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彼と彼女の前世

-6-彼の前世

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しまった、と思った時にはもう遅かった。

どうしようもない俺の醜い嫉妬で、を傷つけてしまった。

俺はなんて小さい男なんだろう...ただ、彼女が弟と仲良くサプライズを計画しているだけだというのに、2人っきりでなにかしていると思うと、嫉妬の、気持ちが膨れ上がって、誤解してしまった。

それに彼女を傷つけたかったわけじゃない。

もう、失うのが怖いんだ...。

彼女が俺を愛せば彼女は辛い思いしかできなくなる。

だから今世では精一杯嫌われる努力をしてきた。

だというのに...


どうして麗、お前は俺に寄り添おうとするんだ。

前世の俺にはもう飽きたのか?

俺が俺でなくてもそう寄り添おうと、そのひまわりのような明るい笑顔を他の男に向けるのか?

俺の中に湧き出る感情は黒くて、自分でも気持ち悪くなるようなものだった。

こんな感情を抱いていると言えば、幻滅されるかな...


それとも...

喜んでくれたり、

なんて。

ありもしない妄想を膨らませた。



カミルは...俺からみても優秀だった。

一度だけ、彼女、ルネリアからカミルの勉強を見てくれるように言われて、仕方なく受けたことがあった。

その時のカミルの優秀さといえば、一度習ったことは全て暗記するようなスピードの物覚えだった。

言葉遣いも完璧で、無邪気な笑顔でひとをたらしこむ。

だけど、麗を見る目が弟の目ではないことは分かっている。

だから...尚更焦る。

いや、俺はなにを焦るのだろう。

彼女が俺以外と結ばれて幸せになれるならそれでいいではないか。

あいつなら100%ルネリアを幸せにできるだろう。

だというのに...

なんなんだ、この胸の痛みは。



そんなカミルの青い瞳は段々と、成長するにつれ、紫に近づいていった。

紫色の瞳...それが意味するのは、

『王族』

俺はルネリアと同じく、公爵家だが、もしカミルが本物の王族なら...本当に彼女をとられてしまうかもしれない、なんて未だに彼女を想い続ける心の底が言っていた。



しばらくして事件は起こる。

嫌な胸騒ぎがしたのだ、彼女が何処かで辛い思いをしているんじゃないかと、ふと脳裏に冷たい彼女の死体が頭を過ぎる。

俺は気づけば馬を走らせていた。

いつもなら、俺がルネリアの方の屋敷に行くのに、今日はルネリアが俺の屋敷に来る。

そしてしばらくして何事もなく走っているルネリアの乗る馬車を見つけた。

よかった...

なぜかそのことが俺を酷く安心させた。

と、思った次の瞬間。

ニヤリと御者が気持ち悪く微笑んだ。

「麗っ!」

俺は久しぶりにその名前を呼んだ。

その時にはすでに...

ルネリアの乗った馬車は激しく波打つ海へと放り出されていた。
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