして襲撃を回避した話。全く勇敢だな、俺のお姫様は」
「えっと、後先考えずに動いてごめんなさい、私ったら」
「いいよ。……と言いたいところだけど、正直頼ってくれなくて悲しいよ」
「えっと、頼らなかったんじゃなくてーー」
言う前に、
「頼りたくなかった、って言うんだろ。結婚するから夫に借りを作りたくなかった、とかそんなところだろう? 分かるよ」
言葉尻を攫われる。
「そんなことまで分かるのね」
「あぁ、俺が一番君を見てるからね。どうせ『もし俺を頼った結果、家同士の抗争になったら、俺がソリアーノ家から追い出されるかも』とか考えたんだろ」
図星のど真ん中だった。
そうやって、彼の重荷になるのだけは、どうしても避けたかった。
そうなってしまっては、何のために生きているのかもわからなくなる。
彼の迷惑だけにはなりたくない。なりたくなかったのに、
「気にすることはなかったのに。迷惑なんていくらでもかけてくれ。
君さえいてくれれば、僕はどんな形でもよかったんだ。例えば、この先ずっと誰かに追われるのだとしても。愛しく可愛い君と過ごせたら、それで十分さ」
彼はこんなことを言うのだ。
57
お気に入りに追加
627
あなたにおすすめの小説
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます
音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。
調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。
裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」
なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。
後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。
くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~
バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。
幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。
「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」
その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。
そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。
これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。
全14話
※小説家になろう様にも掲載しています。
辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜
津ヶ谷
恋愛
ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。
次期公爵との婚約も決まっていた。
しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。
次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。
そう、妹に婚約者を奪われたのである。
そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。
そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。
次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。
これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる