妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】

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2話 私と妹と劣等感

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襲撃犯の正体は、わかっていた。

そもそも私の周りには、明白な敵がいたのである。
それは異母妹であるエライザ・レニスだ。


幼い頃から私は、彼女と比べられては劣等感を覚えさせられ続けてきた。

『あぁ、妹のエライザ様は可愛らしい顔立ちで愛嬌もあるというのに。バレッタ様は、なんて平凡……いいえ、それ以下のお顔なんでしょう』

『しっ、聞かれたら首が飛ぶわよ! でもまぁ、平民や下人の中に混じってても分からないレベルよねぇ』

昔から何度、周りの貴族からこんな評価を聞いたことか。

本人からも、何度も馬鹿にされてきた。
姉妹と思われたくないから、近寄るなと手を払われ目をすがめられたことさえある。


たぶん、流れる血からして違うのだろう。
エライザは、身分こそ低いが容姿の美しい側室の子である。

幼い頃から私より容姿端麗で、そのぶん、周りから愛されやすい少女だった。

父であるレニス公爵も、彼女のことを明らかに溺愛していた。
他の兄弟たちと比べても、その愛情の注ぎ方は異常だった。


そして、醜い私には逆にほとんど向けられなかった。
私の母が既に亡くなっていたということもあろう。
構ってやる理由がなかったのかもしれない。


子供だった私は、それが不服で仕方なかった。
ただ、私は僻むだけで終わるような性格ではなかったらしい。


そこから愛されるための努力を始めた。

身だしなみや所作、言葉遣いを必死に学び、令嬢としてふさわしい振る舞いをするよう常に心がけた。

もちろん、美しさの追求も例外ではない。
綺麗になるため化粧の技術や、身体のラインを美しく見せる工夫を、使用人のメイドから教わって磨き上げた。

「エライザ様と変わらぬくらいに美人になられて!」

だなんて、社交の場で褒められるまでになったのだけど。


努力むなしく、父の愛はやはりエライザだけに注がれ続けた。

そればかりか、

「妙なことはやめろ、バレッタ。お前の美しさは所詮、作りものだろう。エライザとは違う」

こう断じられてしまった。


以来、化粧道具などの諸々を取り上げられた私は、再び不細工令嬢と蔑まれるようになった。
まるで見せ物のように、嘲笑われる。

家の中でも、その扱いは変わらない。


妹・エライザだけが、宝のように大事にされ、お姫さま扱いを受けていた。
私にはほとんど発言権もないのに、エライザの願いはその大体が聞き入れられる。


成長して婚約話が出るような歳になっても、それは全く変わらなかった。

彼女は、見目も身分も麗しい結婚相手を求め、父はそのために奔走した。
彼が取り付けた中には、王子や地方辺境伯子息との縁談もあったと言う。


一方の私は、エライザよりふたつ上の歳ということもあった。

その頃には既に、アルフレッドとの婚約が決まっていた。
むろん、私にはなんの発言権もなく、決定事項として突然に与えられたのだ。


アルフレッドは、ソリアーノ公爵家の第七子息である。

家柄こそ高いが、その中での序列は低い。
たぶん私の残念な容姿を鑑みて、ちょうど釣り合うと考えられたのだろう。

結婚は、家のためにするもの。
そう思っていた私は、特に反抗することもなくその縁談を受け入れた。


むしろ、向こうから断られないかが心配だった。

私にあるのは、公爵家の長女だと言うこの身分だけ。
他のものはなにも持ち合わせていないし、誇れるような妻には、きっとなれっこない。

これまで蔑まれ続けて生きてきたせいだろう。
わずかの自信すら持たなかった私は、たぶん全く可愛げがなかった。


心を閉ざし殻に閉じこもった、お世辞にも見目の良くない令嬢。
厄介な存在でしかなかったろう私を変えたのは、

「あなたと、ちゃんと話をしてみたい。ずっとそう思っておりました」

婚約者アルフレッドの包み込むような優しさであった。
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