2 / 14
2話 私と妹と劣等感
しおりを挟む
♢
襲撃犯の正体は、わかっていた。
そもそも私の周りには、明白な敵がいたのである。
それは異母妹であるエライザ・レニスだ。
幼い頃から私は、彼女と比べられては劣等感を覚えさせられ続けてきた。
『あぁ、妹のエライザ様は可愛らしい顔立ちで愛嬌もあるというのに。バレッタ様は、なんて平凡……いいえ、それ以下のお顔なんでしょう』
『しっ、聞かれたら首が飛ぶわよ! でもまぁ、平民や下人の中に混じってても分からないレベルよねぇ』
昔から何度、周りの貴族からこんな評価を聞いたことか。
本人からも、何度も馬鹿にされてきた。
姉妹と思われたくないから、近寄るなと手を払われ目をすがめられたことさえある。
たぶん、流れる血からして違うのだろう。
エライザは、身分こそ低いが容姿の美しい側室の子である。
幼い頃から私より容姿端麗で、そのぶん、周りから愛されやすい少女だった。
父であるレニス公爵も、彼女のことを明らかに溺愛していた。
他の兄弟たちと比べても、その愛情の注ぎ方は異常だった。
そして、醜い私には逆にほとんど向けられなかった。
私の母が既に亡くなっていたということもあろう。
構ってやる理由がなかったのかもしれない。
子供だった私は、それが不服で仕方なかった。
ただ、私は僻むだけで終わるような性格ではなかったらしい。
そこから愛されるための努力を始めた。
身だしなみや所作、言葉遣いを必死に学び、令嬢としてふさわしい振る舞いをするよう常に心がけた。
もちろん、美しさの追求も例外ではない。
綺麗になるため化粧の技術や、身体のラインを美しく見せる工夫を、使用人のメイドから教わって磨き上げた。
「エライザ様と変わらぬくらいに美人になられて!」
だなんて、社交の場で褒められるまでになったのだけど。
努力むなしく、父の愛はやはりエライザだけに注がれ続けた。
そればかりか、
「妙なことはやめろ、バレッタ。お前の美しさは所詮、作りものだろう。エライザとは違う」
こう断じられてしまった。
以来、化粧道具などの諸々を取り上げられた私は、再び不細工令嬢と蔑まれるようになった。
まるで見せ物のように、嘲笑われる。
家の中でも、その扱いは変わらない。
妹・エライザだけが、宝のように大事にされ、お姫さま扱いを受けていた。
私にはほとんど発言権もないのに、エライザの願いはその大体が聞き入れられる。
成長して婚約話が出るような歳になっても、それは全く変わらなかった。
彼女は、見目も身分も麗しい結婚相手を求め、父はそのために奔走した。
彼が取り付けた中には、王子や地方辺境伯子息との縁談もあったと言う。
一方の私は、エライザよりふたつ上の歳ということもあった。
その頃には既に、アルフレッドとの婚約が決まっていた。
むろん、私にはなんの発言権もなく、決定事項として突然に与えられたのだ。
アルフレッドは、ソリアーノ公爵家の第七子息である。
家柄こそ高いが、その中での序列は低い。
たぶん私の残念な容姿を鑑みて、ちょうど釣り合うと考えられたのだろう。
結婚は、家のためにするもの。
そう思っていた私は、特に反抗することもなくその縁談を受け入れた。
むしろ、向こうから断られないかが心配だった。
私にあるのは、公爵家の長女だと言うこの身分だけ。
他のものはなにも持ち合わせていないし、誇れるような妻には、きっとなれっこない。
これまで蔑まれ続けて生きてきたせいだろう。
わずかの自信すら持たなかった私は、たぶん全く可愛げがなかった。
心を閉ざし殻に閉じこもった、お世辞にも見目の良くない令嬢。
厄介な存在でしかなかったろう私を変えたのは、
「あなたと、ちゃんと話をしてみたい。ずっとそう思っておりました」
婚約者アルフレッドの包み込むような優しさであった。
襲撃犯の正体は、わかっていた。
そもそも私の周りには、明白な敵がいたのである。
それは異母妹であるエライザ・レニスだ。
幼い頃から私は、彼女と比べられては劣等感を覚えさせられ続けてきた。
『あぁ、妹のエライザ様は可愛らしい顔立ちで愛嬌もあるというのに。バレッタ様は、なんて平凡……いいえ、それ以下のお顔なんでしょう』
『しっ、聞かれたら首が飛ぶわよ! でもまぁ、平民や下人の中に混じってても分からないレベルよねぇ』
昔から何度、周りの貴族からこんな評価を聞いたことか。
本人からも、何度も馬鹿にされてきた。
姉妹と思われたくないから、近寄るなと手を払われ目をすがめられたことさえある。
たぶん、流れる血からして違うのだろう。
