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それから私は元の部屋に戻ろうとしたのだが、殿下に止められてしまった。

「流石に俺も一緒にここで住むのは無理かもしれないが、あそこの部屋よりここの部屋の方が俺の部屋に近いだろう。今度からはここの部屋を使ってくれて構わない」

これは...どういうことなのだろうか。

正直どうして殿下の部屋に近い方がいいのかがわからないけど、多分殿下なりの配慮なんだと思う。

こっちのベットの方が寝心地いいし、誰も使ってないみたいだし...

ちょっとだけなら構わないよね。

「ではそうさせていただきます」

「ああ。」

殿下は私がそう答えると安心したように、嬉しくてたまらないように微笑んだ。

——ドキッ。

私は不意打ちのイケメンスマイルに柄にもなく少しドキッとしてしまった。



それから、一応形だけの花嫁だというのに、勉強やら、なんやらはあまりなかった。

やっぱり私はそんな授業などすらも、受ける権利がないというのか...。

私はたまに部屋に遊びにきている殿下にそっと相談した。

初日のようなギクシャクした堅い雰囲気は溶け、今は良き友人のような関係になっている。

「殿下...私は一応、殿下の婚約者な訳なんですが...その、恥ずかしながら自国ではあまり、勉強を受けていなくて、特にマナーとダンスについては...それで、ここでレッスンを受けさせてもらうことはできないでしょうか?その機会がもし、もしあって、失敗してしまったら、殿下の名に傷がつくでしょう?」

気をつけてはいるが、なにかものをねだるような言い方になってしまう。

嫌な女だと思われたかな?

「...すまない、不安にさせていたのだな。今はリリーローズはこっちにきたばっかりだから、いきなりそういうことをさせたらまた倒れてしまうかもと思って、先延ばしにしていたんだ...幸いにも、不幸にも、この結婚は無期限だ。だからいくらでも時間がある。こっちに慣れてからゆっくり進めればいい」

私は優しくて、柔らかい物言いに少しびっくりしてしてしまった。

なんだか変に感じてしまう。

私は不敬だとは思いながらもこの気持ちを伝えた。

「...殿下は何かかわられましたね。最初来た時とは全然違っていらして....最近の殿下は謝ってばっかりです。殿下がそんなに頭を下げてはいけませんのに」

私は頑張って淑女に見えるように、言葉遣いに気を使った。

つもりだった。

「その喋り方...無理をしていないか?俺の前なのだから、気にしなくていい。」

殿下はどこまでも優しいのだな、と思った。

そういえば、お母様の手紙には、国王さま、つまり殿下のお父様を頼れということだよね。

お母様が頼れという人ならきっと悪い人じゃない。

ということは、その人の息子である殿下も悪い人ではないのかもしれない、

私の心の中からは、最初の『冷たくて無愛想な人』という印象はすべて消し去られていた。



そして、終わった話を掘り返すのが、この馬鹿な私...

「その、惚れ薬についてなんですが...」

殿下は思い出して、ハッとしたような顔の次に、少しその美しい顔を歪める。

「も、持ち込んだのは悪いと思います。でも、あれは亡くなった母の形見とも言えるものなのです。どうか許してください」

「わかっている。リリーローズを責めているわけじゃない。そっちにも事情があるんだろ。こっちこそ、知らない事情に首を突っ込んで悪かったな」

...先ほどの私の言葉を聞いていなかったのか?

「だーかーら...殿下はそんなに簡単に人に頭を下げてはいけませんってば...」


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