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11話 逃走
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私は、まだ戸惑いのなかにいた。
ぺたりと腰を下ろしていた私の手を取り、アルフレッドは立ち上がる。
「どうして私だと分かったんだ、アルフレッド!! ちっ、ばれたものはしょうがない。お前ら、こいつらは必ずここで殺しなさい!」
そこでやっと、妹は遊びとやらを諦めたようだ。
舌打ち混じりに、配下らへと命じる。
「し、しかし、ソリアーノ家と問題になるのでは……」
「つべこべ言わないの。ソリアーノ家が攻めてきたから、返り討ちにした体にすれば問題ないわよ! 早く殺しなさい。あなたの殺人は、この家の栄誉になるのよ。殺した者には、いつ使用に困らないだけの金をやるわ。殺しなさい」
「は、はっ! かしこまりました!」
再び槍や刀が構えられるのだが、アルフレッドの方が早かった。
彼は、私の首下、膝下にそっと手を入れる。エライザの薄手な寝巻きを召していたのが災いした。
肌に触れられる感覚に肩をいからせていると、そのまま抱えられる。
「悪いけど、ここで死ぬわけにはいかないんだ。明日を迎えなくちゃ、俺は死んでも死なきれない」
とたんに視界が全面、煙で包まれた。
なにかと思えば、アルフレッドが煙幕玉を投げつけたらしい。
騒ぎになる寝室をあとにして、彼は駆け出す。
すぐに煙の中から追っ手が出てくるが、それらは彼の連れてきた兵士たちが相手をしてくれていた。
喧騒を背にして、アルフレッドは迷いなく屋敷の外へと駆けていく。
私はその胸元に抱えられながら、驚きっぱなしだった。
実感に欠けるが、何度瞬きしても、目を開けると真上には彼がいる。
「無事でよかったよ、バレッタ」
「えぇ、それはそうですけど。アル、なんでここにこられたの?」
まだ屋敷の中だけれど、追手は完全に振り切ることができたようだ。
普段はあまり使わない別棟に踏み入れていたこともあり、辺りに人の気配はもうない。
もう、これくらいは聞いても良かろう。
「部下に聞かされたんだよ。君の乗った馬車が襲われた話をね。口止めしていたらしいね? でも、もしバレッタが死んだら俺がどれだけ悲しむかを考えて、彼女たちが教えてくれたのさ」
「……あの子たち。そうだったのね」
「それから聞いたよ、化粧をして襲撃を回避した話。全く勇敢だな、俺のお姫様は」
「えっと、後先考えずに動いてごめんなさい、私ったら」
「いいよ。……と言いたいところだけど、正直頼ってくれなくて悲しいよ」
「えっと、頼らなかったんじゃなくてーー」
言う前に、
「頼りたくなかった、って言うんだろ。結婚するから夫に借りを作りたくなかった、とかそんなところだろう? 分かるよ」
言葉尻を攫われる。
「そんなことまで分かるのね」
「あぁ、俺が一番君を見てるからね。どうせ『もし俺を頼った結果、家同士の抗争になったら、俺がソリアーノ家から追い出されるかも』とか考えたんだろ」
図星のど真ん中だった。
そうやって、彼の重荷になるのだけは、どうしても避けたかった。
そうなってしまっては、何のために生きているのかもわからなくなる。
彼の迷惑だけにはなりたくない。なりたくなかったのに、
「気にすることはなかったのに。迷惑なんていくらでもかけてくれ。
君さえいてくれれば、僕はどんな形でもよかったんだ。例えば、この先ずっと誰かに追われるのだとしても。愛しく可愛い君と過ごせたら、それで十分さ」
彼はこんなことを言うのだ。
ぺたりと腰を下ろしていた私の手を取り、アルフレッドは立ち上がる。
「どうして私だと分かったんだ、アルフレッド!! ちっ、ばれたものはしょうがない。お前ら、こいつらは必ずここで殺しなさい!」
そこでやっと、妹は遊びとやらを諦めたようだ。
舌打ち混じりに、配下らへと命じる。
「し、しかし、ソリアーノ家と問題になるのでは……」
「つべこべ言わないの。ソリアーノ家が攻めてきたから、返り討ちにした体にすれば問題ないわよ! 早く殺しなさい。あなたの殺人は、この家の栄誉になるのよ。殺した者には、いつ使用に困らないだけの金をやるわ。殺しなさい」
「は、はっ! かしこまりました!」
再び槍や刀が構えられるのだが、アルフレッドの方が早かった。
彼は、私の首下、膝下にそっと手を入れる。エライザの薄手な寝巻きを召していたのが災いした。
肌に触れられる感覚に肩をいからせていると、そのまま抱えられる。
「悪いけど、ここで死ぬわけにはいかないんだ。明日を迎えなくちゃ、俺は死んでも死なきれない」
とたんに視界が全面、煙で包まれた。
なにかと思えば、アルフレッドが煙幕玉を投げつけたらしい。
騒ぎになる寝室をあとにして、彼は駆け出す。
すぐに煙の中から追っ手が出てくるが、それらは彼の連れてきた兵士たちが相手をしてくれていた。
喧騒を背にして、アルフレッドは迷いなく屋敷の外へと駆けていく。
私はその胸元に抱えられながら、驚きっぱなしだった。
実感に欠けるが、何度瞬きしても、目を開けると真上には彼がいる。
「無事でよかったよ、バレッタ」
「えぇ、それはそうですけど。アル、なんでここにこられたの?」
まだ屋敷の中だけれど、追手は完全に振り切ることができたようだ。
普段はあまり使わない別棟に踏み入れていたこともあり、辺りに人の気配はもうない。
もう、これくらいは聞いても良かろう。
「部下に聞かされたんだよ。君の乗った馬車が襲われた話をね。口止めしていたらしいね? でも、もしバレッタが死んだら俺がどれだけ悲しむかを考えて、彼女たちが教えてくれたのさ」
「……あの子たち。そうだったのね」
「それから聞いたよ、化粧をして襲撃を回避した話。全く勇敢だな、俺のお姫様は」
「えっと、後先考えずに動いてごめんなさい、私ったら」
「いいよ。……と言いたいところだけど、正直頼ってくれなくて悲しいよ」
「えっと、頼らなかったんじゃなくてーー」
言う前に、
「頼りたくなかった、って言うんだろ。結婚するから夫に借りを作りたくなかった、とかそんなところだろう? 分かるよ」
言葉尻を攫われる。
「そんなことまで分かるのね」
「あぁ、俺が一番君を見てるからね。どうせ『もし俺を頼った結果、家同士の抗争になったら、俺がソリアーノ家から追い出されるかも』とか考えたんだろ」
図星のど真ん中だった。
そうやって、彼の重荷になるのだけは、どうしても避けたかった。
そうなってしまっては、何のために生きているのかもわからなくなる。
彼の迷惑だけにはなりたくない。なりたくなかったのに、
「気にすることはなかったのに。迷惑なんていくらでもかけてくれ。
君さえいてくれれば、僕はどんな形でもよかったんだ。例えば、この先ずっと誰かに追われるのだとしても。愛しく可愛い君と過ごせたら、それで十分さ」
彼はこんなことを言うのだ。
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