エライザは、身分こそ低いが容姿の美しい側室の子である。
幼い頃から私より容姿端麗で、そのぶん、周りから愛されやすい少女だった。
父であるレニス公爵も、彼女のことを明らかに溺愛していた。
他の兄弟たちと比べても、その愛情の注ぎ方は異常だった。
そして、醜い私には逆にほとんど向けられなかった。
私の母が既に亡くなっていたということもあろう。
構ってやる理由がなかったのかもしれない。
子供だった私は、それが不服で仕方なかった。
ただ、私は僻むだけで終わるような性格ではなかったらしい。
そこから愛されるための努力を始めた。
身だしなみや所作、言葉遣いを必死に学び、令嬢としてふさわしい振る舞いをするよう常に心がけた。
もちろん、美しさの追求も例外ではない。
綺麗になるため化粧の技術や、身体のラインを美しく見せる工夫を、使用人のメイドから教わって磨き上げた。
「エライザ様と変わらぬくらいに美人になられて!」
だなんて、社交の場で褒められるまでになったのだけど。
努力むなしく、父の愛はやはりエライザだけに注がれ続けた。
そればかりか、
「妙なことはやめろ、バレッタ。お前の美しさは所詮、作りものだろう。エライザとは違う」
こう断じられてしまった。
以来、化粧道具などの諸々を取り上げられた私は、再び不細工令嬢と蔑まれるようになった。
まるで見せ物のように、嘲笑われる。
家の中でも、その扱いは変わらない。
妹・エライザだけが、宝のように大事にされ、お姫さま扱いを受けていた。
私にはほとんど発言権もないのに、エライザの願いはその大体が聞き入れられる。
成長して婚約話が出るような歳になっても、それは全く変わらなかった。
彼女は、見目も身分も麗しい結婚相手を求め、父はそのために奔走した。
彼が取り付けた中には、王子や地方辺境伯子息との縁談もあったと言う。
一方の私は、エライザよりふたつ上の歳ということもあった。
その頃には既に、アルフレッドとの婚約が決まっていた。
むろん、私にはなんの発言権もなく、決定事項として突然に与えられたのだ。
アルフレッドは、ソリアーノ公爵家の第七子息である。
家柄こそ高いが、その中での序列は低い。
たぶん私の残念な容姿を鑑みて、ちょうど釣り合うと考えられたのだろう。
結婚は、家のためにするもの。
そう思っていた私は、特に反抗することもなくその縁談を受け入れた。
むしろ、向こうから断られないかが心配だった。
私にあるのは、公爵家の長女だと言うこの身分だけ。
他のものはなにも持ち合わせていないし、誇れるような妻には、きっとなれっこない。
これまで蔑まれ続けて生きてきたせいだろう。
わずかの自信すら持たなかった私は、たぶん全く可愛げがなかった。
心を閉ざし殻に閉じこもった、お世辞にも見目の良くない令嬢。
厄介な存在でしかなかったろう私を変えたのは、
「あなたと、ちゃんと話をしてみたい。ずっとそう思っておりました」
婚約者アルフレッドの包み込むような優しさであった。
85
お気に入りに追加
673
あなたにおすすめの小説
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

完結 穀潰しと言われたので家を出ます
音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。
「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」
遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。
こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。
その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます
音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。
調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。
裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」
なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。
後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる